第60回 迷惑?/曲:スクリャービン ソナタ 第3番 第3楽章
この前道を歩いていたら、どこか空いている窓からサックスを練習する音が聞こえて来ました。
その瞬間、すごく心に幸福を感じました。その突然の感動に自分でもびっくりして、少しの間立ち止まって聴いていました。最近では道を歩いていても、楽器を練習している音が聴こえることなど滅多にない事に気が付きました。私は東京生まれではありませんが、同世代の人によると住宅街で昔はもっとたくさんの子供がピアノを練習してるのが聞こえたそうです。どうしたんだろう?皆が防音室を買ったわけではないと思いますが(笑)。
ピアノを弾く人は誰でも経験上知っていると思いますが、音を出せる住まいを見つけるのはなかなか難しい事です。生徒の話によれば、仮にピアノ可のマンションや一軒家に住んだとしても、音に関して周りの人からクレームが来る事は多いようです。確かに周りの人に迷惑をかけない事は日本のすごく良い伝統です。しかし、最近はこれもあれも迷惑だと皆が少し敏感になり過ぎてはいないでしょうか?
先週こんなことがありました。静かな所にベンチがありました。すごく良い天気だったので、私はベンチに少し横になりました。するとそれを見た警備員が近づいて来て一言、「ここで寝てはいけません!」。その数日後、都心にあるビルの中でサンドイッチを食べていると警備員から「ここは食べてはいけません!」と言われました。誰がその色々なルールを考えたのでしょう?他の人に迷惑をかけないようにというより、自分達(ビルの管理会社など)がクレームを受けたくないからルールを作られたのではないでしょうか。でも、ルールが多過ぎて時々変な緊張やプレシャーを少し感じます。
いつか誰かがテレビでスペインでの体験談を話していました。彼が駅のホームで電車を待っていた時の事です。やっと電車がやってきて、駅のホームに入ってくるなと思ったら、電車を駅に入れる前に、運転手さんはお客さんが乗っている電車をホームの一番手前の先端にある駅員室のまん前で一回停めて、自分だけ降りて別の運転手さんに交代しました。もし電車ごとそのまま駅に入ったら、運転手さんは長いホームの反対側までずっと歩かなければならいので、少し面倒くさいと思ったからでしょう。そこで新しい運転手に交代して、少し時刻は遅れましたが電車をちゃんとホームに入れて、乗客を降ろしました。なかなか日本で考えられない話だと思います。日本では電車が時刻表通りに走っています。電車が数秒遅れても、車内アナウンスに「大変迷惑をかけてしまって・・・申し訳ない・・・」。すごく親切だとは思いますが、同時に『きちんとやらない=迷惑』というプレッシャーを感じずにいられません。
車内で携帯電話で話さない・・・ヘッドフォンから音が漏れないように・・・周りの人に迷惑にならない所に荷物を置く・・・
電車だけではなく、日本の社会にはルールがとても多いです。もちろんに良い所もありますが、同時に社会にもそこで生活する人間にもプレッシャーをかけてしまっていると思います。人間は自由であると感じられるバランスも必要です。
お父さんが外に出て、一日中色々なルールを守ってからやっと夜に家に帰るとマンションの隣の子がピアノを弾きだす・・・我慢できない!
その我慢できない気持ちは分からない訳でもないです。
でも、このままだと人生は楽しくないですよね。
それでは、また!
ルイ・レーリンク
オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。
NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。
ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp