ルイのピアノ生活

第93回 日常生活/サティ:最後から2番目の思想

2010/02/24

♪ 演奏
サティ:最後から2番目の思想  動画 動画:(YouTubeへ)
 

今回の録音は前回と同じように絵の展覧会で得たインスピレーションから出来た演奏です。新宿をブラブラ歩いていたら、損保ジャパン美術館で相笠昌義さんという私の知らない東京の画家の展覧会が行われていました。面白いタイトルに誘われて中に入って見ることにしました。

絵を観ると頭に色々な考えや音楽が浮かんできます。特に現代の作品は、作者の目を通して社会を新たな角度から観察できます。作品がまるで鏡のように自分を含む我々人間や社会を映し出し、当然と感じていた日常を客観的に捉えることを可能にしてくれます。

この展覧会のタイトルは「日常生活」ですが、私にとって「観る」=見る・見られるのが作者・作品のテーマである様に感じました。大都会・東京では人が多過ぎて、本当に見る・観察することは少なく、逆に見ないで・無視して・気がつかないで通り過ぎてしまうことが多いです。英語で「Life passes by..」という言い方があります。見ていない内、気がつかない内に人生が通り過ぎてしまう・・。交差点や駅では毎日たくさんの人々が通ります。たくさんの人生が同じ時間と場所で交差しています。でも、お互いの事を深く知るどころか、言葉を交わすことさえもありません。人が多いからこそ、余計に寂しさが感じられます。交差点や駅では絶えず人々や乗り物が移動して、動いていますが、交差点や駅自体が動くわけではないからか、そしてそこに居る人間たちも本当には動いていない=見ていない、かかわっていない、生きていないからか、絵は「動き」を感じさせません。その一方で「駅」や「交差点」といった場所柄、私達は絵にいる人々を観察して「皆がこれからどこへ行くのか?」想像させられ、ワクワク感が出て、ネガティブというより前向きに感じさせてくれます。

大都会の中でも、「見る」ための場所は存在します。例えば動物園や美術館や窓。窓から外を見ると美しい風景ではなく・・賑やかな広場でもなく・・電柱一本だけです!美術館で私たちが一所懸命に見ているのに、そこにあるのは「絵」ではなく、電柱!(この絵を観ている私達をどこかから作者が眺めているのかも?)

動物園に動物がいるが、オリも柵もありません。閉じ込められているのは誰?どちらがどちらを観ているのでしょうか?絵の一部、オリからの目線で描かれている場所があります。若いカップルと4人家族が絵を見ている私達を観察しています。若いカップルが肩を組んでクスクス、少しからかうような表情で見ている。お母さんは赤ちゃんをだっこして「ほら、見てごらん!」と言っているのが聞こえて来るようです。お父さんがカメラを持って写真を撮って、娘は少し怖がったような表情で見ている。からかわれて、写真を撮られて、怖がられて、「見られて」いるのは私達です。作者は絵を観ている私達をオリの中に入れてしまったのです。

輪になって踊るた女の子達を見ているひとりの女の子の絵「ダンス」。自分だけは輪に入っていない。外から女の子達の輪を見つめています。自分だけは「外」です・・・誰でも経験したことある疎外感。でも、なぜか寂しさをあまり感じません。なぜでしょうか。女の子は輪の中のおかしな表情をした少女たちを外側から眺めて、どこかそれでよいと感じているのかもしれません。私達はこの風景をどう感じ取るかは自由でオープンです。私にとっては感情移入するよりは観ることに徹することができる作品と感じます。

私は新宿の人ごみの中を歩いて疲れていたはずなのに、絵を見て段々興奮してきました。絵を見ながら、色々と考えが浮かんで来て、考えすぎじゃないかな、とも思いますが、でも、多くの芸術家は自分の作品の解釈を型にはまらないで、見る人が勝てに好きに解釈できるように「オープン」にしていると思います。・・・と、私は相笠さんの作品達を見て勝手にこのように解釈しました。

今回の録音はサティの曲です。正直言いますと、展覧会を一緒に見た妻が選んだ曲です。良いか悪いか分からないですが、コンピュータで絵と音楽を合わせた結果を見るのは私にとってすごく楽しいです!

音楽の魅力があって、絵の魅力がまた別にあって・・でも合わせるとそれぞれ別々に鑑賞するのと少し違うように感じます。この2つのコラボレーションはお互いを強調させる魅力があるように感じます。例えば、ワインと同じです!ワインもチーズもそれぞれ美味しいですが、一緒にいただくと美味しさが増します。ワインの種類によってチーズがより美味しく(またはまずくも)なります!今回のコラボレーションで絵と音楽の両方が皆さんにとって魅力的に感じられるといいです。展覧会では絵だけ、音楽は音だけに集中するべき、と言う意見もあると思いますが、私はこうして一緒に楽しむ事もひとつの味わい方として提案したいと思っています。

楽しんで見て下さい。そしてコンピュータの画面上だけではなく、この素晴らしい作品の実物を「観て」下さい!!

それでは、また!

ルイ・レーリンク


ルイ・レーリンク

オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。

NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。

ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp

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