第91回 アヴェ・ヴェルム・コルプス
皆さんからのピアノ演奏のビデオを募集しています。
この連載「ルイのピアノ生活」の下の部分に新コーナーを設けて、毎回何人かの演奏ビデオを紹介したいと思います。 美しければ(!)どんな演奏でも大歓迎です。 ※採用動画にはルイ先生からの一言コメントがつきます(編集部注) ♪ 投稿されたビデオはこちら |
Youtubeのアカウントを作成してください。次はご自分のアカウントにビデオをアップしてください。
最後にはビデオへのリンクを以下のアドレスを送ってください。選ばれたビデオをこの連載上で公開して見られるようにします。ぜひ恥ずかしがらないで、たくさんのビデオを送って下さいね。お待ちしています!
応募先:soho*pianonet.jp (*を@に変えて下さい)
今年のお正月は久しぶりにオランダに帰らずに日本で過ごします。
オランダのお正月は温かいワインやシャンパンを飲んだり、揚げ菓子を食べたりします。でも、日本のおせち料理やおとそや年越しそばも好きですよ。
この時期のテレビ番組ではタレントがマグロか和牛を食べてハイテンションで「旨い!」などと言う番組も多いです。でも・・なにかを食べてその味を言葉で説明するのは意外に難しいですね。若いタレントさんは「旨い・・甘い・・柔らかい・・香りが口の中に広がる・・とろける・・」しか言わないようですが、これは味覚が鈍感だからでしょうか?又は知っている単語が足りないのでしょうか。
プロのシェフは食べ物の見た目や香りや味や食感について上手に説明できると思います。又は、作り方についても色々言えるでしょう。私の生徒に苺の味を説明してもらったことがあります。「甘くて柔らかい」と言われました。でも・・バナナも甘くて柔わらかいですよ!味は全く違うのに・・。
味覚は育てることができると思います。最初は極端な味覚の表現・・・甘い・酸っぱい・辛い・苦い、または柔らかい・硬い・・だけですが、よく味わうと「最初は甘酸っぱくて、苦味が残る」など、複雑な味や食感を同時に味わったり、その変化を感じることができると思います。繊細さが必要だと思います。
音楽で味覚は育てられませんが、必ず聴覚や感覚を育てなければならないと思っています。時々生徒に、できるだけたくさんの「感情」を紙に書く宿題を出します。「嬉しい」や「悲しい」など、誰でもすぐに思いつく感情の他にもたくさんあります!例えば、嬉しさと悲しみを同時に感じる感情は何でしょうか?・・・「懐かしい」という気持ち。過去にあった楽しい時を思うと、そのことが既に過去となった悲しさも同時に感じます。とても繊細な感情ですね。心の中にたくさんの気持ちや感情があります。まずそれぞれの感情を意識してからピアノを通じて聴いている人々の心に届くように表現する事が大切だと思います。
テレビの影響かどうか、現代は音楽でも一般的に感覚が鈍くなっている気がします。極端な感情や「メリハリある」表現は多くても、昔のピアニストのような繊細な表現の演奏を聴ける機会があまりありません。ラフマニノフやコルトーやケンプの演奏を聴くと、人間性・心の広さが聴こえてきます。音楽で語っているようで、作曲家が書いた当時、きっと実際に感じていた様々な感情が伝わってきます。
ちょっと気になる言葉があります(私自身も時々使いますが・・・汗)。それは「メリハリをつける」という言葉・・・表現を極端にする、という意味の言葉です。「コンクールに受かる為にはもっとメリハリが必要です・・」などなど、メリハリを意識すると、確かに強い表現によって演奏はより派手になります。演奏としてはとても目立つのですが、同時にあまりそればかり意識して、一番肝心な内容の部分(例えば、このフォルテッシモはどんな気持ちなのか)が欠落していると、どこか空っぽな演奏になってしまいます。
私もこの年末に忘年会で居酒屋に行く機会が多くありましたが、そこで出される料理はちょっとメリハリ意識し過ぎのようなものが多かったです(笑)。私は和食が大好きです!日本料理はもともと他の国と比べて、素材の味を大切にする料理ですね。旬の食材を取り入れて四季を意識させたり、味だけでなく見た目も美しくて、まさに芸術です!「おせち」料理などのお正月料理も美しさ・繊細さそのものです。それに彩りと一緒に縁起や栄養など、伝統や文化も詰まっていると思います。単に甘いとか辛いとかの事ではなく、もっと繊細な味わいや深い意味があると思います。
今回の曲「アヴェ・ヴェルム・コルプス」はいままで意識していなかった曲ですが、少し前にあるオランダ人ピアニストが語りかけるように弾いていて、音楽の素晴らしいメッセージが伝わって来ました。歌詞を読むと、更に感動が深まると同時に、この曲が単純に美しく悲しいだけではなく、まるで相反するような複雑な気持ちが同時に存在しているような、音で綴られた祈りなのだと気が付きます。小さくてシンプルな中に、大きな宇宙のような奥行きを感じさせてくれるような素晴らしい曲です。
2010年がみなさんにとって素晴らしい年になりますように、心からお祈りしています。
それでは、また!
ルイ・レーリンク
◆第26回:フォーレ:シシリエンヌ(2009年7月)
◆第25回:プロコフィエフ:ソナタ第4番 第2楽章(2009年6月)
◆第24回:バッハ:トッカータ ホ短調 BWV914(2009年5月)
◆第23回:モーツァルト:ソナタkv.533第2楽章(2009年4月)
◆第22回:バッハ=コルトー:Arioso(2009年4月)
オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。
NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。
ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp