読み物・連載

ピアノ教室のはじめかた ~子どもが減っていく現状にどう立ち向かうか~

2018/07/12
ピアノ教室のはじめかた~m子どもが減っていく現状にどう立ち向かうか~
出典:厚生労働省「人口動態統計の年間推計」平成29(2017)年12月22日時点

平成29年の出生数は推定941,000人、初めて100万人を割り込んだ前年度よりさらに36,000人ほど減少しました。この数字は第二次ベビーブームとなった1973年の出生数2,091,983人と比べると半分以下、現在20歳になる年齢である1998年の出生数1,203,147人と比べても約2割、25万人ほど減少しています。
ピアノ教室のメイン顧客層の総人口は今後も減ることが予測される今、生徒を増やしているピアノ教室を取材しました。

埼玉県さいたま市南区~駅前に塾が立ち並ぶ、県内屈指の教育熱心な街~

「さいたま市南区」は南浦和駅(京浜東北線)、武蔵浦和駅(埼京線、武蔵野線)にまたがる地域で東京へのアクセスの良さと、埼玉県内では「文教都市」と名高い浦和近隣地域とあり子育て世帯に人気が高く、特に南浦和は埼玉県内の塾が密集しており、教育熱が高い地域です。さいたま市は0歳~14歳の人口転入超過数で自治体では全国1位となり(※)、子どもが増えている地域です。

  • 出典:総務省「年齢(5歳階級),男女別転入超過数?全国,都道府県,市区町村(平成28年)」より
駅前にはタワーマンション建築中
南浦和名物「塾通り」
八木音楽教室 主宰者:八木都先生(川口アマービレテーション代表)

音楽からライフスタイルを豊かに
埼玉県に3教室を構える大教室

「幼稚園をやりたい」という夢
ピティナ編集部(以下、――)
埼玉県で大きく教室を展開されている八木都先生ですが、最初にピアノ教室を志したきっかけは何だったのでしょうか。
八木都先生(以下、八木)
私は、小さいころから「幼稚園をやりたい!」と思っていました。
──
幼稚園の先生になりたい、ではなく、「幼稚園を経営したい」という発想がすごいですね。
八木音楽教室主宰者
八木都先生
八木
祖母が幼稚園の園長だったので「教室を経営する」という発想は実に身近なものでした。その幼稚園の中にはピアノを始め、絵画、体操など様々な先生が出入りしており、そこでピアノも始めて夢中になっていきました。進路選択の時期になり、教室をするならピアノを教えたいなと思い、音大に進み、指導の勉強をしようと思いヤマハに就職をしました。そこはエレクトーンの勉強もでき、お月謝をいただきながら勉強をするという非常に恵まれた環境でしたね。もっと広く人の役に立てるようになりたいと思い、独立しようと思ったところ、母校でウィーンで学ぶ機会を得て留学をしました。帰国後実家で開業し、結婚して西川口に移りました。
防音室のピアノ教室を作るには
――
そこからはどのようにピアノ教室が発展していったのでしょうか。
八木
非常に特殊なケースだとは思うのですが、祖父が持っていた古いアパートを改築することになり、その際に防音室の部屋を作ることにしました。家賃収入でその費用を賄いました。
南浦和教室のレッスン室
ピアノの響きを感じられる広々としたレッスン室。
――
その発想はすごいですね!最初からピアノ教室が併設されているなら音の問題もなさそうです。南浦和の教室はどのように始められたのでしょうか。
八木
子どもが小学校に入学する際に、入学させたいと思っていた小学校の学区内に引っ越そうと思い、南浦和にも同じようにアパートを併設した自宅兼教室を作りました。それが結果的に教育熱心な地域での開業となり、交通アクセスも良好なことから2,3駅くらいの範囲の方が通っていただいております。
――
教室を増やした際は、すぐに軌道に乗りましたか?
八木
教室を増やす際には、元の教室の生徒数人を新しい教室に連れて行くことがポイントです。最初にスターを作ることで、その評判を聞いて入ってきてくれる方が多かったですね。
――
なるほど、それは近くに教室を作ることで実現できそうですね。2教室を一人でレッスンをするのは大変ではなかったでしょうか。
八木
生徒が増えるにつれ対応できなくなり、講師の人に来ていただくことになりました。私の教室では「主宰者が持っていた曜日をそのまま任せる」という形を取っています。ある程度育てた生徒をお願いするので、こちらの意図が伝わりやすいです。その空いた曜日で、私は新たな生徒募集ができます。いまは2名の講師の方にご協力いただいてます。
音楽からライフスタイルを豊かに
ピアノ教室には心が踊るお花、置物がたくさん
――
そしてお話しを聞かせていただいているお部屋があまりにきれいにコーディネートされていて驚きます......!先生はテーブルセッティングなどお好きなのでしょうか。
八木
そう、好きなんです!自宅でフラワーアレンジメントとお料理教室も開催しています。お母様や大人の生徒さんにも楽しんでいただきたくて始めました。生徒さんも「花育」「食育」として不定期で参加してくれます。音楽という土台の上に、毎日の生活を楽しく、豊かにできるお手伝いができたらうれしいですね。これも音楽教室のノウハウがあるからできることで、経営についての経験や知識が大切です。子供の頃の夢でもある「幼稚園をやりたい」と思っていた発想に近づいていると思います。
――
これからも夢は続きますね。本日はありがとうございました。
東京都中央区 ~子どもがこれからも増える街~

