第70回 マイカップ/スクリャービン:前奏曲 作品16-1
私はここ数年、毎夏佐渡に行きます。新潟港からフェリーで青い海をカモメと一緒に佐渡に渡ります。船を降りるとどこか特別な空気を感じます。美しい自然、深い歴史とそして美味しいお魚・・・私は佐渡が大好きです!今回は自由時間が少しあり、初めて「陶芸」に挑戦しました。自分の作ったものを見るとまぁ、「芸」の字は抜いてもいいかも知れないと思いますが・・でもきちんと先生から手ほどきを受けながら一生懸命に作品を作りました。
ろくろを回すので服を汚さないようにまずエプロンをつけて本格的に準備・・・緊張と期待の瞬間です。まず先生がお手本を見せてくれるのですが、先生の手は赤茶色の塊をカップに、花瓶に、自由自在に変えて・・まるで魔法のよう!いよいよ次は自分の番です。先生の真似をしながら形を壊さないようにそおっと、丁寧に少しずつ指に圧力をかけて上に引っ張って・・
かなり集中していたのは覚えているのですが、後で写真に写った自分の顔を見て大笑いしました!その真剣な表情!初めてですから、色んな所に力が入っていたのでしょう。実際作っていたのはほんの数分間でしたが、その間息も詰まるほど真剣そのものだった私は、作り終わって精神的にも肉体的にもすっかり疲れてしまいました。ちょっとピアノ生徒の気持ちが分かった気がします。でも、すごく楽しかった!
一応ビールのカップような物をイメージして作ったはずでしたが、出来上がりは・・どちらかというと花瓶に近い物になっていました(笑)。でもそれを掌で包んでみると、自分の手で作ったからか、大きさもちょうどよくフィットしてなかなかいい感じ・・愛着が湧いてきます。100パーセント満足とは言えませんが自分が作った!という達成感がジワジワと広がって、うれしくて、どこか誇らしい気持ちになりました。
瞬間、ふとピアノと同じかも知れないと感じました。というか・・初めての陶芸体験で大切なことを思い出したのです。ピアノも楽器と指を使って演奏=作品を作り出します。その演奏は思い通りに行かなくても、変な形の花瓶になっても、何かを自分で「作る」のは純粋にすごく楽しいことなのです!それが仮にとんでもない作品になってしまっても、「自分が作った」と言えるのはすごく喜ばしいことです。周りの人は私のカップを見て笑うかも知れませんが、私はそのマイカップをずっと大切にしたいと思います。
ピアノでも同じ気持ちが必要です。周りに「変な演奏」と言われても、自分の演奏だからこそ陶芸のカップと同じように大切にして欲しいです。この変なカップを手にしていると心の中にますます満足感が広がってきました。これから幸せ気分でビールを飲みたいです!
それでは、乾杯!
ルイ・レーリンク
オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。
NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。
ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp