第72回 愛情/ショパン:3つの新しいエチュード 第3番
今日の連載はシンプルに短く書きたいと思います。
ズバリ、「ピアノ演奏には愛情が必要」です!音楽に対する愛、そして聴いてくれる人たちへの愛がなによりも大切だと思うのです。コンクールやコンサートでは「上手」な演奏を聴く機会がたくさんあります。一言で上手と言っても、技術的にレベルの高い演奏、音色の美しい演奏、作曲家が求めた通りの演奏、空想力がたくさんある演奏、またその組み合わせ等々タイプは様々です。それぞれ素晴らしい事だとは思い ます。
又は、奏法についても色々なレッスン、講座、ビデオ、本、雑誌やエッセイなどが豊富にあります。どうすればもっと「上手」になれるのか??教えてくれる人がたくさん居て、教材も山ほどあります。この指の動かし方、腕の使い方、こんなタッチ で・・など色々な練習法を説いてくれる先生や、または全く別の角度から作曲家の背景や歴史、楽器について研究に研究を重ねて、そこから様々な解釈を導いてくれる専門家の人達の存在もあります。とてもありがたいことだと思います。
でも結局、演奏は「愛情がすべて」ではないかと思うのです。
いくら上手で皆が「素晴らしい」と賞賛する演奏でも、個人的には演奏に心、ハートが感じられないと、私にとっては物足りない・・というか、あまり意味がないと思うのです。逆に上手でなくても愛情を感じられる演奏は暖かいものが伝わって来て、「いいな」と素直に感じます。
ある店の前では長ーい行列でたくさんの人がずらーっと並んでいます。雑誌にも紹介された有名なラーメン屋さん。40分待ってからやっとお店に入って、カウンターに座ります。中では自信たっぷりのオヤジさんがカウンター越しにお客の顔も見ないで次々に黙々とラーメンを作っています。お客が店に入ると、後を向いたまま鍋を混ぜながら「らっしゃい!」と大きな声で叫んでいます。食べれば麺もスープも完璧ですが、なんだかその態度からは残念ながらオヤジさんが気持ちを込めて私に作ってくれたようには感じられません。愛が感じられません。美味しくても、もうその店には行く気にはなれないかも・・。いくら腕がよくたって、お客さんがわざわざ遠くから足を運んで来てくれて、更にずっと待っていてくれてありがたい、という気持ちや、おいしいスープになってくれる豚や鶏や野菜に対する感謝の気持ちがなければ、そのまま料理の味に出てしまうと思います。何かが足りない味になると思います。
ピアノを弾く時に大切なのは音楽を心から愛する事。この曲は美しいな、素晴らしいなと感じる心。そしてまた聴いてくれる人への愛を感じる心が、どんなレッスンよりも大事ではないでしょうか。
人間には愛が不可欠です。愛が幸せをもたらしてくれるのですから。家族、友人、ペット、信頼できる先生・・・身近な所に愛はたくさんあるはずです。それから普段はあまり意識しないけれど、自然にも大きな愛を感じます。最近とても悲しい事があ り、悲しい心のまま何も出来ずにただ森の中を歩きました。木々の緑はもちろん何も言いませんが僕の悲しみをわかってくれて優しく風にゆれて心を癒してくれているみ たいでした。青い空や流れる雲、ちょっと変かもしれませんが葉っぱの裏にくっついている小さな虫達からも愛を感じました。傷ついた心が段々バランスを取り戻していくように感じました。
それなのに私達はこんなにありがたい自然を壊し続けています。愛を与えてくれる自然を壊しているから社会でも愛が不足して、周りを見るとありとあらゆるところで正反対の現象=戦いが起こっています。戦争もそうですが、受験、就職、コンクールも戦い。その他の場面でも周りと競っている事が多いようです。でも戦いに勝っても幸せはやって来るとは限りません。「勝ち組」という言葉があるようですが、果たして「勝つ」「いい結果を出す」イコール「幸せ」でしょうか。勝った先には何があるのでしょうか。結果を得たらもう終わりでしょうか。もう演奏しなくていいのでしょうか。
素晴らしい結果を得るために弾くのではなく、素晴らしい音楽を弾きたい、このきれいな曲を弾きたい、この美しさをみんなに聴いてもらいたい、素晴らしい音楽で一緒に感動したい!から弾くのですよね。そのために音楽があるのですよね。演奏するのに必要なのは競争ではなくやっぱり愛だ!と納得しました。
結局長くなってしまいました!
それでは、また!
ルイ・レーリンク
オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。
NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。
ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp