【実施レポ】第7回: 中田元子先生 「ソルフェージュを教材にした導入期のピアノ指導法」

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2006/09/22

nakata_motoko.jpg音楽学生だけでなく、グランミューズ部門の一般大学生やピアノ愛好家を対象にした指導が注目を集めている中田元子先生。そんな優秀な生徒さんを初期の指導から育ててきたことに定評のある中田先生が、導入レベルの教育で実践されている指導法とは?「ソルフェージュを題材にした導入期のピアノ指導法」のお話を軸に、指導に対しての考えやこだわり、そして先生ご自身について、など、色々とお聞きしてきました!

先生の講座では、ソルフェージュを用いた導入レベルのピアノ教育について様々なアイディアを披露されていますが、こういった指導法は独自で開発されたものなのでしょうか?

「講座でお話している指導法は、もちろん今まで30年近く教えてきた中で徐々に出来上がってきたものではあります。その中でも特に指導のスキルが鍛えられた時期というのは、相愛音楽教室で講師をしていた時だと思います。ここでは25年間以上、ソルフェージュを用いた教育についての研究会に参加していました。授業では、先生達は自分で教材を作って各自持っていくんです。授業案を2日間ぐらい徹夜して作って、模擬授業をして、会議をやって、その後反省会をする...。研究会では、テーブル会議のような討論会があって、それこそ先生達が登校拒否になるぐらい喧喧囂囂とお互いやりあいました(笑)。ピアノやヴァイオリンが上手くなる為のソルフェージュを取り入れ方について、他の先生方ととことん一緒に考えることが出来たこの教室では、相当勉強させて頂きましたね。」

すごい環境ですね(笑)。ちなみにその時の手作りのテキストとは、どういったものでしたか?

「今でもソルフェージュのレッスンで、実在する曲から聴音させたりすることって多いと思うんですが、それの導入版という感じです。例えば、いつも練習に使っているチェルニーの30番の曲を先生が弾いて、その中の左手部分の和声番号を書き出してみるとか、バルトークのミクロコスモスの中の一曲の、左手を弾きながら右手のパートを歌うとか、その逆とか...。これってすごく難しいですし、この方法ですと、すごく簡単な導入レベルの曲でも十分にテキストとして使えます。

既存の教材を使うとしても、そのまま使うのではなく、料理してから使うんです。だから、コンクールの曲でも、普段の練習曲でも、なんでも教材になりますし、どんな教材を使えばこうなりますと言うわけでもなく、自分で用途に合わせて作り上げていくという感じですね。」

指導者自身、色々と応用出来る力をつけていかなければいけないということですね。
ところで、グランミューズや中級以上の生徒さんが素晴らしいご活躍をされる中、幼少期の基礎・ソルフェージュ教育を講座のテーマとされているのはなぜですか?

「昔、私がピアノを習っていた頃は、授業で勉強していた和声やソルフェージュの教育と、自分の演奏がどうしても結びつきませんでした。和声の授業は、正直嫌な時間だったし、それがピアノの演奏とどういう関係があるのかなんて考えもしなかった。課題では、禁則を犯さないように和声を作ったりしていましたが、実際の所、和声感のある演奏なんて理解していませんでしたし、今でも大半の子供達はそうだと思います。そういうことをわかりやすく教えるにはどうしたらいいか、という所から始まって、今まで色々と研究してきたんです。

また、現代音楽を弾く時などは、音読みが複雑で、楽譜の次の音や音楽の次の動きが予想できない時が沢山あります。ですから、音感や和声感、リズム感が強い、譜面と見ただけでパッと弾けるような子を育てたいんです。その為には、ソルフェージュや作曲をきちんと勉強することが一番だと思います。

私の娘には小学校1年生から作曲を習わせているのですが、本人にとってすごく良い勉強になったと思いますし、こういう風に育ってきた子は後々相当伸びる、ということは他の例でも実感していますね。私自身はそういう教育を全く受けてきていないので、『自分がしてもらえればよかったのに』と思えるような、その頃には考えられなかったような教育を大切にしようと思っています。

また、私は、下の基礎レベルから徐々に上がって来て上のレベルを見るようになったのではなく、いわゆる音楽コースや音楽大学に行くような生徒の指導をある程度経験してから、小さい子供を教えるようになったんです。そのことが、少なからず指導法にも影響していると思いますし、講座でも、自分自身の経験から編み出した導入教育へのアプローチについて、詳しくお話させて頂いています。」

具体的には、どのような指導法についてお話されていますか?

「ピアノを弾き始める前の子供への初期指導?楽譜の基礎を知ることから、音を聴く耳を育てるための訓練、拍子やリズムの感覚を養う方法まで、幅広くお話しています。

私のレッスンでは、まず最初に、音楽の色々な要素を実際に体感してもらう所から始めます。例えば、ピアノの鍵盤はどういう風になっているの?ということから全音半音を感覚で知ること。また、音高の違いを体の部分?『ド』はひざ、『レ』は腰、『ミ』はおへそ...と言う風にイメージさせるハンドサインを用いて、私が歌ったり弾いたりした音を歌い返したり、子供に作らせた五線の譜面にフェルトで作った音符を乗せたりもします。そして、それをピアノで弾くのですが、初めに手の真中に位置する3の指のみを使って弾かせるんです。これは、今までに何人も、親指の関節が弱くて中に入りこんでしまい、不安定な手になったため良い演奏にさしつかえている例を見ているので、色々な教則本を研究した結果、ロシアの教本に巡りあい、その考え方を取っています。このような訓練は、幼い子供の、まだ骨格の柔らかい時期には必要な事と思っています。ですから、ピアノを初めてしばらくは3の指のみで全部弾かせて、次に2、4、5、1...と増やしていく、と言った形で、将来最も重要になる、安定した指作りにこだわっているんです。

その様に音楽の基礎を感覚で分からせると同時に、理屈で理解してもらうことも大切にしています。ト音記号、ヘ音記号の意味から、なぜドの音符には線が通っているのか、という話まで、楽譜に書かれている事の全ての意味を理解できるようにするんです。

実は私自身、『1+1=2なんて誰が決めたの』などと考えるタイプの子で、『ドの音はこの形の音符だなんて誰が決めたの』とずっと思っていたんです。ですから、小さな子供を教える時には、ある種の理屈っぽさが大事だと思っています。それで、幅広い楽譜というものを知るために、色々と基礎的なことを教えて、きちんと理解させてあげるんですね。その上で、自分の創作も取り入れたフレーズ作りや、曲の構造を知ることなど、基礎能力を応用する段階に進んでいくんです。」

ありがとうございました!


取材中、様々な指導法やアイディアが先生の口から次から次へと飛び出してきて、その引出しの多さに圧倒されてしまいました。ベテランだから、と言ってしまえばそれまでですが、小さな子供とも本気で向き合い、どうすれば理解してもらえるのか、どうすれば相手に興味をもってもらえるのか、をずっと真剣に追求して来たからこその実績なのだと思いました。


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