ルイのピアノ生活

第50回 戴冠式/曲:モーツァルト ピアノ協奏曲 第26番 ニ長調「戴冠式」第1楽章

2007/09/12
♪ 演奏
モーツァルト:ピアノ協奏曲 第26番 ニ長調「戴冠式」第1楽章  ♪ 音源(第1楽章・前半):(8'08s)  ♪ 音源(第1楽章・後半):(8'33s)
共演:ルードヴィヒ室内管弦楽団 指揮:鷲見譲治/※次回の連載に2+3楽章を公開予定です
 

ピアノというのはつくづく孤独な楽器です。バイオリンやフルート、歌や打楽器だって他のプレイヤーとのとアンサンブルが主体なのにピアノは練習も、ステージ上での本番もたいていポツンと一人ぼっち。そのせいかピアノは音楽の楽しさより辛さやら「自分との戦い」など孤独なイメージがつきものです。コンサートの中でも特にピアノソロの演奏会は独特の緊張感がある様に思います。

以前、管楽器のアンサンブルと共演したことがあります。本番前、楽屋で少々緊張気味だったのですが、横をみると物静かなオーボエ奏者が本を読んでるではありませんか。楽譜ではなく本。なにかアート系の本だったと記憶していますが、すごい余裕だな、、と半分焦りながら関心していると、部屋の隅から爆笑する声。フルートとファゴットの2人がなにか冗談を言い合っている様子です。こんな状況に慣れていないのでかなり戸惑ったのですが、傍から見れば私だけ場違いな雰囲気だったに違いありません。

緊張=ピアノを演奏する者の宿命なのでしょうか。学生の時のオーケストラとの初めてコンチェルトを演奏した事を思い出します。楽屋での出番待ち。演奏の時間が近づくにつれ、指先の感覚、時間の感覚さえなくなって行くように思われます。自分が今、誰で、どこにいて、これから何をするのか朦朧としてきます。時間の経過も一瞬なのか、5分なのか、感覚が段々麻痺してくるようで、とにかくここから逃げ出したい衝動と戦っているうちに舞台へ出て行く時が訪れます。 どうしましょう、膝もがくがくし始めました。

ピアノの前で自分の出番を待つ辛さといったら例えようもありません。オーケストラも盛り上がり、いよいよピアノが入る瞬間が訪れます。緊張も絶頂に達するが、自分の音色を聞くと同時に少し楽になる。そして、無我夢中で弾いて、会場の響きにも段々慣れてくると、こんなに早く終わってしまってどこかもったいない様なずっと弾いていたいような気持ちになる・・。

ある交響楽団と共演した時は「プレッシャー」との闘いでした。指揮者とは握手もしたかどうか、リハーサルは一度合わせただけで福岡から長崎へ移動し、午前にゲネプロ、午後が本番。ソロのコンサートは入念に練習する事で自分の音楽も徐々に核心へ近づいていくのですが、一度きりの合わせ、指揮者とも団員の人ともほとんど言葉を交わす事もなく、いきなり翌日本番というのはどうも慣れない気がします。それがプロというものなのでしょうが・・。

先月ルードヴィヒ室内管弦楽団と共演しました。このオケとの共演は2度目になります。それでも最初はお見合いのように「はじめまして」「どうぞよろしく」と遠慮し合っていますが、仲人役の指揮者、鷲見譲治先生のパワフルなリードでオーケストラもどんどんエネルギッシュになってきます。今回はラッキーなことに指揮者と話し合ったり、オケとも数回あわせる機会があったのですが、リハーサルを重ねる毎に、お互い慣れてきて、本番ではこちらの呼吸もわかってくれて、ぴったりとついてきてくれる奏者の人たち(涙)!
こちらも自分だけで弾いているのとは違い、新鮮な響きに刺激されながら、気分よく流れに委ねてみたり、ストイックに自分のやり方を守ってみたり。コンチェルトはそれぞれの筆で会場という空間に大きな絵を描いているような感覚です。ひとりで地道に作品を仕上げるのも良いですが、気の合う仲間との共同作業もまた楽しいものだとやっと思えるようになったようです。学生の頃に比べれば少しだけ余裕が出てきたのでしょうか(笑)

もちろんオーケストラや他の楽器との演奏だけではなく、2台のピアノも、最も手軽な連弾だって立派なアンサンブルです。相手の音や呼吸、2人の音のバランスなど聴くことで「ひとりで黙々と、淡々と弾く」ことから開放され、少し違った角度から音楽と触れ合えるかもしれません。同じピアノでも連弾となると「楽しむ」要素が強いので例えばちょっと一人で行き詰ってしまった時、緊張から開放されたい時、音楽本来の楽しみ方を思い出すためにもお勧めですよ。

この連載も今回で50回目を迎えます(祝)!
前述のオケと共演した「戴冠式」(今回は第1楽章、次回は第2,3楽章)をみなさんぜひ聞いて下さい!

それでは、また。

ルイ・レーリンク


ルイ・レーリンク

オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。

NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。

ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp

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