「ディスカッションをしながら 音楽を作ろう!」報告/横山響さん
音楽を作ろう!」報告
横山響(東京芸術大学楽理科4年)
音楽はどのような言葉で表現できるでしょうか?またそれにはどのような効果があるでしょうか?筆者は音楽の言語化が「鑑賞」や「学習」において非常に重要であると考えています。そこで、仲田みずほ先生と矢﨑ピアノ教室・松田映子音楽教室・nana piano lesson・鎌田ピアノ教室の生徒さんにご協力いただき、音楽のイメージを言葉で説明してもらいました。その過程やアンケート結果をご紹介します。
参加していただいた生徒さんは小学3年生から小学6年生のピアノ学習者です。教室ごとに全4グループで実施しました。曲目はブルグミュラーの《貴婦人の乗馬》。ピアノ演奏は仲田みずほ先生です。
最初に聴かされる「ぶっきらぼうで表情のない演奏」を「表情豊かな演奏」にするために、いろいろと考えてもらいます。そして考えたイメージをピアノの演奏に反映するため、言葉でピアニストに伝えます。自分たちの想像していたものと違う場合は、また別の言葉で説明します。イメージを考えるにあたってアーティキュレーション等の指示がない「白楽譜」を用意しました。同時に複数の意見が出る時はスタッフがホワイトボードに出た意見を書き出し、最終的にまとまった言葉を生徒さん自身で楽譜に書き記して頂きました。意見が出なかったり、行き詰まったりした際には、複数のパターンを提示するなど、サポートを行いました。意見が割れた場合は多数決で決定しました。
矢﨑ピアノ教室のグループは小学5年生と小学6年生の生徒さんで構成されるグループでした。このグループでは音色を「堂々した」と「軽やかに」と2つの主軸から考え、その組み合わせから音楽にしていきました。また「軽やかに」には「遊んでいる」というニュアンスが含まれていました。
松田映子音楽教室のグループも、小学5年生と6年生の生徒さんで構成されるグループでした。基本的には馬が主役となり、「ジャンプ」や「踏み切り台」、「着地」などの言葉を使い、「馬が転んだらどんな演奏になるのか」といった実験的な試みも交えつつ、ストーリーを作りながらピアニストへ説明しました。また、最初の「ぶっきらぼうな演奏」は「牛みたい」という言葉で表現していました。
Nana piano lessonのグループは唯一小学生3・4年生で構成されるグループでした。このグループでは「傘をだんだん開く」や「傘をだんだん閉じる」などこちらは人間を主役にして考え、情景を思い浮かべながらストーリーを作りました。少し不安げなところは「曇り空」などと天気に対するイメージを用いました。
鎌田ピアノ教室は、小学5年生と小学6年生の生徒さんで構成されるグループでした。「この音に向かって進む」や「右手は軽く」、「右手と左手の会話」などの技術的な側面からの説明が多かったです。また意見が分かれることもしばしばあり、多数決で決めました。
それぞれのグループで使われた言葉の分類を試みました。すると下記のように5つの音楽構成要素に対応していることが分かりました。
- 爽やか
- 雨雲が出てくる
- 飛び跳ねる
- 気取っている
- ジャンプ
- テンションが高い
- 上品
- 優しい
- 楽しい
- 雨雲が出てきたように
- 深海のように深い音
- 響かせる
- 下向き/上向きの音
- 勢いよく
- 滑らかに
- 爽やかに走る
- 優雅に
- 盛り上がっていく
- 綺麗に着地
- 馬が走っている
- 馬が回るように
- 傘がパッと開いていく
- 軽く
- 速く
- 大きく
- 小さく
- 弱く
- 強く
- だんだん大きく/小さく
- 右手の力を弱く
- 右手と左手で会話をしているように
- 16分音符が重い
- 左右のバランス
この作業を通して、聴取する時に注目されやすいところが分かりました。テンポや音量については、どのグループも共通して指摘がありましたが、使われるのは、同じ言葉でした。一方で音色やフレーズについては、多種多様な言葉で言い表され指摘も多かったです。このことから表情豊かな演奏をするにあたって注目されたのは、音色とフレーズの流れであると言えるでしょう。また反対に言語化によって自分がどこに注目しているのかを分析することができ、理解度を深めていくこともできると言えるでしょう。
音楽に対する自分の印象やイメージを言葉にすることについてアンケートも実施しました。その回答を紹介します。
- 先生と意見が違うときに役立ちそう
- 伝え方がたくさんあるため、それを考えることで曲を自分のものにできる
- 曲の分析や音楽の聴取をするときに言語化は役立ちそう
- みんなで集まってまたやりたい
- 言葉にしているうちにイメージが広がっていく
- アナリーゼなどを行うのは難しそうだけども、言語化は思っていたよりも難しくなくてやってみるとどんどん自分の考えができる
- 言葉だけではなくやはり歌ったり、実際に演奏を交えたりしたほうが良い
音楽を分析的に考える時や自分とその曲との向き合い方を整理する時、理解度を高める時などに、言語化は役立ちそうということがわかりました。
言語化は自分の中でその音楽を消化しないとできないことであり、自分独自の解釈を作り出す時にはとても有効な手立てといえるでしょう。何か音楽学習で行き詰まった時に、実践してみたらいかがでしょうか。
最後に改めてご協力くださったみなさま、ありがとうございました。
今回の実験を通して、音楽がどう変化したでしょうか。
それぞれのグループ・ディスカッションの成果である演奏をご紹介します。
◆レポート
横山響(東京芸術大学楽理科4年在学中)