ルイのピアノ生活

第94回 Bruyères/ドビュッシー:ヒースの茂る荒れ地

2010/03/24

♪ 演奏
ドビュッシー:ヒースの茂る荒れ地  動画 動画:(YouTubeへ)
 

オランダの実家のすぐそばに「エルミタージュ美術館アムステルダム」があります。ロシアのサンクト・ペテルスブルグにある「エルミタージュ美術館」の別館のような美術館で、そこのコレクションに所蔵されている品々をオランダに持ち込み、約5ヵ月間にわたる企画展として順次展開しています。「マティスからマレーヴィチへ」という展覧会をやっていたので見に行きました。

ロシアの10月革命の前の時代、2人のお金持ち美術蒐集家が集めた作品の展覧会で、マティスやピカソのほか、ファン・ドンゲン、De Vlaminck、Derainなど、アバンギャルドな画家たちによる作品、全75作が展示されていました。

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美術館に入るとすぐに「フォーヴィスム」(野獣派)の作品がありました。いきなりマティスの3つの作品が目に入ります。赤の調和1908年、Jeu de boules 1908年、青いテーブルクロス1906年。作品のすごいインパクトにびっくりで・・心がドキドキしてしまいます!すぐに絵の世界に引き込まれてしまって、絵の前に30分ずっと立っていました。

鮮やかな色と単純化されたシンプルなフォームや形で描かれ、完璧な調和を感じさせる絵です。そして立体感がない平面なワールドは、まるで現実から離れた別世界です。

自分が現実から開放されるように感じて、周りを忘れて、その絵の中=自分の新しい世界に入って行きます。美しい色やフォーム・形・・この新世界に引き込まれて、そこが自分の生きる世界になります。

アール・ヌーヴォーなどの影響で、この頃芸術は段々抽象的になって行きます。それまで「色」や「形」は風景・静物・人物など具体的な対象を表していましたが、描かれた色や形が独立してそのものが表現を持つようになったのです。色やフォームはそのままの魅力を感じさせます。

作品を見て頭に浮かんできたのはドビュッシーです。

鮮やかな色や遊び心があるアラベスク模様の青いテーブルクロス。ドイツロマン派の重みがなく・・古典的な型もなく・・堅苦しい現実から解放され自由な動きとなります。

音楽の世界でも長調や短調などの古典的な調性から少しずつ離れて、トニカ(主和音)-ドミナント(属和音)=I-Vの関係や、ハーモニーの重力が無くなって、音楽が浮かび上がって・・絵と同様3次元の世界から解き放たれて、まるで無重力の宇宙にいるように感じます。音色や和声やフォームが独立してきて、何か具体的な物や感情を表すことがないので、むしろ音や和音、和声・フォームの美しさをそのものを楽しむことができます。

今回の録音はドビュッシーのBruyères(ヒースの茂る荒れ地) です。実は、美術館に行った後に本物のBruyèresに行きました。アムステルダムから車で30-40分行ったところにあるBruyères・・・私が子どもの頃にはほぼ毎週末、家族で散歩したものです。周りには自然しかなくてとても美しく、街からも、現実からもちょっと離れた場所です。この曲はドビュッシーの前奏曲の中では最も調性がはっきりと表れていますが、ここを散歩しながら自然と戯れて写真を撮っている内に、自然にこの曲が頭に流れてきました。今回はマティスの絵と一緒にこの写真もビデオに入っています。そしてもうひとり、フォーヴィスムの代表的なオランダ人画家、キース・ファン・ドンゲンの作品も紹介しています。音楽・絵・写真を楽しんでいただけたらうれしいです。

それでは、また!

ルイ・レーリンク


ルイ・レーリンク

オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。

NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。

ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp

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