東京都中央区は日本橋、築地、月島など湾岸エリアがある地域で、川沿いには高層マンションが数多く立ち並びます。
近年子育て世代である25歳~54歳までの年代が大きく増加したことで、0歳~9歳の年少人口も増加傾向、しかも出生率も東京都23区内で第5位と高く、幼い年齢ほど人口が増加しており今後もその傾向が続くとみられています。
そして2020年に東京オリンピックで選手村が設立され、その跡地が住居となることで更なる人口増加が期待されています。

出典:総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」平成30(2018)年1月1日時点
東京都「住民基本台帳による東京都の世帯と人口」平成29(2017)年1月1日時点
川沿いには高層ビルがならぶ
月島と言えば、「もんじゃ焼きストリート」
ラミューズ音楽教室 主宰者:西松亜紀子先生(指導会員)

「音楽とともに心豊かな生活を」
湾岸地域の地域に根差した音楽教室

11人から始まり8年間で3教室に
ピティナ編集部(以下、――)
東京都中央区、江東区で教室を展開している「ラミューズ音楽教室」ですが、ピアノ教室を開講するきっかけを教えてください。
西松亜紀子先生(以下、西松)
音楽大学の声楽科を出て、その後専門学校の講師を経て、再度大学院で学びなおしたりと音楽家としてのキャリアを積んでいましたが、結婚、出産を経て一度は家に入りました。しかし夫に「自宅で教室をやってみたら?」という助言をもらい一念発起、豊洲の自宅でピアノ教室を開業しました。
――
最初は何名の生徒さんでしたか?
西松
教室を始めた時は近所にチラシなどをまいたり、知り合いのママ友から頼まれたりと、たった11人でスタートしました。その後1年間、減りも増えもせずに11人のまま。私は声楽科の出身で幼児のピアノ指導経験がほとんどなかったので、初めの頃は知り合いに頼んでレッスンを見学させてもらったり、導入期指導のセミナーにも通いました。
――
初めての講師の先生はどのようなきっかけで雇われたのでしょうか。
西松
やはり子供が小さかったので、夜遅い時間帯のレッスンや、毎日のレッスンができる状況ではなく、全てのオファーに応じるには自分以外の講師の必要性を感じたことと、ピアノ科出身の先生に上級者のレッスンにも応じてもらいたいと思ったからです。
その方がとても指導が上手な方で、生徒は順調に増えていきましたし、教室運営上も色々と意見をもらえ、最初の成長期を支えてくださったことにとても感謝しています。
外会場での教室の発展
――
生徒さんが徐々に増えていったとのことで、その頃から外部の教室を借りることになったのでしょうか。
西松
そうですね、自宅のみのレッスンに限界を感じ、隣町の月島での教室を開業しました。自宅のレッスンでは1部屋とリビングにもピアノを置いて2部屋でレッスンをしていたのですが、その頃2人目の子どもが生まれ、家族の場所がなくなってしまったので、豊洲にも自宅以外に一部屋借りることになりました。
――
物件を借りるうえでの障壁などありましたか。
1階の教室なら看板を出せますね
西松
まずはグランドピアノを置ける物件を探すことにひと苦労しました。搬入、防音室の設置は特に問題はありませんでしたが、住居以外の物件を借りるということで、在住していないため、掃除や管理、生徒保護者の案内には苦心しました。
その後、月島の教室はマンションから出て、念願だった1階の店舗型の教室を開業することができました。道路に面していることで看板を出すことで、近隣の方の目に留まりやすいようです。入室数でも、現在は店舗型の月島教室が一番多いですね。
――
新たに教室を開講するということは、ゼロから集客することが必要ですが、どのような工夫をされていますか?
西松
新しい教室を開設する際には目玉となるコースを新設しています。月島教室開業の際にはリトミックやピアノのグループレッスンを行い、集客を行いました。
都心の地元密着の音楽教室
――
月島、築地、晴海には次々とタワーマンションが立ち並び、子どもの数も増えているのではないかと思います。
教室の半径1キロ以内に小学校が3つ、保育園が6つ
西松
そうですね、確かに近隣の小学校も児童数が増えていると聞きます。親御さんの教育に対する関心も高く、おかげさまで年々生徒数は増加傾向にはあります。
ただ、当教室は都心部に近い立地のため賃料がとても高いのですが、月謝は地域密着型の教室として法外な価格にもできず大変です。レッスン料というのは意外にも地価が反映されにくく、全国的に相場価格に違いはないのではないでしょうか。それでも月謝以上の価値あるレッスンを提供しないと、生徒さんは増えませんから運営面で気が抜けませんし、独自の特色を出すような創意工夫を常に考えています。
――
声楽出身の先生ならではのプログラムもありますね。
オペレッタの募集チラシ
西松
すべての生徒に受け皿を用意したいと思い、様々なコースを用意しております。
ピアノとバイオリンのクラスを掛け持ちしている生徒もいますし、オペレッタのクラスも開講しました。
ピアノがつらくなってしまった時でも、生涯を通じて音楽を楽しんでもらえたらいいなと思います。
――
さまざまなコースにオペレッタ、コーラスのグループも多数主催されており地元に密着した音楽活動が素晴らしいですね。
西松
ここは「子供が一番最初に音楽に出会う場所」だと思っています。これからも地元を大切に、生徒の皆様が音楽を通して、人として成長でき、幸せになっていくお手伝いができる場所にしていけたらと願っています。
――
まだ開業して8年目、今後のさらなる活躍を楽しみにしております!
電子ピアノを活用する
大森南ピアノ教室・
戸越~豊町ピアノ教室
主宰者:重松太郎先生(指導会員)

