ロン・ティボー国際コンクール レポート

ファイナル(協奏曲)、演奏レポート

2007/10/29

ファイナル2日目は協奏曲。パリの名門、サル・プレイエルで、6名がAlain Altinoglu指揮フランス国立管弦楽団と共演しました。
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会場のサル・プレイエル

●14時

(11)Antoine de GROLEE (23歳、フランス)
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番ト長調Op.58
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最初に登場は、フランス期待のGROLEEさん。
クリアで粒立ちの良い音で、細部への表情付けも十分に盛り込みながら、オーケストラの中に「量」でなく「質」で音を刻んでいきます。ベートーヴェンとしては、もう少し雄弁な箇所もあってもよいかもしれませんが、細かなニュアンスまで大切にされた、玄人好みの味わいのある演奏に仕上げてきました。


(14)Tae-Hyung KIM (22歳、韓国)
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番変ロ短調Op.23
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すでにステージ姿も堂に入ったTae-Hyung KIMさんは、輝きのあるダイナミックな音で、豪華なサウンドをふんだんに用いたチャイコフスキー。ただ、高音域がやや硬くなる音質が、音楽を単調で直線的にしてしまう瞬間があり、惜しいところです。終楽章の見事な技巧で多くのブラボーを浴びました。


(16)Jun Hee KIM (17歳、韓国)
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番ト長調Op.58
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ファイナリスト最年少のJun Hee KIMさん。
ベートーヴェンの4番という内容のある作品を説得力をもって展開するには、まだ持っている音楽の素材が少なすぎる印象で、音楽を前進させ、変化させ、構成を成立させていくためにはどのような要素が必要か、考えが及んでいない様子が随所に見受けられます。けれど、高音域に見せる思い切ったクリアな音色は、他のコンテスタントにない独自のもので、大いに可能性を感じさせました。


●18時

(18)Tristan PFAFF (22歳、フランス)
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番ハ短調Op.18
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フランスのPFAFFさん以降、夜の部は3名ともラフマニノフの2番という、オーケストラの皆さんにとってもハードな内容。
PFAFFさんは、輪郭の美しい粒立ちの良い音で積極的に音楽を引っ張るのですが、ところどころアンサンブル的な点、テクニック的な点で、致命的とも言えるミスをしてしまい、この作品を手中におさめていない弱さを露呈してしまいました。繊細で芸術家肌の感性が、コンクール全体を通じて、良いほう、悪いほうそれぞれに、大きく揺れ動きました。


(24)Hibiki TAMURA 田村響 (20歳、日本)
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番ハ短調Op.18
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日本から唯一のファイナリスト、田村響さん。ラフマニノフは、日本でもオーケストラと何度も合わせていることもあり、ソロよりもむしろ落ち着いた表情です。
ピアノパートの細部への的確な気配りを忘れずにいながらも、基本的には大きな音楽の流れをオーケストラと「一緒に」追い求め、アンサンブル能力の高さを示します。第2楽章では、弱音を意識的に配分し、立体感のある音楽に仕上げていきます。テクニックのキレも素晴らしく、音の向こう側に作曲家の人生や演奏家の人間性までも感じさせ、地の底から湧き上がるような大きな拍手とブラボーを浴びました。


(25)Sofya GULYAK (ロシア、27歳)
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番ハ短調Op.18
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フランスでも大人気のGULYAKさんが、ロン・ティボーの最後を締めくくります。
かなり粘るタイプの指揮者にもよく付き、アンサンブルの基本を踏まえながら、その中で田村君のようにオーケストラに寄り添うのではなく、自分の型をも押し出してくるタイプのピアニスト。細かい部分の意味性よりも、個々のフレーズやフレーズ間の関係性を捉えながら、より大きな流れで聞かせていく手腕は、スケールが大きく、まさにラフマニノフにぴったりです。終楽章では、技巧と合わせにやや危ない点を露呈したものの、コンクールの最後をダイナミックな和音で締めくくり、悲鳴にも似た盛大なブラボーがとびました。


ピティナ編集部
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