ルイのピアノ生活

第48回 指導者の心得/曲:ショパン  マズルカ op.63 no.2

2007/07/30
♪ 演奏
ショパン:マズルカ op.63 no.2  動画 動画:(1,46s)
使用ピアノ:1900年製 べヒシュタイン
 

洗足学園音楽大学と洗足学園高等学校音楽科でピアノを指導しています。高校には少し珍しいことに、クラシックだけではなく、ジャズ、ミュージカルと音響デザインの4セクションがあります。毎年夏休みには全てのセクションの生徒が一緒になってミュージカルを制作します。音楽や演技はもちろん、演出や台本、衣装まで全て生徒の手によるものですが、その素晴らしい出来には毎年驚くばかり。毎日厳しい練習を重ねて出来上がった、生徒達の努力の結晶は、感動の一言に尽きます。去年は「オズの魔法使い」、今年は「シンデレラ・ストーリー」。今から9月の公演が楽しみです。私はすぐ感動するタイプなのですが、学校の生徒たちの頑張っている姿を見かけては「すごいなあ」といつも関心します。

学校では毎月第3金曜日に「フライディコンサート」を開催しています。生徒が誰でも自由に参加できるコンサートで、色々な楽器やジャンルの音楽が登場します。ここでは生徒達の演奏を聴くのも、また感動的です(時にはイライラすることも・・?笑)。ピアノ、声楽に打楽器、クラシック、ジャズもポップスも登場します。この会がなによりも有意義と感じるのは、生徒達が、自分の演奏だけではなく、他の人の演奏を聴く事が良い刺激になっている事ではないでしょうか。

例えばクラシック科の生徒がジャズ科の生徒のピアノ演奏を聴いて、自由な表現力や、既に音楽家として自立している姿に魅力を感じ、逆にジャズ科の生徒はクラシック科の生徒が、音色を大切に奏でている事や音楽に真摯に向き合う姿に感動する。こんなふうにインスピレーションを与え合っているのです。ジャンルの境界線を越えても共有できることに気づいたり、生徒自身が音楽を勉強する者としての自覚に目覚めるきっかけになっていて素晴らしい!・・とここでも感動してしまいます!又、がらっと変わって毎年大講堂で行われる定期演奏会もあります。ここで演奏できるのは選ばれた成績優秀者だけとあって、かなり緊張感のある雰囲気です。(インターネットで「フライデーコンサート」や「ネットコンサート」の様子を演奏を見る事ができます。
学校のホームページアドレス:http://www.senzoku.net/
フライデーコンサート:http://www.senzoku.net/media/furakon.htm
ネットコンサート:http://www.senzoku.net/media/netconcert.htm

学校の生徒たちはひとりひとり、それぞれです。指導者としてはどの生徒にも心から音楽を愛せるような教育をしなければならないと思っています。皆が学校を出てそれぞれの道を歩みますが、どの道を選んでも音楽の素晴らしさ、楽しさを忘れないで欲しいです。音楽を専門的に勉強してから、音楽を嫌いになった人、演奏するのが怖くなった人、ピアノをすっかり止めてしまった人もいるのが現実ですが、これほど残念な事はありません。この場合、先生や学校または親も責任を感じなくてはなりません。音楽を勉強するには落ち着いた環境が必要です。個人差はあれど、やれコンクール、次は試験の成績、次はまた別のコンクールというふうに追われたのでは、本人もその人の音楽も疲弊して行き、上のような残念な例が出てきてしまう・・・。
大好きなピアノ、色々な曲を弾きたいという意欲、もっと知りたいという好奇心。それを更に伸ばして行くのが本来の教育の姿なのではないでしょうか。普通科の学校でも似たような事ですが、生徒がいくら多くの知識を頭に詰め込んで、難問に答え、名門校に合格しても、学校を出たとたんに喜んで勉強をやめるようでは、本当に良い教育を受けたと言えるのでしょうか。

試験やコンクールでは、一度きりの演奏で全てを評価します。もちろん、その状況下では仕方ない事ですが、決してそれが全てではない事を忘れてはなりません。日本では、生徒自身よりも親が結果にこだわるケースが多いようです。長い目で見て下さい。子供がコンクールに落ちても、ずっとピアノを楽しんで欲しいでしょう!どの親も本当は子供に幸せな人生を歩んで欲しいと思っているはずです。それならば、コンクールで優秀な成績を取ることよりも、音楽の素晴らしさを学んでいくことに焦点をあてて欲しいです。

好奇心を持たせて、素晴らしい音楽を楽しみつつ、真剣に勉強する。言うは易し、で実際の指導のバランスは難しいのですが、指導者として常に意識しているテーマです。生徒には上手になって欲しいですが、先生があまりに必死になると、生徒の持っている好奇心をつぶす事もある。コンクール自体を否定しているわけではありません。目標を掲げて一生懸命努力し、プレッシャーの中で本番に向かって曲の完成度や集中力を上げていく厳しさはコンクール以外ではなかなか経験できません。でも本当の素晴らしさはその過程にあり、結果は良くても悪くても、あくまでも今後の参考にする、くらいでちょうど良いのではないでしょうか。
本人はともかく、先生や親、周囲の人がその評価を過剰に賞賛したり、逆に非難する事はとても危険だと思うのです。

コンクールに必死になる先生がたくさんいます。でも先生自身ががそこでバランスを崩さない事が絶対条件です。いつも自分に問っています。良い結果を出して欲しいのは、生徒の為、それとも本当は自分の為でしょうか?生徒に期待するのは当然ですし、白黒はっきり答えを出すのは難しいですが、私たち指導者は常に考えるべきなのかも知れません。

ルイ・レーリンク


ルイ・レーリンク

オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。

NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。

ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp

【GoogleAdsense】
ホーム > ルイのピアノ生活 > 連載> 第48回 指導者の心...