【実施レポ】第8回: 杉山智恵子先生 「打楽器で探そう、ピアノの色?!」

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2006/09/29

sugiyama_chieko1.jpgインタビュー第8弾は、打楽器奏者・リトミック国際サティフィケート取得者として、演奏活動、セミナー講師、コンサート司会など、多方面で活躍中の杉山智恵子先生をお迎えします。ピアノ演奏をより深く理解するために、打楽器やリトミックを学ぶべき理由とは?また、先生が渡米してまで学んだリトミックの音楽的な目的や効果など、音楽に関わる方、全員必読です! 

先生が打楽器に興味を持たれるようになった経緯を教えてください。

「私の打楽器との出会いは、高校の時でした。ある日、芸大から打楽器の先生が教育実習でいらっしゃる、と言うお話を聞いて、本当にワクワクしましたね。その時の感動をきっかけに、元々専門だったピアノから、打楽器へと方向転換したんです。

打楽器の魅力は、まだまだ発展途上の楽器であることだと思います。元々は原始時代の通信の道具として誕生した後に、祭礼の道具になったりするうちにどんどん改良されてきて、オーケストラの1パートを担うようになった。ここ20年程は、ソロやアンサンブルでのコンサートが開催される程に発展してきたわけですが、楽器としてまだまだ可能性があるし、終わりがない。すごい楽器だと思います。」

その後、打楽器を専門にずっと活躍されてきたわけですね。

「そうですね。大学卒業後も打楽器の演奏家として活動してきて、色々な学校で教鞭も取って来ました。そうするうちに、約10年前に、人生においてのもう一つの大転機がやってきたんです。それが、ダルクローズリトミックとの出会いです。

リトミックは学生の頃から名前は知っていて、興味はあったんですが、実際にきちんと学ぶようになったのは、大学を卒業して15年以上も経って参加したリトミック講座がきっかけです。すでに音楽家としても色々なことを経験していたのですが、その時の衝撃は大きかったですね。リトミックは、打楽器のみならず、音楽の全てに通じるものすごく大事なものなんだ、と深く感じました。それで、ダルクローズリトミックのライセンスをお持ちの先生の所に通い続けた後、2000年には渡米して、ライセンスを取得しました。

リトミックと言うと幼児教育、と言う考え方が、日本ではまだまだ一般的。ですが、実は元々スイスのダルクローズと言う音楽教育家によって、音楽家を志す人達のために開発されたもので、リズム・ソルフェージュ・即興演奏の3部門からなる、音楽を総合的・効果的に体得する教育法なんです。体験することをすべての根本とし、音楽に合わせて身体運動を行ない、それを通して諸器官を刺激することで、集中力、反射性、敏捷性、想像力、記憶力、思考性、協調性、創造力などが育ちます。そうして自己で音楽を表現していくことに重点を置いた教育法、それがリトミックなんですね。

専門的な音楽教育を受けてきた私にも、リトミックは、音楽を違った角度から見る機会を与えてくれました。音楽界で、オーケストラ、アンサンブル、ソロ指導...様々なシチュエーションで体験を重ねながらも、打楽器のテクニックを磨くだけでは得られなかった、『音楽を感じる心』という、内面的な部分を養って行くことが出来たと思います。まだ言葉もままならないような幼児や、手拍子も叩けないような大人、音楽の専門家...どんな対象者にも、音楽の様々な要素を直に伝えることが出来るので、是非とも色々な方に体験して欲しい。そういう理由から、打楽器の講座でも、リトミックを土壌にしながら進めているんです。」

リトミックを勉強することで、具体的に何が変わるのでしょうか?

「大人の場合は特に、何事も理論でキャッチしてしまうことが多いのですが、自分自身が体を動かしてみることで、色々と音楽に対する感じ方が変わりました。例えば、コンクールを審査している時に、マーチなどの課題曲がどうしても停滞して聞こえる時がある。音楽もリズムも、前進していないんですね。けれども、リトミックの一環として自分自身が歩行してみることで、『歩く』ということの前進感や、エネルギーの使い方などを体感してみて、そのイメージを持って演奏する。すると、音楽は前進して聴こえるんです。

また、付点のリズムを弾く時もそうですね。当たり前のように言われる、リズムやフレーズ感、休符などを、机上の勉強ではなく、肌で感じることによって、思わず人をスキップさせてしまうような音楽を奏でることが出来るようになります。

ピアノでも打楽器でも、とにかく全ての根幹にあるのがリトミックなんです。」

なるほど。では実際に、楽器指導に携わる方々がリトミックをうまく習得するには、どう言った方法があるのでしょうか?

「リトミックに関しては、ノウハウやHOW TOを学ぶというよりは、まず先生ご自身が体験してみることが一番大切だと思います。決まった回数勉強して習得する、というよりは、子供達が毎週レッスンに通ってくるように、先生ご自身も定期的に勉強するチャンスを作った方が良いですね。そこで自分自身を解放して、『自分が欠けてる所はここなんだ』ということをいかに認められるか、これが大切です。いくつになっても勉強はしなければいけないので、常に新しいことを受け入られる体を、作っておかなければいけないと思います。

リトミックは知識として習得するものではなく、マニュアル本もありません。実際にやってみて、初めて色々な疑問に直面して、どうしよう、と考えていくことで徐々に身について行くものなんです。」

最後に、先生がこれから新たに勉強されようと思っている分野はありますか?

「リトミックに関して言うなら、以前に1つライセンスを取得しているので、次のライセンス取得に向けて勉強しています。アメリカでお世話になった当時80歳過ぎのリトミックの先生で、ダンサーでもないのに体の動きも、また人を動かすピアノ演奏が素晴らしい方でした。そして何よりも人間的にチャーミングでしたね。その先生は、世界3大教育~コダーイ、オルフ、そしてダルクローズ、全てを体験し、最終的にダルクローズに戻ったとおっしゃっていました。そして、リトミック、音楽の勉強は螺旋状のものだともおっしゃっていましたね。そう考えると、私もまだまだこれからだと思いますし、やりたいことはいっぱいありますね!」

ありがとうございました!

ピアノを弾く人は、アンサンブルやオーケストラでの演奏機会が少ない分、他楽器や音楽全体について考える機会が少ないように思います。けれども、他の分野(と自分が思っているもの)を知ることによって、初めて自分の楽器や演奏が見えてくることもある、そんなことに気付かせてくれた取材でした。そして、杉山先生のとにかく明るくて、パワフルで、前向きな姿勢に元気をいっぱい貰って帰ってきました!


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