共働き家庭の増加により、保育園利用率(全体)は20年間で約2倍となり、4割強の子供たちが保育園を利用している現状があります。幼稚園児が平均すると15時前に帰宅するのに比べ、保育園児は18時頃と夕方の時間帯に大きな差があり、その後の練習となると騒音問題が出てくる時間帯でもあります。また、ピアノは他の習い事と比べ楽器購入という初期投資額が大きく、そのことがピアノ教室に足を踏み入れる障壁になっていることも考えられます。

上記の騒音、費用の2点の懸念事項を解決する一つの選択肢が電子ピアノの活用です。
大田区の「大森南ピアノ教室」(主宰:重松太郎先生)では、電子ピアノを無料でレンタルしています。そもそも他業種との比較を徹底的に行った上で、月6,000円からのレッスン体系を実現。その範囲で充分な指導を提供できるという研究と、高いレッスンクオリティを維持するために講師育成の努力をされてきました。その結果、現在は生徒340名、講師12名、計3会場という大教室にまで発展しています。「まずはピアノを買う必要がない」というハードルの低さや短時間で弾けるようになるメソッドを駆使した体験レッスンで、入門率は90%。「ピアノをやらない理由」「続けられない理由」を考え対応し、価値を高めていくことで継続率も高い水準を維持しており、さらなる発展を見据えている音楽教室です。

生涯にわたりピアノを楽しく演奏できるようになるために、指導メソッドはもちろん、レッスン料金体系、楽器環境の提供、等を総合的に検討しなおす必要に業界全体が問われているのではないでしょうか。

自宅以外でピアノ指導を始めるには

地方出身で東京の音楽大学に進学した場合、卒業後にピアノ指導を始めようと思っても住んでいる場所では開業できずに指導者としてスタートすることが難しいこともあるようです。どのような選択肢が考えられるでしょうか。

