【インタビュー】第10回: 浜中康子先生 「バロック・ダンスへのご招待」

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2006/10/13

hamanaka_web.jpgセミナー講師インタビューも、連載はや10回目。今回は、バロック舞曲を専門に多方面でご活躍中の、浜中康子先生をお迎えします。メヌエットやガヴォットなど、バロック舞曲は今日のレパートリーの中では御馴染みのジャンルですが、バロックダンスを実際に学ぶことで、実際のピアノ演奏や指導にどう関わってくるのか、また、楽譜を超えた音楽とは何なのか、など、色々とお伺いしてきました! 

バロックダンスと言うとまだまだその道の専門家が少ない印象がありますが、先生は昔からこの分野を専門に勉強されていたのですか?

「大学を卒業してすぐ、ソ連や東欧への音楽教育視察旅行に行く機会があり、ポーランドで見たマズルカやポロネーズなどの舞曲に、たいへん興味を持つようになりました。そんなきっかけで大学院では、ピアノの演奏に生かせるリズム感の体得ということをずっと考えていました。

その後、ウィーン古典舞踊団を率いていらしたウィーン国立大学のE.カンピアヌ教授と出会い、また、ヨーロッパに留学していた古楽奏者の方が日本で開いた講習会への参加などを通して、『ピアノ教育におけるリズム感の育成~古典舞踊を用いて~』を修士論文のテーマにすることに決めました。」

講座では、実際にダンスそのものを教えられていますよね。バロックダンスの歴史的背景だけでなく実技の方も、その時学ばれたんですか?

「大学院3年生の時に、どうしても本場でダンスを習ってみたいと思い、ヨーロッパを3ヶ月、旅しました。ロンドン、ウィーン、バーゼル、パリ...とヨーロッパを周って、現地の学校でバロックダンスの授業を受けたり、著名な先生方のレッスンを受けることが出来ました

ただ、大学院卒業後、ピティナで何回か講習会のお話を頂いた時、短期間学んだだけのことを他の方にお教えすることを心苦しく思っていたんです。それで、スタンフォード大学で、故・W.ヒルトン先生によるバロックダンスの講座が定期的に開かれていることを知り、かれこれ20年間ぐらい、アメリカに通いました。毎年夏に2週間開かれる集中講座なのですが、実際、向こうで2週間かけて学んだことも、自分なりに整理してまとめてしまうと、1回の講座で終わってしまう...。そんなことを繰り返しているうちに、この道にはまってしまった、という感じです。

また、そのような勉強をするうちに、音楽の感じ方や楽譜の見方が全然変わってきて、演奏の世界も広がってくる。そして、ピアノを弾くことが楽しくなってきたんです。」

具体的には、どのような変化が?

「楽譜って、音符の長さや高さを示すための、記号だけじゃないってことに気付いたんです。その曲のルーツとしての動きを知ることで、音と音との間にどんな動きや空気があるのかを考えて弾くようになりますね。
『弾く前にちゃんとブレスを取ってから始めなさい』、『一小節分のテンポや音楽をきちんと考えながら弾きなさい』...当たり前に言われていることですが、なかなか出来ないですよね。でも、ダンスだったら、ジャンプしようと思ったら必ず一旦ひざを曲げないと出られない。楽譜上でのアウフタクト(=弱泊)は実感しにくくても、ダンスでのアウフタクトを実際に体験すると、絶対に準備の動作がなければ、一歩目は出せないということが体感できます。この様に、演奏へのアイディアやヒントがたくさん得られるのです。

私は、授業である程度ステップを出来るようになってから、生徒には、自分の専攻の楽器でステップに合わせて舞曲を弾かせます。でもそれは、踊りやすいテンポが演奏としても一番良いとか、故楽器奏法の勧めというつもりはなく、そこからどういうヒントを得られるかを大切にして欲しいのです。どういう動きで弾くことが、この曲には本当に必要なのか、当時のダンスのステップや、それに適するリズムがどういうものなのか...そういうことを体験するのとしないのとでは、演奏が違ってくる。その上で、バロックの曲をモダンなスタイルで弾きたいのなら、それはそれで良い。でも、『先生がこう言ったから』とか『一般に通用する弾き方だから』という理由で演奏するのは、つまらないじゃないですか。新しい楽譜を見た時には、色々なイメージを持てるようにあってほしい。そのために、ダンスを知ると言うのは一つの手立てだし、もちろん当時の歴史を知ったり、絵画を見たりするのもそう。そういう引出しや、アプローチの仕方をいっぱい持っていると、自分の演奏も、教える時の言葉の表現も豊かになりますよね。」

先生ご自身はダンスだけでなく、当時の歴史背景や文化のことなども勉強されているのでしょうか?

「不思議なもので、昔は世界史なんて大嫌いで、人物の名前とか絶対覚えられなかったのに、自分がこういう分野を勉強していると、色々と当時のことが引っかかってくる。そうすると、自然に覚えられるんですよ。だから、バロック時代の建築や造園についても、貴族社会についても、そしてワインの歴史も(笑)、色々な形で舞曲と結びついていて、本を読んでるだけでもすごく面白いんです。

どのような音楽の形式を教えるにしても、『音楽だけがそこに存在していたわけじゃない』ということを子供達に伝えるのは大切だと思います。どんな人が、どんな空気の中で、何を食べて、何を考えて、踊ったり演奏したりしていたのか。それが、曲の中に存在している。例えばダンスって、今では健康のためや、趣味で踊る人が多いですが、貴族の社会では違う。命がけなんです。舞踏会で大失敗しちゃって、その後宮廷に出られなくなった公爵の回想録が今でも残っているぐらい、その人の社会的ステータスや評価に関わる問題だったんですよ。だから、当時は舞踏会で踊るための舞踏譜集というものが毎年出版されていて、男性は、常に12曲ぐらい、その中からレパートリーを持っていないといけなかった...。そのように、なんのためにダンスや音楽が存在していたのかを知ることによって、その曲に対してすごくイメージが湧くし、楽しいですよね!

逆に、その音楽を生んだ楽器や文化のことを何も知らないと、バロック音楽と古典派の音楽の本当の違いなどわからないと思います。バッハとモーツァルトとベートーヴェンとショパンをそれぞれに弾けて表現できるには、体感的にも知識的にも、様式をちゃんと理解することが大切だと思います。ですから、音楽を教えるって、結局は様式を伝えることだと私は思っています。」

ありがとうございました!


音楽の道を進むということは、演奏家であっても指導者であっても、なんらかの苦悩や迷いがつきものですが、そんなことを一切感じさせない浜中先生。インタビュー中はずっと楽しそうで、きらきらとした表情が印象的でした。(特に、大好きなワインのことを語っていらした時は、聞いているこちらまで楽しくなってきてしまうほどでした!)

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