第03回 美しい表紙
第3回目は表紙が美しいものを集めてみました。 (1)パデレフスキ/旅人の歌 Jurgenson社 1冊目は題字に金をあしらったものです。曲はイグナーツ・パデレフスキ(Ignace Jan PADEREWSKI 1860?1941) 作曲の『旅人の歌 Chants du Voyageur』作品8です。名前の表記は Ignacy となっていることもあります。パデレフスキといえば何と言っても『メヌエット 作品14?1』と結び付けられ、この曲は世界中で演奏されて彼に莫大な利益をもたらしました。しかしなぜか最近はこの曲すらめったに演奏されません。彼は単なる音楽家ではなく祖国ポーランドのために自らの財産を投げ打ち、第1次大戦後は首相・外交官としても活躍しました。そんな彼を指してサン・サーンスが語ったとされる次の言葉は象徴的です「彼は(たまたま)ピアノを弾く天才なのだ」。彼の作品は多岐に渡りオペラ"Manru"、交響曲、ピアノ・コンチェルト、ヴァイオリン・ソナタなど。1990年に発見されたヴァイオリン・コンチェルト、また弦楽四重奏もあるそうです。ピアノ曲は代表的なものではピアノ・ソナタ変ホ短調作品21があり、優れたソナタで第3楽章にフーガを伴ったヴィルツオジティー溢れた作品で個人的には大変気に入っています。 (2)バラキレフ/イスラメイ Jurgenson社 2曲目はバラキーレフ(Mili BALAKIREW 1836-1910) 作曲の『イスラメイ=東洋的幻想曲』です。この版は1890年代後半の第2版です。かつて似たようなデザインの同じ曲を所有していましたが、そちらも金をあしらったアラブ風の文字配列のものでした。わざわざ別の表紙を作るほど人気があったのでしょう。まるでモスクのモザイクを連想させるようなこの表紙を見ていると、こちらは曲のイメージとぴったり来ますね。名ピアニストのチェルカススキーの名演が今でも耳に残っています、素晴らしい曲です。バラキーレフといえば、マズルカをともなった素晴らしいピアノ・ソナタがありますが、日本でもどんどん演奏してもらいたいですね。 (3)ケッテン/パラフレーズ集 1863年初版 Lemoine 社
最後は梅の花をあしらった春らしい表紙のピアノ曲です。これは1886年の楽譜です。当時日本風のものがヨーロッパで流行したいわゆるジャポニズムの影響によるものです。表紙を開けると次のページも花をあしらったもので、作曲者・ケッテン(Henry KETTE) のパラフレーズのカタログになっています。この手の楽譜はヨーロッパでは中身よりもそのデザインによってコレクターがたくさんいて中々入手困難なものの一つです。個人的にはお気に入りの一つです。右下にデザイナーのサイン GIRADON も読み取れます。 次回もお楽しみに。 |
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1959年東京生まれ 音楽オーガナイザー、アンティーク楽譜コレクター。パリ・ソルボンヌ第3大学及び同大学院にて言語学(英語学)を専攻する。
幼少時よりイラストレーターであった父の影響を受け芸術全般に興味を示す。より広い音楽のレパートリーを開拓すべくフランス留学を機にヨーロッパを中心に貴重な初版譜のコレクションを始める。今までに収集した楽譜、音楽関係のの資料は数千点に及び、それらを用いて執筆活動、コンサートのオーガナイズ、レクチャーコンサート、またCDの解説なども手がける。また内外の著名な演奏家に貴重な楽譜の提供し、彼らとともに現在は演奏されなくなってしまった素晴らしい曲をレパートリーとして知らしめるべく活動を続けている。弦楽専門誌・ストリング、ピアノ誌・レッスンの友に定期的にコレクションの一部を紹介するコラムを担当している。最近では『プリズム出版』よりコレクションをもとに貴重な楽譜の校訂譜を出版している「マルモンテル24の性格的エチュード」「ヘンゼルト24のエチュード」「リアプノフ24の超絶技巧練習曲」など。また『ミュッセ』より「カルクブレンナーのエチュード集」の出版。