第25回 アンサンブル/曲:スメタナ「ロンドハ長調」~ピアノ2台8手~
このところ連載では学校の話がずっと続いています。学校は音楽的にも、人間的にも、自分が一番成長したところだと思っています。ヨーロッパの音楽院では日本の大学と違って、4年で卒業→就職というパターンではなくもう、勉強は十分と思えるまで、何年も学生という身分で勉強し続けます。僕も16歳から26歳で卒業するまで、音楽院には10年以上在籍していました。そこでピアノはもちろん、作曲や指揮、学科も厳しく、試験も多く、当時は文句を言う時間さえないほど忙しい毎日でしたがそのお陰で今があるのだと実感できます。
もちろん勉強もですが、学校生活の中で色々な人との出会いがありました。オランダだけでなく、ドイツ、スペインや、南米からの生徒たち。色々な国籍の色々な楽器の友人ができました。「一緒に演奏しよう!」とはじめるアンサンブルは、意気投合して最高の気分になることもあれば逆に意見が合わずに、気まずいけんかの様になってしまうこともありました。音楽表現の中にはすごく自分が入り込みますから、それが受け入れられないと人格まで否定されているような気分になってしまうのです。でも結局悩んだ末、また話し合って、またやり直す。またぶつかって、でもまた仲直り。人間関係やコミュニケーションの基礎を学んだような気がします。
ピアノを学習している人は、「ピアノ一筋」という人と、「せっかくだから色々な楽器と一緒に弾いてみたい」という人の2パターンがあるようです。はっきり言いますが、チャンスがあるならば、絶対に後者の方がいいです。他の楽器と接すると、たくさんのことを学ぶことができます。僕の最初の驚きは、フルートの人が、自分の楽器を本当に大切そうに自分の身体の一部のように愛情を持って扱っていたことでした。音楽的にも、ピアノ以外の楽器から驚くような表現を学ぶことができます。ピアノでは当然のことが、他の楽器ではものすごく大変で、その逆パターンもありまるで別世界のドアが開いて、今まで使ったことがない感覚が、呼び覚まされるような感じです。別の人の音楽を自分の音楽と混ぜる事で、自分の求める音や表現がはっきりと見えてきます。そして生涯の友人を得ることもあります。
学生時代に話は戻りますが、僕の先生のもとへ留学してきた日本人の友人もたくさんできました。(奥さんともこの学校で出会いました!)今回の演奏はオランダの学校で出会った最も親しい友人たちとのアンサンブルです。いつも4人で集まると、学校の話、一緒に授業を受けた話、先生や友人達の思い出話で盛り上がります。僕にとっては本当に楽しいひとときです。日本語で「同じ釜の飯を食う」という言い方がありますが、その言葉通り、週末には必ず誰かの家に集まって、パスタとか、学生らしい簡単な食事と安いワインを飲みつつ音楽談義?をしたりレッスンの事や悩みを話し合ったものでした。皆貧乏で、若くて、真剣で、いい時代でした。学校では勉強から得たものも大きいですがそんな時代を共有した友人との出会いが一番の宝かもしれません。今はそれぞれ指導する立場になり、それぞれが音楽活動をしていますが、それぞれの音楽の中に、この時の経験が生き続けています。このアンサンブルが楽しく、息が合っている?理由は時間を共有し、理解しあって、お互いの音楽を尊重してインスピレーションを与え合うことができるからかも知れません。
それでは、また!
ルイ・レーリンク
オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。
NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。
ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp