ルイのピアノ生活

第41回 パリの思い出/曲:ショパン マズルカ第13番

2007/03/30
♪ 演奏
ショパン:マズルカ第13番  動画 動画:(4,10s)
 

パリへ行きました。アムステルダムからは電車で4~5時間。朝早く出発して車中でうとうとしているうちに到着、電車を降りると言葉も、人も、街の匂いも、すべてががらりと変わります。まだ寒く雨がちでしたが、カフェでお茶を飲むだけで満足できるような雰囲気はパリ独特のものです。普段はうっとおしいタバコの煙もここではちょっとした場を盛り上げる小道具になるから不思議です。座って何やら真剣に話し合っている男女、ひとりでワインを飲みながら葉書をしたためている婦人、そして色々観察している自分も、まるで一枚の絵の中に居るような錯覚を覚えます。

美術館めぐりも良いと思いますが、作品の方から出向いて来てくれる事もありますしせっかくパリにいるのですから、パリでしかできない事をしよう!と街歩きを楽しみました。バターと砂糖のはさまった焼きたてのクレープをかじりながらウィンドーショッピングしたり教会の中のすばらしい絵やステンドグラスに癒され、少し疲れたらカフェへ・・。

マレ地区のヴォージュ広場という、もとは貴族のために造られた美しい広場の近くにユニークな楽器やさんを発見しました。とても小さな楽器店なのですが、「バンジョー」のような古楽器やら鍵盤付きのバイオリン!?やら縦型?グランドピアノなど見た事もないような珍しい楽器で店内は溢れかえっていました。修理なども行うようで店主とお客さんが古いナチュラルホルンのチューニング中。ご主人はお客さんに向かってかなり強い口調で「あなたの演奏に問題がある。ほらこうやってごらん。」この様子にあっけにとられていましたが、店主の模範演奏に、お客さんもこうですかと乗ってきて2人で共演を始めてしまい、何事かというようなものすごい大きな音が店中で鳴り響いて他のお客さんと顔を見合わせて爆笑になりました!

ピアノは古くてどれも値打ものかと触るのを遠慮していたのですが、オーナーのどうぞどうぞという言葉に誘われ弾いてみると、年季の入った渋い良い音色でした。1880年代のレーニッシュピアノはしゃれた燭台つきでショパンまで古くないけれど、ドビュッシーの頃のピアノかな、等と思いつつ弾くとインスピレーションが沸いてきて、もちろん何も買いませんでしたが(笑)楽しい時間を過ごさせてもらいました。そんな僕を見てご主人は、またどうぞ、ととても満足そうににっこりしていたのが印象的でした。

ある雨の日の午後、ショパンの墓を訪ねることにしました。パリの郊外、地下鉄の終点近くの下町に「ペールラシェーズ墓地」があります。画家のドラクロワやシャンソンの女王と言われたエディット・ピアフまで多数の著名人が眠る墓地にショパンの墓もあります。しかし困ったことに、規模がかなり大きく裏門から入ったためか地図もなく、数少ない看板を頼りにショパンのお墓を探すのですが、幾つもの墓碑の中からどうやって探しあてるのか途方にくれていると、親切なおばあさんが「ショパンならあそこよ」と指差す先にたくさんの花やキャンドルに囲まれた、ひときわ目立つ墓が・・・。うなだれる美しい乙女の像に抱かれるようにショパンの墓はありました。やっとたどりつき、バラの花を供えて心静かに対話を・・などと思うのですが、さすが人気の作曲家とあって、次々と訪れる人がカメラを構え記念撮影、色々な種類や色の花束。ショパン墓の周りだけがにぎやかな雰囲気で、どこか違和感を感じざるを得ませんでした。そして彼の魂はここには居ない・・と感じました。

ショパンはパリで幸せとはうらはらな生活を送っていました。いくら彼の音楽が支持され、信頼できる友人達に囲まれていても、病弱でいつも死と隣り合わせ、愛する祖国に思いを馳せていた彼のパリでの人生は、孤独との戦いではなかったでしょうか。ポーランドをウィーンへ向けて出発し、そのままパリで生活する事になり、二度と故郷へ戻ることの無かったショパン。幸せで無垢な少年時代を過ごしたポーランド。愛する家族、先生、友人達。自由な魂となってショパンはきっと故郷ポーランドに戻ったのではないでしょうか。

赤いコートを着た少女が墓に花を供えにやってきました。音楽家だな、と匂いでわかりました。どうやらひとり(またはショパンと2人きり)になりたいそぶりだったので、そのまま墓を後にしました。いちど振り返ると、やはり神妙な面持ちで墓碑を見上げています。彼女はショパンと対話できるでしょうか。

今週の曲はこの時、頭の中に浮かんで来た曲です。数々の作品の中でマズルカは一番ショパンの「魂」に近いと感じます。美しく、哀しく、懐かしい、大切な宝物のような一曲です。

それでは、また!

ルイ・レーリンク

★MusicaNova4月号(3月20日発売・音楽の友社)に記事が掲載されます。みなさん是非読んでください。


ルイ・レーリンク

オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。

NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。

ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp

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