ルイのピアノ生活

第57回 真実の年/曲:ベートーヴェン ピアノ協奏曲第1番第2楽章

2008/01/12
♪ 演奏
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番第2楽章
演奏:ルードヴィヒ室内管弦楽団 指揮:鷲見譲治 ピアノ:ルイ・レーリンク
音源:(10,22s)
 

私が最初日本に来た頃、なぜ日本人が年末のせっかくのお休みにお掃除するのかな?と理解出来ませんでした。オランダでは通常クリスマスからお正月にかけての数日間はゆったり、のんびりした時間を過ごします。ですので、日本に引っ越してから年末になったらお掃除、しかも「大」掃除というのは正直イヤでした。でも、今では好きになりました・・・というか、掃除自身はまだまだ面倒くさいですが、終えればさっぱり爽快な気分!お掃除して家がすっきりクリーンになって、心も綺麗になって、新鮮でフレッシュな気持ちで新年を迎える準備ができます。こんな訳で今では大掃除が大好き。バケツや雑巾を持って毎年やる気満々です!

・・・しかし私は根本的に片付け下手。なぜかといえば・・どこか存在を忘れた写真がでてくると片付けを忘れてその写真をずっと見て、ああこれはあの時の・・と深く入り込んでしまったり、走り書きの紙やメモも全部読んだり、片付けなければならないゲームで遊んだり(子どもみたいですね~)、忘れていたものを一つ一つ見つけては、ああ~懐かしい!とその度タイムトリップしていますので私の掃除はあまり進みません。

なんだか少々みなさんには失礼な話になりますが、今回の連載に付いている録音はお掃除で見つけた物です・・・。何年か前の録音で、その当時は何度も聞いていたのですがすっかり存在を忘れていました。私のデスクの上は山ほどCDが置いてあります(たまっています)。1月にはまだ整頓を保っていますが、3月辺りからCDの山は段々大きくなって、12月になりますと・・・すごい!昨年末も整理する時に「これなんだろう?」というCDが出てきて、かけてみるとベートーヴェン協奏曲第1番でした。「あ~懐かしい!!」と、とりあえず協奏曲全体を2回聴きました。1時間ぐらいかかりますので、その時掃除はいったん休憩!(すみません・・・。)でも、私は特にこの2楽章が気に入ってしまって、この曲をずっとかけながら掃除を続けました。片付けながら今年の出来事・やった事など色々を思い出すので、片付けながら自分の気持ちや考えている事も一緒に「片付けて」整理する事ができます。

みなさんにとって2007年はどんな年でしたか?人を騙してばれてしまってテレビで謝る人もたくさんいましたね。でもこの謝まる人の気持ちはどのくらい本音でしょうね?お詫びをすらすら言葉で言うのは簡単な事ですからね。音楽も同じだと思います。誰でも口で美しい事を言えます・・ピアノを美しく弾く事ができても、本当にその人の心はその音楽の美しさを感じているでしょうか?

私はよくこの話を思い出します。ある生徒を教えていたことがありました。彼は決して「器用」ではなかった。でもとても頑張ってピアノを弾いていました。発表会で自分で選んだバッハの2曲を弾きました。「この2曲は戦争で苦しむパレスチナ人とイスラエル人の平和のために、祈りを込めて弾きたい」と言って、彼はとても遅いテンポで弾きました(ものすごくゆっくりのテンポでしか弾けなかった)。でも、そのテンポの中で彼が1音1音を深く感じて、心を込めてほんとうに大切に丁寧に弾くことで、気持ちが伝わってきました。そしてその演奏は、聴いている人の気持ちと一体になって、ホールは祈りと癒しで満たされて、感動となって人々の心に届きました。彼が語っていた音楽は「真実」でした。「こう弾いたら格好良い」又は「こう弾いたら上手に聴こえる」という要素とは無縁で、音楽は自分の心からの素直な表現でした。

バッハ自身、音楽のヒーリングパワー(音楽には人をより良い人間にする力があること)を信じていたので、バッハもこの演奏を喜んでくれたと思います!この生徒の演奏は、ある人にとっては「下手」に聴こえるかも知れません。でも上手・下手は技術であって、音楽ではありません。その人の人間的な演奏は私にとってはコンクールでバリバリ「上手いでしょー!」と弾いている人よりもずっとずっと印象的でした。音楽でも、人が「嘘」を言っているか、本音を言っているかよくちゃんと聴けば聴こえると思います。2008年を「真実」の年にしたいと思います!「形」より「中身」を大事にしましょう!私は2008年に「偽」より「真実」の演奏をたくさん色んな方から聴きたいと思います。

それでは、また!

ルイ・レーリンク

ルイ・レーリンクから第3弾CD「夢のあとに」が出来ました!
ドイツのべヒシュタインとフランスのプレイエル。
ヨーロッパの名ピアノ2台をルイ・レーリンクが弾き比べました。
それぞれのピアノの個性が際立つ珠玉のCD。

第55回
http://www.pianonet.jp/pianist/cd.htm

ルイ・レーリンク

オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。

NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。

ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp

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