大手音楽教室に勤める
メリット
大手ならではのメソッドを勉強できる機会が得られます。生徒数も多いのでレッスンの経験を積むことができます。
個人の大教室に勤める
メリット
個人教室ならではの、開業した際のノウハウが学べます。主宰者のレッスン方法も間近で学ぶことができます。
出張レッスンをする
メリット
自分で自由に時間を調整でき、WEBサイトを作るだけで開業できます。移動時間がかかってしまう、生徒の自宅環境に左右される(電子ピアノ等)ことが懸念事項です。

出張レッスンの集客ポイント
~鎌田裕子先生(練馬光が丘ステーション)にうかがいました~

出張レッスンの指導ご希望の方のお話、まずは、ご近所の何処かの会場、または出張されたい場所で、体験レッスン会を開くとよいかと思います。

体験レッスン会の案内方法
◆ 導入(2~5歳ぐらい)の生徒を集めたい場合

平日の午前中に集まる児童館などにお願いし、定期的に子ども向けコンサート、リトミックのイベントを催し、出張のピアノレッスンへ促します。

◆ 初級(未就学児~小学低学年)の場合

平日の午後3時以降ぐらいから、行政のピアノのある部屋を借り体験レッスン会を開きます。地元の情報誌に案内を掲載、SNSに投稿することも効果があります。

◆ 中級以上(小学生~大人)の場合

レッスン相談会として実施します。レッスンや普段の練習をどのように進めていくかを話し合います。コンクールやステップの案内をし、合唱コンクールの伴奏練習、音楽の試験対策ができることを伝えましょう。都立高校受験の場合、内申書の副教科(音楽)の成績の大切さをアピールすると親御さんに響きます。

自宅以外の会場をレッスンの時間だけレンタルする
ぴあのば

会場・講師・生徒のマッチングサービスです。
レッスン料金もレッスン内容も自分で設定し、週1日からピアノ指導者として活躍できます。同様のサービスや、地域の公共施設、レッスンスタジオのレンタルなどでもピアノ指導者としてのキャリアを始めることは可能です。

♪「ぴあのば」担当者よりメッセージ♪

「ぴあのば」は、スタジオやカフェなどの空き時間と先生方のすきま時間をマッチングして、生徒を募集することができるサービスです。日頃から地域の人たちに開かれたアットホームな会場ばかりなので、安心して通うことができます。
このサービスを通して、"ピアノを教えることができる人"と"自由にピアノを弾ける場所"を増やしたいと考えています。
逆に自分のレッスン室の空き時間を会場として貸し出すこともできます。ぜひ様々な形でご利用ください!

◆お問合せ:「ピティナのHPを見ました!」とお知らせください。
PoD株式会社(ぴあのば事務局)
h.takahashi@p-ondemand.com(担当:高橋)

自宅外にレッスン室を賃貸する ~外部に理想の教室を開設した若手指導者~

スタート!ピアノ教室 Vol.09 繁田 優菜先生
創業支援制度の融資300万円を受け、20代で自宅外に教室を開講

参考:自宅以外の場所で教室開業する際の起業、融資の申請方法、助成金について
【豊島区の創業者支援(中商工業融資制度)のご紹介】

豊島区で起業する場合、最大1,500万円ほどの融資を無利子で受けることができます。

  • 事業を営んでいない個人で、豊島区内で起業し、起業した日から1年未満の方が対象です

融資を受けるまで
各自治体のビジネスサポートセンターなどで、融資の対象にあたるかどうかの相談に出向きます。(要予約・無料)
創業計画書、融資借入申込書を記入・提出します
紹介状を発行してもらったら、対象となる金融機関へ融資の申込
信用保証協会へ保障の申込
無事保証が降りれば融資の実行です。利子については立替後、区より補給されます
  • 創業計画書を書くにあたり、下記を明確にしておきましょう。
  • 事業内容
  • 創業の目的と同期
  • 創業する事業の経験
  • 強み
  • セールスポイント及び競合状況
  • 創業にあたり必要な設備資金・運転資金と自己資金(そこから希望融資額を決めます)
他にもこんな利用方法が!
  • ホームページ作成支援事業(ホームページ作成費用の一部補助)
  • ビジネスコーディネーターによる売り上げ拡大支援
  • 税理士による経理・税務・皆生に関する相談窓口
  • 社労士による労務相談(自分以外の講師を雇う際など)
  • 上記は東京都豊島区の例です。融資の希望などがある場合は必ず各自治体にお問い合わせください。
  • 無料相談等は予約制です。各自治体のWEBページなどを必ずご参照ください。

ピティナ編集部
【GoogleAdsense】
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