第49回 カラフルな世界
欧米では日本食がブームです。私が子供の頃には日本料理屋さんはアムステルダムの街でも1件か2件だけしかなく、とても高級なイメージでした。時代が変わって今は寿司、ラーメン、焼き鳥までも食べられます。そしてやはり日本食といえば「お寿司」なのか、特にお寿司屋さんが多いようです。
でもお店の看板を見ると・・日本のお寿司屋さんと比べるとどこか違和感があります。メニューを見ると、「やきとり」が「やきと二」になっていたり、少しあやしい日本語・・・。実はヨーロッパの日本料理店は、日本人ではなく中国、韓国や南米の人が経営している事が多いのです。私は日本に住んでもう11年ですから、海外では和食が恋しくなります。自然としょうゆ味のものやお米が食べたくなります。でも海外にあるお寿司屋さんで、日本人ではないアジア系の板前さんが寿司を握っているのを見て、お店を出てしまった事があります。「日本人が握った寿司を食べたい!」と思ったのが正直なところ。その板前さんのお寿司の味を試したわけでもないのに理不尽な話です。恥じるべき差別的な行動だったと反省しました。
初めて日本に来た時、日本人が作ったフランス料理やイタリア料理に少し抵抗があったのも確かです。日本で「納豆スパゲッティ」を見つけた時の驚き!どう考えてもイタリア料理ではありえない変なメニューもたくさんありました。でもやっぱり、どこの料理も、その国流にアレンジされた料理になるのはある意味当然なのでしょう。その土地の食材と組み合わさって工夫されたお料理は、国籍を越えてとても味わいのある素敵な一品に「進化」するのです。実は、今では和風のスパゲッティが一番好きです!タラコスパゲッティ、うに・イカ・しそのスパゲッティ・・・イタリア人にもぜひ味わってもらいたいと思います。色々と言いたい事はあるかもしれませんが、肝心な「味」の部分は認めるのではないでしょうか。
あるエピソードを思い出します。日本人の友達がお茶会で、あるお茶の先生にお手前を褒められたといいます。彼女の無駄なくすっきりした、しかも優美なお手前は最近見かけることがない、というのです。即座に「先生はどなたですか」と聞かれたそうですが、彼女がついていたのはアメリカ人のお茶の先生でした。
外国人がお寿司を握れないのならば、日本人もフランス料理を作れないという事なります。そんなことは絶対にありません!日本人がフランス料理をフランスの文化や歴史から勉強して、一生懸命修行をして、自分を磨いて、自分のセンスを生かして作った料理は素晴らしい味がするはずです。文化には境がありません。世界一美味しいフランス料理をつくるのは日本人かも知れません。同じように一番美味しい日本料理をメキシコ人が作る事もあり得るのです。
今回の曲は「赤とんぼ」です。外国人が赤とんぼ・・?と思われるかもしれませんが、この曲をコンサートで弾き始めると、なぜか文化の境界線が消えて行く気がします。もともと日本で育ったわけでもないのに、なんとも言えないなつかしさを憶えます。
今は世界が狭くなってきて色々な国の人々がお互いの文化を学びあって、影響し合って、元の文化に新しい風が吹き込まれて、今までにない「味」が出てきている時代です。こんなにカラフルで平和な世界がずっと続くと良いですね。
それでは、また。
ルイ・レーリンク
オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。
NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。
ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp