1日目の演奏者たち
演奏番号1番は、5月のエリーザベト王妃国際コンクールでもセミファイナルまで進出し、優美な好演を披露していたZlata CHOCHIEVAさん(22歳、ロシア)。前山仁美さんとも、モスクワ音楽院で気の合う友人だそうです。
楽器が鳴りきらず、聴衆もまだ何となく乗り切らない朝のトップバッターでしたが、少しぎこちなさを感じさせる部分はあるものの、明るく気品のある音色で、大役を務めきりました。
演奏番号2番、フランスのDavid KADOUCHさん(21歳)の演奏時には、信じられないハプニングが。演奏順を紹介するアナウンサーのマイクの電源がきちんと切られずに、ハウリングを起こしたのか、会場右上に設置されている巨大なスピーカーから、電気系統の雑音がけたたましく響いたのです。
ベートーヴェンの幻想曲のあと、ショパンの1楽章を弾いたところで演奏は中断。その後、落ち着かないそぶりで4楽章を弾きましたが、何とも後味の悪いものになり、それでも必死に集中して最後まで弾ききったKADOUCHさんに、聴衆からあたたかい拍手がおくられました。KADOUCHさんが弾きなおしの権利を与えられるかなどは、まだアナウンスされていないようです。
印象的な好演を残したのは、課題のショパン第1,4楽章に、2,3楽章を自由曲として選択し、全楽章を弾いた、6番のJae-Won CHEUNGさん(26歳、韓国)。2006年の浜松国際ピアノコンクールで、演奏番号1番を引きながら、1次予選を突破した、なかなかの才能の持ち主です。
堂に入った冒頭の表現から、一音一音に自然な美しさと意味を見出し、構成やフレージングが頭の中でよく整理された印象の演奏を披露します。少し重い印象はありますが、一つ一つの部分の意味を強く感じさせる、オーソドックスでありながら演奏者の個性も十分に感じさせる熱演でした。
9番のElena ZALESOVAさん(25歳、ロシア)は、すらりとした容姿に、黒のパンツスーツで颯爽と登場。ショパンの1楽章から、かなりクセの強い個性的なルバートを多用し、細く鋭い音ながら、積極的な表現を押し出してきます。デュティーユの「コラールと変奏(ソナタ第3楽章)」では、基本的な弾き込みを踏まえた質の高い演奏を披露しましたが、音色やディナーミクなど、もう一歩「引いた」世界を作って奥行きを感じさせたい瞬間もありました。
11番、今日最後の演奏者は、フランスのAntoine de GROLEEさん(23歳)。かなり音楽を自由にとらえたフランスのピアニストらしい演奏ながら、奇をてらうだけでない説得力を感じさせるだけの技術と構成感をも感じさせます。バルトークのソナタにも、枠をはみ出そうになるリスクをおかしてでも、音楽の本質に迫ろうとする意欲が感じされ、好ましい演奏に聴衆から大きな拍手が贈られました。
写真をごらんいただいてお分かりのとおり、午後の部(6番)からは、場内の照明が極端に暗くなり、ステージ上も必要最小限の明かりのみ。変更された理由は定かではありませんが、演奏した前山仁美さんによると、鍵盤の半分が影に覆われて暗く、その点では大きな違和感があったそうです。