ルイのピアノ生活

第21回 チャレンジ/曲:ハイドン:ソナタ52番2楽章 

2006/05/02
♪ 演奏
ハイドン:ソナタ52番2楽章  動画 動画:(6,19s)
 

以前の連載で「先生」という言葉について話した事があります。日本語で「先生」は先に生きると書きますね。全てを「知る」のは「止まった」状態を表していると思います。先生は「止まっている」人より、「生きて」いる人です。先に生きています。という事は、生徒より先に失敗したり、先にチャレンジしたり、先に色々を経験したりする人のはずです。今回は「新しいチャレンジ」について少し書きたいと思いますので、是非最後まで読んでください(これも新しいチャレンジかも・・・笑)。

私は数日前、始めてステップのアドバイザーの仕事をしました。正式に言いますと、インターンアドバイザーでした。ステップの運営・進行の方法やアドバイスの仕方などを見習いました。修業みたいな事です。今回のステップのアドバイザー長はPTNA評議員の林苑子先生でした。先生がアドバイザーという仕事の内容をすべて丁寧に教えて下さり、とても勉強にになりました!一所懸命に、でものびのびと弾いている出演者の姿はとても印象的で、ピアノを弾く事の楽しさ・素晴らしさを再確認しました。早くもPTNAステップにハマってしまいそうです。少し前、とあるピアノコンクールの審査を終えたばかりでしたが、コンクールの厳しさや緊張感と比べてステップの温かさや楽しさがとても新鮮に感じられました。ちびっ子も・・大人も・・上手な人も・・まだはじめたばかりの方も・・皆さん自分の信じる音楽を伝えようと、気持ちをこめて演奏してくれました。とても楽しかった!同時に皆さんからたくさんの元気をもらいました。

皆さんもご存知と思いますが、ステップでは、アドバイザーの先生方は用紙に出演者へのアドバイスを書きます。インターンも一緒に書きますが、これはかなり大変な作業でした。10分の曲だとゆっくり書けますが、1分の曲でも紙の大きさは一緒です。聴きながら、良いところを褒めて、まだ足りないところを説明して、そしてこれからどうすれば良くなるかをアドバイスを考えて書くのは本当に難しく、(コンピュータで書くのは慣れていますが - この連載も- 実際に漢字を書くのは遅いです!)手も段々しびれてきましたが、とても良い勉強でした。

家に帰ってコンクールについて、ステップについて色々考えていました。私は元々コンクールがあんまり好きではない人です。いつかあるコンクール会場の外で、お母さんが娘をとても厳しく叱っていたのを見た事があります。「何で間違ったの!」「どうして!?」お母さんは子供を責めるように大声を上げていました。女の子をとてもかわいそうに思いました。コンクールは一位を争うところです。人と競う、争うという事の悪影響で、人はこうなるのだろうと思いました。確かにコンクールでは真の音楽の目的から離れてしまっている人がいます。異常に厳しくなっている親もいます。鍵盤を叩いて争っている人もいます。しかしその一方では、素晴らしく美しくピアノを歌わせて奏でている人もいます。演奏を楽しんで聴きながら、演奏者を応援しているお客さんもいます。

お母さんが怒鳴っているのはコンクールのせいでしょうか?それともお母さんのせいでしょうか?「物」や「形」には感情がないです。コンクールが良いか、悪いか、簡単に結論を出す事はできません。結局、物事を良くするか、悪くするか、力を持っているのは人間です。高い理想を掲げたコンクール、愛情を持った審査員、そして思いやり・優しさのあるお母さんだと、出演者にとって結果自体は悪くても、コンクール=悪者にはなりません。その反対に結果にはショックでも、それを乗り越える事で多くを学ぶ事ができると思います。

回りの人の「心」が、「形」より大事ではないでしょうか。結果が芳しくなかった者に対し、審査員がちゃんとフォローして、良いところを褒めて、悪いところを指摘しながら、これから必要な「やる気」を起させ、指導者の先生や身内の人たちが愛情をもって接すれば、その人は心が強くなって、自信も付きます。厳しい事を言われても、反省してから元気に立ち直って、更に良い音楽を奏で続けて行けるのです。大切なのは形ではなく、人の心です。

ステップはとても素晴らしい理想的な企画だと思います。しかし、これも「形」ですので、回りの人の愛情がとても大事だと思います。主催者、アドバイザー、お客さんが、舞台の上で頑張って弾いている出演者に向けて、温かい気持ちを送る事が大切と感じます!実は、ある先生が「血液型がA型の人はピアニストの仕事には向いていない!」というような事をおしゃいました。A型の人は優し過ぎるので、自分を強く出すのが苦手だから演奏には向いていない、というような話でした。実は・・私はA型です!少しショックでしたので、何も言えませんでした(これもA型らしいかな?)。でも確かに、私はあんまり「自分」を強く主張できる性格ではないです。自分より、人に小さな光でも与えることができたら、それでその人がピアノや音楽がもっと好きになってくれたら・・・これを私の使命だと感じます。レッスンでも、審査の時でも、アドバイザーの時でも、コンサートを弾く時でもそう感じます。軽いショックを受けてから、こう考えて、私はまた明るくなりました!たくさんの人の演奏を聴いて応援したい!という気持ちが一層強くなりました!

音楽に限らず、新しい事にチャレンジするのは誰にとっても大事な経験だと思います。妻と一緒に、ステーションを立ち上げて、7月2日に初めてステップを開催します。僕と一緒にアドバイザーを務めて下さるのは、一から指導して下さった林苑子先生、そして私が大好きな本「ピアノを読む」等の著者である岳本恭治先生です。会場は東京の表参道から7分、外苑前の駅から1分以内の素晴らしいお寺です。このお寺に(少し隠れた)ホールがあります。とても心安らぐ場所です。そしてこのホールには、私が日本で初めて弾いたべヒシュタインのグランドピアノがあります。私にとって、とても思い出深い、特別な楽器です。このステップでは、現在出演者を募集しています。このお寺で、私たちの光を浴びて、ピアノを弾きませんか?または、興味ある方は聴きにいらしゃいませんか?楽しい会にしたいと思いますので、是非来てください!私にとって新しいチャレンジになります。

今回の連載は「先生」の言葉の自己流解釈からはじまりましたが、最後にもうひとつ。「聴く」という漢字は「耳に14の心」と書きますね!門の下に耳(聞く)と違って、「心」が字に入っています。しかも14も。14つの心を込めて皆の演奏を聴きたいと思います。楽しみです!

それでは、また!

ルイ・レーリンク

今回の録音はもう1つの新しいチャレンジです。はじめて古楽器の録音しました。私が大・大・大好きの楽器です。この楽器についてまた次回を書きたいと思いますので、どうぞお楽しみに!

楽器:Rosenberger(1820年)/ピッチ:431Hz/調律:古典調律バロッティ/調律師:加藤正人/場所:ユーロピアノ(八王子)/録音:実方康介/演奏:私です・・・





ルイ・レーリンク

オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。

NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。

ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp

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