作曲や理論、伴奏法、楽典、ピアノ演奏やアンサンブルなど、様々な分野での指導を精力的に行っている佐々木邦雄先生。今回は、これまでに何百回も講座を開催されているソルフェージュについて、お話を伺ってきました。
講座の中で先生は「ソルフェージュ指導法」についてお話されていますが、そもそもソルフェージュ能力を高める意味とは?
「ソルフェージュは、『聴く』、『視る』、『奏でる』、『書く』という4つの要素から成り立っています。ピアノ専攻の人は演奏、作曲専攻の人は創作、という風に特化した能力があり、それを集中して訓練します。良い音楽家になるにはこの4つの能力の、少なくとも基礎的な部分は必ず持っていなければいけないんですが、例えば演奏家の人は楽譜を『書く』ことや『聴く』、『視る』を十分に学んでいないこともあります。その足りない部分の穴を埋めるのがソルフェージュなんです。
また、音楽を表現には5つの能力~『独創性』、『表現力』、『分析力』、『演奏力』、そして『音楽基礎能力』~が必要なんですね。この5つの能力は上からこの順番でピラミッド型に成り立っていないといけません。要するに、ソルフェージュで養われる音楽基礎能力や分析力、そして音楽理論がしっかりあってこそ、演奏に個性が出てくる。
ソルフェージュで身につく音楽理論というのは、楽曲を取り巻いているいわば基礎部分であり、必ず勉強しなければいけない。しかし、大切な内容にも関わらず、それを学んでいない人が多いんです。その結果、楽譜に書いてある音しか弾けなかったり、コードの進行の流れを全く説明出来ない人が出てくる。これらは、ソルフェージュで学ぶ音楽のベーシック内容として絶対必要です。」
なるほど。どんなことを勉強するにしてもその分野の基礎能力は必須ということですね。
「そうですね。例えば人間を針がいっぱい突き出ているボールに例えてみると、能力というものは一本一本の針に例えられます。針が一本だけ他に比べて長く突出していても、ボールはまともに転がらないんだけど、全体を大きくするのはもっと大変。
人間って、どんな人もそれぞれ異なる能力を持っているから、音楽の能力も千差万別でいい。だけど、能力ばかりに固執したらいけないんですよ。出来れば、自分の特殊な能力を伸ばしつつ、他の能力を少しでもいいから身につけて、自分自身を丸くしていくこと、これが大切です。
音楽を続けるには、学校で学ぶような他の科目~国語、外国語の言語能力、歴史、社会、数学、理科...全部必要で、お互い影響し合っているのです。だから僕は生徒には、『中学生まではすべての科目をきちんと勉強しなさい』と言いますし、学力が足りないからせめて音楽を極めたいと言う人には『やめなさい』と言います。基本的な他分野での能力を兼ね備えた人がその力の大半を音楽に注いだ時に、初めて音楽家になれるんです。
例えば、一年間一つの曲ばかり練習し続けて、コンクールに通ったとする。だけど、その間他の曲や他のことを何もやっていないとすると、それは意味がない。いろんなことを勉強しながらその一環としてコンクールがある...。そうでないといけないんです。例えばピアノを専門に勉強するんだったら、音楽を幅広く色々と勉強する中でピアノを学びなさい、そういうことをソルフェージュ指導では言いたいんです。ソルフェージュは、全ての分野でのベーシックな能力と人間としての常識を身につけるためにある。それらを身につけた人の発言とか演奏っていうのは、必ず人の心を打つんだよね。そうでない人の演奏は、上手でもよくよく聞くと冷たい演奏に感じます。
だから、僕のソルフェージュのレッスンでは音楽以外の分野にもいっぱい話が及ぶし、グループレッスンの中では、先生から生徒への一方通行ではなく、生徒同士がお互いにお互いの演奏を批評して、意見を言い合うような形を取っています。将来自分の意見をはっきり言えるようになるためにもこういうことは大切ですね。」
先生がレッスンをされる上で他に何かモットーにされていることなどはありますか?
「いくつかあります。一つ目は、当たり前のことなんですが、『知識や能力は繰り返し繰り返し自分で学んだことしか残らない』。そして、『覚えても忘れてしまったら学んだと言うことにはならない』。最後に、『学んでも実践しなければ意味がない』。この3つですね。
繰り返し学ぶと言うことは、つまり螺旋階段を上がることに例えられると思います。上から見ると堂々巡りなんだけど、横から見ると確実にレベルアップしている。つまり、同じことを何回も何回もやっているように見えても、実は自分の努力に見合った形で上に昇っているんですね。僕はソルフェージュレッスンの中でもこれを目指しています。毎回同じ内容を繰り返し繰り返し勉強させます。同じ内容でも生徒の役割を毎回変えたりします。アンサンブル演奏なら、ベースばかりでなく上とか真中のパートを弾いたり、歌の曲でも、歌うだけでなくピアノの伴奏や指揮者の役をやらせたりします。
僕は、『作曲はどうやったら出来るようになるんですか』と聞かれたら『何でもいいから作曲してみなさい』と答えます。これは料理と同じですね。失敗を恐れず作ってみなければ、本物を作れるようにはならないんです。音楽理論やルールも、各種のルールが取捨選択されながらその法則が作られてきて、作曲も全てその延長上に出来上がっています。
みんな、努力して学ばずに出来るだけ楽をしてピアノを弾こうと思ったり、ルールを全て先に学ばないと何も始められないと思っている人が多いと思いませんか。でも、例えばエベレストの山に登ろうと言う時に、ヘリコプターで一気に上ってしまうと、気圧と酸素の低下と急な環境の変化へのトレーニング不足から、登った途端に人間は死んでしまうそうです。だからやっぱり一歩一歩順番に進んで行くのが大切です。何事においても、自らが学ばずしてその道のエキスパートにはなれないんです。
もちろん、音楽の指導もそうです。だから僕の講座では、『こういう風に指導をしたら、あるいはこういう教材を使ったら、こういう力が着きます』ということはあえて言いません。人間は、自分で自発的・意欲的に学んでいって、苦労を伴って自分で築き上げたものしか自分のものにはならないし、他の人には伝授できないからです。」
貴重なお話ありがとうございました。
「勉強はずっと続けて行くもので、終わりはないんだよね」と、エネルギッシュに語ってくださった佐々木先生。様々なことに興味を持ち、自分を常に高めようという先生の姿勢に感心すると同時に、自分もがんばらねば、と強く思ってしまいました。
→11/21(火)横浜にて講座を開催 「ソルフェージュで音楽力アップ!」
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