セミファイナル、2日目の演奏者たち
セミファイナル2日目、7名のピアニストが素晴らしい演奏を披露しました。
10:30 (20)Jun ASAI (25歳、アメリカ)
ラヴェル:「夜のガスパール」より「スカルボ」
ブラームス:ピアノソナタ第3番へ短調Op.5
2日目の1番目は、浜コンにも出ていたJun ASAIさん。朝一だからか、最初のスカルボで、タッチのコントロールが思うように効かず、やや平面的な音楽におさまってしまう印象。ブラームスでは、自然な緩急と弱音のまろやかな音色は好ましいのですが、やっと弾いていると感じさせてしまう箇所もあり、作品の規模を持て余してしまった感がありました。
11:10 (21)Misora LEE (28歳、韓国)
シューマン:ピアノソナタ第2番ト短調Op.22
ラヴェル:水の戯れ
スピード感と安定感のあるシューマン。太い音色で、焦燥感をよく表現していきます。ただ、前のめりな音楽を強調するあまり、音色やフレーズの作り方が単調になってしまうこともあり、爽快な演奏ではあるものの、良し悪しの両面を感じさせてしまいます。
ラヴェルは、クリアに処理されていますが、やや硬くなってしまいました。
11:50 (23)Miyuji KANEKO 金子三勇士(18歳、日本-ハンガリー)
シューマン:ピアノソナタ第2番ト短調Op.22
ドビュッシー:子供の領分
1次予選でも素晴らしい演奏を披露した、注目の金子三勇士さん。細くてキレのある独特の音色で、細部まで見事にニュアンスを付けており、抜群の知性派。自分の響きを終わりまでよく捉え、18歳にしてすでに大人の音楽を展開していきます。
コダワリの選曲というドビュッシーは、「大好きな作品。ぜひ全部をステージに乗せてみたかった」という子供の領分全曲。これも、各作品の性格を自分の中で明確に捉え、丁寧に表現していきます。少し小ぶりな音楽になり、もう少し豊かな響きとディナーミクの幅を求めてもよい箇所もありましたが、よくコントロールされた見事な音楽。
今回、惜しくもファイナル進出はなりませんでしたが、地元の聴衆からは大いに評価され、何人もの聴衆が、彼に激励の声をかけていました。「金子三勇士」この名前は、今後日本でも覚えておいて損はないでしょう。
14:30 (24)Hibiki TAMURA 田村響(20歳、日本)
ドビュッシー:前奏曲集第2巻より「オンディーヌ」
ブラームス:ピアノソナタ第3番へ短調Op.5
午後の1番は、田村響さん。出てきた表情がややかたく、緊張気味なのが分かります。
ドビュッシーでは、淡く切ない音色で、ピアニッシモの調整が見事にはまり、美しい風景画を見るかのよう。
続くブラームスが、極め付きの名演。極端に遅いテンポを取り、確かに音楽が停滞していると感じさせる場面もあるのですが、驚異的なタッチ・コントロールと、音楽を大きく捉える見通しの良さ、そして何より、この作品に何もかも振り捨てて没入していくさまは、感動的。聴衆も、他の参加者では緩徐楽章でもかすかな物音がしていましたが、田村君の演奏では、あまりの緊張感に水を打ったように静まり返り、彼の音楽への取り組みをただ見守ります。演奏全体を通して、ゆっくりと浮かび上がるブラームスの巨大な音楽。静かに湧き上がる拍手とその後の盛大なブラボーが、ファイナル進出を確信させました。
15:10 (25)Sofya GULYAK (27歳、ロシア)
シューマン:ピアノソナタ第2番ト短調Op.22
ラヴェル:ラ・ヴァルス
各地の国際コンクールで上位に入賞を繰り返している、ロシアのGULYAKさん。シューマンでは、高い技巧でぐいぐいと音楽を推し進めますが、細部をかなり乱暴に弾き飛ばしている感は否めません。ただ、緩徐楽章に入ると、音の持つ豊かさは参加者中随一のものがあり、聞かせます。ハーモニーの感覚がよく、音楽の縦横のバランスがいつも保たれているピアニスト。
難曲ラ・ヴァルスは、かなりの熱演。ダイナミックな音量でピアノの可能性をフルに表現していきますが、細部が粗く音楽が大味になってしまうのは気になりました。地元にもファンが多く、ブラボーが数多く飛びました。
16:20 (26)Zhee Young MOON (24歳、韓国)
ドビュッシー:映像第2集より「金色の魚」
ブラームス:ピアノソナタ第3番へ短調Op.5
ドビュッシーから、音がきつく、金属質な響きさえ混ざってしまいます。ブラームスでも、技巧は悪くないのですが、なにぶん、音量が大きくなったときの高音域の響きがあまりに金属的で、ヒステリックな印象を与えてしまいます。音楽の流れは良いものを持っているだけに、音質の改善が図られないと厳しいと感じさせました。
17:00 (28)Julia HSU (24歳、台湾)
シューマン:ピアノソナタ第1番嬰へ短調Op.11
メシアン:「みどり児イエスに注ぐ二十のまなざし」より「天使たちのまなざし」
最後は、台湾のHSUさん。シューマンは、もう一歩深いドラマ性があってもよいけれど、ヒステリックでない深い音でじっくり音楽に向き合っており、その姿には好感が持てます。音自体にさらに磨きをかけたいところです。
メシアンは、この曲にふさわしい間、音色の追求が今一歩と感じさせましたが、セミファイナルの最後の誠実な演奏で締めくくりました。