シューベルト　4つの即興曲D.899 より第1番
動画：(10,55s)

私が大学で教えている部屋の照明は蛍光灯です。天井に小さなハロゲンライトのスポ ットも付いています。 実は教えている時にこの部屋に蛍光灯を付けるのは好きではありません。なぜかと言 えば蛍光灯の光は現実的な感じがして、ロマンティックな音楽を美しく弾こうという 気分にはなかなかなれないからです。でも蛍光灯を消してハロゲンライトだけをつけ ると今度は夜のバーみたいな感じになってしまいレッスン室としてはちょっと微妙な 雰囲気です。生徒さんも困りますね（笑）。改めて考えるとピアノを弾く環境の雰囲 気ってとても大事ですね。

学生の頃にスビャトスラフ・リヒテルのコンサートに行った時の事です。真っ暗なス テージ上、ピアノの隣にランプが置いてありました。
ホール照明なしの真っ暗な舞台の上で、小さなランプの光だけでリヒテルが楽譜を読 みながら弾いている光景を見ていると、まるで彼が自分の家の中でピアノを弾いてい るような錯覚に陥りました。音楽そのものとは全く関係ない事に思えますが、優しい 雰囲気に「癒し」を感じた、印象に残るコンサートです。これに影響を受けて？日本 のとあるホールで「照明の代わりにピアノの周りにキャンドルをたくさん置いて演奏 をしたい！」と提案した事がありますが、ホールの方に「とんでもない！」と一笑に 伏されました。

音楽に合わせてピアノの後のスクリーンを紫・赤・ブルー・黄色や緑などの光で照ら しては、という照明係の方のユニークな意向に少々困った経験をしたことがありま す。色が鍵盤に映って緑になったり赤になったり、すごく暗い青になると鍵盤がほと んど見えず、集中するのがかなり難しいのです。そして、どこか品のない感じになっ てしまって・・・。でもある時岡山で演奏した際、プロの照明の方が会場の天井に 色々な色の光を使って星空を作って下さいました。キラキラと輝く美しい光の中で最 高の気分で弾けました！星空を眺めながらの音楽に、きっとお客さんも満足して下さ ったのではないでしょうか。

一昨日、実家に電話しました。父親は近くの教会にJ.S.バッハの「マタイ受難曲」の コンサートを聴きに行った事を話してくれました。「素晴らしい演奏だった！」と感 激の声。父はこの時期、毎年のようにマタイ受難曲を聴きにいきますが、今回は私の 出身大学（アムステルダム・スヴェ?リンク音学院）の現役学生達による演奏だった との事で、例年に比べても秀でた演奏だったと聞き、少し誇らしい気持ちになりまし た。会場となった教会は13世紀に建てられ、オランダの名画家レンブラントもここで 結婚したそうです。そんな特別な場所で、神聖なキャンドルの灯りや美しいステンド グラスに囲まれて演奏できる学生たちがうらやましいですね！彼らにとっても場所か らもらえるインスピレーションはすごいと思います。回りに歴史を感じながら、とい うよりも自分も長い歴史や音楽の伝統の一部だと実感しながらの演奏は、音楽家とし て素晴らしい体験ではないでしょうか。

ところで私は物に「精」が宿っていると感じることがあります。例えば建物からもた くさんのインスピレーションをもらえる。小さなものからでももらえます。パリで買 った、骨董の銀のフォークやスプーンはとても神秘的な感じがします。昔、どんな人 がこれを持って何を食べていたのかな？考えながらナイフを持つとビリビリ感じま す。怖くないですよ！でも「古いもの」が持つ不思議な力って面白いです。

今回のシューベルトImpromptuはPTNA東音ホールで録音しました。今朝の9時頃、本部 まで1時間近く満員電車を乗り継いで、もう、着いた時はへとへとでした！この状態で シューベルト、なかなか弾く気分にはなれなかったです。でも私はいつも右手にヒー リングパワーを持つといわれる天然石「ホークアイ」のブレスレットをしています。 深い紺色の中に一筋の「光」が見える不思議な輝きを持った石です。弾きながらこれ を見ると自然にリラックスできたり、インスピレーションをもらえると感じられるの で大切にしています。今日は弾きながらこのブレスレットを何度も見つめました。ブ レスレットの中の光を。そしてこのブレスレットからもらえる光、癒しの力を少しで も演奏で伝えたいと思いました。今日の演奏で少し皆さんに伝えられると良いです！

それでは、また！

ルイ・レーリンク