第06回 ショパンとカルクブレンナー1
久しぶりの更新です。さて今回はショパン・イヤーにちなんでショパンに関連する楽譜を紹介しましょう。
まずはショパンのピアノ・コンチェルト第1番の当時の楽譜からです。ご存知のように第1番は作曲順では2番目にあたりますが何しろこちらが第1番として出版されました。最初に出版された版はオーケストラ版ではなく、まず弦楽5重奏版が出て、その後がオーケストラ版です。
という訳で1840年頃に再販された第1番コンチェルトの弦楽五重奏版です。献呈者はフレデリック(フリードリッヒ)・カルクブレンナーです。彼はショパンに先んじてパリに居を構え、ピアノのヴィルトゥオーゾ、名教師、作曲家として当時の音楽界に君臨していました。カルクブレンナーが活躍していた当時の様子は『ピアノの19世紀』を読んで頂ければ詳細がわかります。
彼の名は特にショパンとの関わりにおいて、割とよく知られていますが、現在その作品が演奏される機会は多くはありません。彼は数々のエチュード、ピアノ・ソナタ、コンチェルト、室内楽と旺盛に作曲しました。これらの作品は周囲で活躍していた音楽家達に影響を与えたに違いなく、同時にカルクブレンナー自身も彼らから影響を受けていました。すなわち歴史学、社会学でいうところの同時代性という誰しも免れる事の出来ない大きな流れの中で、無意識のうちに時代を背負い、また時代を動かしていた訳です。
ピアノ・コンチェルト第2番、作品86のピアノ・ソロ版。これはロンドンで出版されたもので1820年代後半のものです。続いてピアノ・ソナタ、ト短調作品13。こちらは1813年頃のもので、ロンドンで出版されたものです。
3曲目は『ドン・ジョバンニの"Là ci darem la mano"による幻想と変奏曲、作品31』。
この曲はシューマンをして「諸君、脱帽したまえ。天才の登場だ」と言わしめたショパンの『ドン・ジョバンニの"Là ci darem la mano"による変奏曲、作品2』と同じ主題に基づく曲です。
現在ではショパンのものが知られていますが、当時は有名なオペラの主題による変奏曲、幻想曲は非常に好まれていました。最後にカルクブレンナーが生きていた証として彼の直筆の手紙を紹介しておきます。
1959年東京生まれ 音楽オーガナイザー、アンティーク楽譜コレクター。パリ・ソルボンヌ第3大学及び同大学院にて言語学(英語学)を専攻する。
幼少時よりイラストレーターであった父の影響を受け芸術全般に興味を示す。より広い音楽のレパートリーを開拓すべくフランス留学を機にヨーロッパを中心に貴重な初版譜のコレクションを始める。今までに収集した楽譜、音楽関係のの資料は数千点に及び、それらを用いて執筆活動、コンサートのオーガナイズ、レクチャーコンサート、またCDの解説なども手がける。また内外の著名な演奏家に貴重な楽譜の提供し、彼らとともに現在は演奏されなくなってしまった素晴らしい曲をレパートリーとして知らしめるべく活動を続けている。弦楽専門誌・ストリング、ピアノ誌・レッスンの友に定期的にコレクションの一部を紹介するコラムを担当している。最近では『プリズム出版』よりコレクションをもとに貴重な楽譜の校訂譜を出版している「マルモンテル24の性格的エチュード」「ヘンゼルト24のエチュード」「リアプノフ24の超絶技巧練習曲」など。また『ミュッセ』より「カルクブレンナーのエチュード集」の出版。