第01回 フランツ・リスト(1811-1886)の初版譜
今回はリストの表紙の美しい初版譜(1800年代)を何点か紹介します。 (1)ヴァグナー『さまよえるオランダ人』より、"Ballade" 1872年の初版。 派手な緑地に白抜きの題字が印象的です。全て職人の手彫りによるものです。外枠には銀彩がほどこされています。 |
(2)『泉のほとりで(巡礼の年第1年・スイスより)』 1855年の初版譜。 「巡礼の年」は何度かにわけて出版されましたが、最終的に1855年、新たに全曲版が出されました。現在では多少退色しているものの、リト摺りの当時としては手の込んだ豪華なものです。スイスの谷あいの泉には家畜、羊飼い、牧羊犬、良く見てみると丘の中腹には旅人が描かれています。 |
(3)シューベルトの歌曲『魔王』のピアノ編曲版 Second Version 1837/8年 有名な『魔王』の編曲ですが、第1回目の編曲版は1837年に単独の曲として出版されました。今回紹介するのはタイトルの上部にNo.4とあるように、1837/38年に12の編曲集として出版されたうちの一曲、『魔王』の第2版です。タイトルのすぐ上に王冠をかぶった魔王の顔が描かれています。実は『魔王』には第3版もあり1879年に出版されました。 |
(4)"SECONDE MARSHE HANGROISE" "UNGARISCHER STURM MARSCH" 1843 年の第1版の初版譜。 サブタイトルの方が有名なこの曲ですが、タイトルの上には紋章が刻まれています。 勇壮なマーチですが、リストは後にオーケストラ版も出版し、その際に第2版も出版しています(1875年)。第2版のほうがより勇壮な感じもしますが、好き好きでしょう。この版にはタイトルページとは別に、わざわざ献呈辞だけのページがついています。 |
1959年東京生まれ 音楽オーガナイザー、アンティーク楽譜コレクター。パリ・ソルボンヌ第3大学及び同大学院にて言語学(英語学)を専攻する。
幼少時よりイラストレーターであった父の影響を受け芸術全般に興味を示す。より広い音楽のレパートリーを開拓すべくフランス留学を機にヨーロッパを中心に貴重な初版譜のコレクションを始める。今までに収集した楽譜、音楽関係のの資料は数千点に及び、それらを用いて執筆活動、コンサートのオーガナイズ、レクチャーコンサート、またCDの解説なども手がける。また内外の著名な演奏家に貴重な楽譜の提供し、彼らとともに現在は演奏されなくなってしまった素晴らしい曲をレパートリーとして知らしめるべく活動を続けている。弦楽専門誌・ストリング、ピアノ誌・レッスンの友に定期的にコレクションの一部を紹介するコラムを担当している。最近では『プリズム出版』よりコレクションをもとに貴重な楽譜の校訂譜を出版している「マルモンテル24の性格的エチュード」「ヘンゼルト24のエチュード」「リアプノフ24の超絶技巧練習曲」など。また『ミュッセ』より「カルクブレンナーのエチュード集」の出版。