日本の歌　　 動画：(6,55s)

早いもので日本に来て11年になります。なぜか幼い頃から漠然と日本に対する憧れがありました。その頃の日記帳には「侍」の絵が残っています。確かお話を読んで興味を持ったように記憶していますが、一度も見たことの無い侍を一生懸命空想しながら描くのは大変ながらも楽しい作業でした。出来上がったのは黒い鎧兜に身を包み、なかなかりりしい顔つきの武将。ちゃんと腰には刀も刺し、少々バランスの悪さはありますが侍に見えるから不思議です。　小学生の頃、父母が日本を旅行した事があります。送られてきた絵はがきには「ルイちゃん元気ですか。今私達は京都に来ています。今日はジャパニーズ・スタイルのお茶をいただきました。お寺や神社など日本の歴史的な建造物がとても美しいです。こちらの子供達は私達がよほど珍しいらしく、ハロー、ハローと言いながらサインをねだってきます・・」。どうやら私の両親は日本でスターになったようでした（笑）。日本ってどんな所だろう。その頃からでしょうか、私の頭の中での「日本」はどんどん膨らんで行きました。

日本語に興味を持ったのはずっと後、奥さんの影響です（やはり日本に縁があったようです）。最初は参考書などを買い集めて勉強していましたが、「はじめまして、わたくしは三井の山田でございます。」というような文章があまり実用的でないと分かってからは、私の日本語の教科書は奥さんの持っていた漫画に代わりました。特にさくらももこの「ちびまるこちゃん」には本当にお世話になりました！この楽しそうな絵の横の言葉は何だろう？？知りたい！読んでみたい！という一心で一生懸命、でもお陰で楽しく（笑いながら）勉強できました。トークコンサートなどでも「私の日本語の先生はちびまるこちゃんです」と答えていたほどです。少々女性っぽい表現のくせが残ったのが玉にキズでしたが、まるこちゃんあっての現在だと今でも思っています。

初めて日本の音楽を聴いた時も違和感がありませんでした。オランダでは4月30日（女王の誕生日）、町中がフリマ状態になります。自由な国オランダらしい祝日で、この日だけは誰でも何でも（食品以外は）売り買いしていい事になっています。アムステルダム郊外にある日本の駐在員の人達の居住区でも、日本の子供達が路上でおもちゃから洋服まで色々なものを広げています。本、ゲーム、漫画、ぬいぐるみや人形そしてＣＤ。ちょうど日本語に興味を持ち始めた頃だったので「日本むかしばなし」の絵本を2冊と、中身は全く分からないＣＤを300円ぐらいで小学生の男の子から買いました。家に帰って早速ＣＤを聞くとかなり個性的な女性ボーカル・・・なかなか心地よいメロディーとポップなサウンドです。歌詞が全く分からないのに、妙に気持ちの伝わる感動的な曲も入っており、これがあとで「ユーミン」という人気歌手だと知らされ、なるほどと納得したのでした。

最も美しいと思う曲のなかに「赤とんぼ」があります。シンプルなメロディーとハーモニーになんとも言いがたいなつかしさ、郷愁を感じます。コンサートで弾くと目頭をおさえながら「ありがとう」と握手を求めてくれるおばあちゃん。おばあちゃんの涙に、逆にこちらが感激で胸が熱くなります。本当に音楽っていいなと思える瞬間です。オランダという全く別の国、文化や習慣の中で育って来たのに、侍も、まるこちゃんも、ユーミンも、赤とんぼも何の抵抗もなくスッと入って来たのは不思議な事だと思います。

日本人には所詮クラシック音楽の真髄がわからないのでは・・？というような言葉をどこかで見たことがあります。畳の文化なので音の感覚が違うとも。本当にそうでしょうか。日本人でないと日本の歌の真の美しさはわからないのでしょうか。でもわたしはまるこちゃんが本当におかしいですし、赤とんぼに郷愁を感じます。ピアノが好き、何かの縁でピアノと関わりを持った人は、育った環境や文化、年齢は関係なくもうその時点でピアノの世界と繋がっているのだと思います。真髄などというと高尚な感じがしますが、クラシックでもポップスでも、日本人でもオランダ人でも、漫画も音楽も、こちらが心を開いた時、必ず伝わるのだと思います。オープンでいる限り、物事の芯（真・心）に触れる事ができるのだと信じています。

ルイ・レーリンク