今回は、数多くのコンペティション全国決勝大会進出者を育て、人気ステップアドバイザー、そしてセミナー講師として活躍中の國谷尊之先生にインタビュー。「四期別指導の徹底研究」という4回シリーズの講座で講師を務める國谷先生の、指導者としての信念と魅力に迫ります!
先生がバロック期・古典期・ロマン期・近現代期、それぞれの時代の様式に注目した「四期別指導の徹底研究」シリーズの講座をやろうと思われたきっかけとは?
「僕がそもそも『四期別指導』に興味を持ったのは、20代前半の頃です。日本のピアノ指導が、以前からの流れだというだけで『ソナチネアルバム』などの古典期に著しく偏っていて、かといって古典期の様式をふまえた指導がされているわけでもない、ということに気付かされました。そして、それが原因でピアノという楽器の魅力を感じられる演奏が少なくなってきているのかな、と。『四期別指導』について考えることは、それぞれの曲をそれぞれのやり方で魅力的に表現しよう、という小さな問題ではなく、わが国のピアノ指導全体のあり方に関わってくることだと思うんです。そこで、僕自身は『四期別指導』を広めていくことが日本の音楽普及に役立つと思い、自分なりに勉強を始めたんですよね。
とはいえ、例えば古典期がどういうものなのか、とか、古典期の曲を演奏するためにどういうことが必要なのか等、『期別(スタイル別)』の具体的アプローチは、すでに日本中で大勢の方がされています。ですので、僕としては、『四期別指導』の必要性や社会に与える影響などについて少しでも気付いて頂ければ、という気持ちで講座をさせてもらっています。」
先生ご自身がピアノを習っていた頃は、「四期別指導」というものはまだ定着していなかったんでしょうか?
「僕は昔、中学生ぐらいの時にピティナ・ピアノコンペティションを受けたことがあります。ピティナでは最初から課題曲が四期に分かれていたので、そこで初めてバッハ以外のバロックの曲を深く勉強することができました。それまで僕はバロックがなんなのかさえ全然わかっていませんでしたし、バロック期の曲として自覚したのもその時弾いたヘンデルが初めてでした。だから、他の3曲は何を弾いたか今ではさっぱり思い出せないんですが(笑)、ヘンデルだけは鮮明に覚えていますね。それぐらい、私が子供のころの一般的なピアノ指導はレパートリーが狭かったんだと思います。」
現在のピアノ教育界についても、そのように感じられることはありますか?
「そうですね。今でも基本的には古典期の曲が特に重視されている傾向が強く、逆にロマン期の曲などは日本のピアノ教育では軽視されていると思います。中には、『ロマン派は難しいから古典で基礎を付けてからじゃないと・・・』という風潮もありますね。でも、ロマン期と言うと、ピアノがやっと現代の楽器とほとんど同じ機能を獲得して、世の中も市民社会になって、貴族や教会が主な舞台であった音楽が市民の中に出てきた頃。そのような時代に作られた曲を、基礎が出来ていないからと言って敬遠するのはよくないと思いますし、その「基礎」という言葉が非常に曖昧な使われ方をしていることも問題です。
もちろんブルグミュラーなどはロマン派の曲集で、昔からよく使われている貴重な教材ではあるんですが、実は全ての曲が古典派の書法で書かれたロマン派音楽なので、ロマン派的なイントネーション豊かな表現やペダリングの勉強は出来ない。一言でロマン派と言っても、古典の手法で書かれた初期ロマン派音楽と、ショパン以降のピアノ的書法で書かれた中・後期ロマン派音楽があります。この2つは技術的には別々に考えなければいけないので、初期ロマン派の曲しか子供の勉強のレパートリーとして扱わないのでは片手落ちになってしまいます。
『四期別指導』によって、ピアノを専門的に勉強した若い人達が色々な時代の名曲を魅力的に演奏出来るようになって、そういう音が沢山聴こえてくるような世の中になってくれれば、もっと音楽を好きになる人が増えていくと思います。」
先生ご自身は、トークコンサートやステップのアドバイスなどでも、センスの良い言葉や面白い表現などが大好評を得ていらっしゃいますよね。普段の指導やアドバイスの際に心がけていらっしゃる点などはありますか?
「僕は、人をやる気にさせたいとか、何かを与えたいというよりは、『皆さんに共感をもってもらいたい』ということを第一に考えています。そこで、多くの人にもっと発想を広げて頂くために色々とご提案して、自分の考えをよりうまく伝えられるようには僕なりに努力したいと思っています。例えば、指導の時に曲を弾いて見せるだけでなく、言葉で聴き所を相手に理解させてから音で伝える、とか、アドバイスの時は小さい子にハーモニー感について伝える為に『調が変わったところで音色が変わったのがすごくよかった』と言う表現で書いてみる、とか。
私の生徒は、以前は小さな子供、最近は大学生などが多いんですが、彼らにとっては、自分から音楽にアプローチして、自分なりの感じ方をしたり表現を作り出す、ということはすごく大変です。そこは僕の方が生徒よりは長く生きている分、見聞きしたことや色々な人としゃべる機会も多いので、その場で役立ちそうな知識を僕なりに整理して伝えて...という感じですね。そういう意味では、指導にしても講座にしても、僕のやっていることは基本的にはぜんぶ受け売りだと思ってるんですよ。
ただ、四期のことに関してもそうですけれど、見過ごしがちで、知識としてだけは知っていることが、実はこんな重大な意味を持っているんだ、とか、見方を変えるとこういう風にも考えられるんだ、などと聞き手が思ってくれたとしたら、そこには僕自身のオリジナルな解釈が入っているかもしれない。本当に、まとめ方は人それぞれな中で、僕が見聞きした知識を僕なりの言葉や音を通してお伝えしていければ、と思います。」
ありがとうございました!
取材裏話:
独特の静かな雰囲気の中にも不思議と人を惹き付ける魅力がある國谷先生。落ち着いた語り口調の中にもハッとするようなシャープな言葉や面白いオチが入ってきたりして、取材時間はあっという間に過ぎてしまいました。実は「隠れ鉄道マニア」だという先生の、謎は深まるばかりです。
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