ルイのピアノ生活

第39回 ホール/曲:バッハ(シロティ編曲) 「プレリュード」

2007/02/16
♪ 演奏
バッハ(シロティ編曲):「プレリュード」  動画 動画:(3,54s)
 

 ピアノの演奏のために色々な場所を訪れる機会があるのは特権です。日本のあちこちで、たくさんの人との出会いがあり、本当に恵まれていると感じます。同じ日本でも土地によって、食べ物、風景、言葉、人の感じ-県民性-まで変わるのがとても興味深いです。県によってではありませんが、ホールにもそれぞれ特徴があります。今まで色々なホールとの出会いがありました。先週、東京のサントリーホール(小ホール)で演奏をしました。ここは個人的に大好きなホールです。ほとんど毎年弾く機会があり、その度に思うのですが、ある意味あまりホールらしくない、舞台から見た会場の「風景」がとても好きです。落ち着いた木製の美しい壁、客席の天井のシャンデリアが灯す暖かい明かり、まるで美しい木の箱のなかで弾いているような錯覚におちいります。ホールの中の「気」がとても良いと感じます(私は何よりも「気」が良い所が好き)。響き、設備、楽器が良い事ももちろん大切ですが、それと比べても「気持ち良く弾けるホール」は演奏には最も重要な要素ではないでしょうか。近々サントリーホールは大規模な改装工事に入るようですが、この雰囲気だけは絶対変えずに守って欲しいものです。

 きわめて「雰囲気の良い」ホールも何箇所かありましたが、実は少し怖いところもありました!過去、あるホールで1ヶ月間に3回連続のコンサートを行ったことがあります。私はあまり霊感はありませんが、このホールでは色々体験しました!?演奏中に体がとても重くなって、全身が冷えて震えて、たくさん霊がいるような感じがました。とても怖かったです。2回目以降のコンサートでは色々準備して持って行きました。水晶や盛り塩など・・ホールの方は私を変人と思ったかも知れません(笑)。

 ホールの設備も色々です。私にはそんなに要求の高い方ではないと思いますが、楽屋にトイレがないと少し不便です。お客さんと一緒にお手洗いを使わなけらばならないからです。リハーサル時には問題ないですが、コンサートの前だとかなり微妙です!トイレで私を見つけたお客さんも少しバツが悪そうに「・・・こんにちは・・」。 コンサートの前のピリッとした緊張感とは対極にあるような空気が漂います。

 学校コンサートでは校長室で着替えた事もあります。壁に飾っている歴代の校長先生たちの厳しい顔の絵の前で洋服を着替えるのもなかなか複雑な気持ちです。明治時代の校長先生はいつか自分の目の前で外国人が洋服を着替えるとは想像しなかったでしょう!でも着替える時間すらないコンサートもありました。その日は1日2公演、まずはお昼に大阪で、夕方から名古屋でコンサートでした。大阪のコンサートが終わるとすぐそのまま外で待っていたタクシーに乗って、タクシーの中で着替えて、駅で弁当を買って、新幹線に乗って、名古屋駅からタクシーに乗って、弾いて着替えて、新幹線で東京へもどり、そこからまた満員電車で家へ・・・家へ着く頃にはヘトヘトでした。

 移動は本当に大変です!私はかつて東京から津山まで、一人で車を10時間ぐらい(祭日だったので、東京+名古屋+大阪で渋滞もありました)運転して、その夜にミニコンサートを弾いて、次の日もコンサートを弾いて、神戸経由でまた車を走らせ、東京へ帰った事がありました。その翌日、さすがに体を壊して2週間寝込んでしまい、それ以来遠距離の移動は飛行機と決めました。でも飛行機ならいつも安心という訳ではありません。いつか、宮崎のコンサートがありましたが、台風の影響で欠航になってしまい、結局鹿児島行きに乗る事にしました。気象によっては東京へ引き返す可能性があると言われつつ、無事に鹿児島に到着(台風なんて信じられない程穏やかな天気でした!)、もう電車だと間に合わなかったので、レンタカーでスピードを出して宮崎まで走りました。一度はヨーロッパから帰国した当日にコンサート、という事もあり、朝の9時頃成田に到着して、ホールへ直行しました。時差ボケで、演奏中はどこに居るかもう全然分かりませんでした。

 お客さんが舞台で見ているのは演奏家のほんの一部です。当然のように舞台へ登り、おじきをして楽器を弾き出す。素晴らしい演奏もあるが、うまく行かない事もあります。演奏はたとえコンディションがよくても簡単ではありませんが、海外から異国へ来て、ホテルに泊まったり、慣れないものを食べたり、時差もあって、知らない人に囲まれたり、インタビューを受けたり、そして練習も自由にできない状態でコンサートをするのは想像を絶するほど大変な事です。特に世界中を回っている演奏家たちは本当にすごいなあと関心します。でもこういった演奏家たちが舞台で素晴らしいオーラを放つのは、こんな客席から見えない部分ゆえなのかも知れませんね。

それでは、また!

ルイ・レーリンク


ルイ・レーリンク

オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。

NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。

ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp

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