第19回 興味/曲:シューマン:ピアノ・ソナタ第1番,嬰ヘ短調,作品11,第1楽章
何週間前に私の両親がオランダから日本に遊びに来ました。
何度か来た事ありますが、初めての日本旅行は私がまだ8歳の時でした。実は日本だけでなく、一ヶ月かけて東南アジアの色々な国を回ったそうです。僕はもちろんオランダで留守番でしたが、今でもはっきり覚えているのは、お母さんからもらった絵はがきに書いてあった日本での不思議な出来事の数々です。京都に行った時に、まるで映画スターのように両親がたくさんの子供たちに「サイン」を頼まれていること、日本の小学生達は制服を着て、男の子達は帽子をかぶっていること・・・。
まだまだたくさんありますが、何1つて想像できない事でした。オランダの学校に制服はないですからね。もうひとつはゲームの事でした。まだゲームがオランダにない時代でハガキには「日本の喫茶店ではテーブルにテレビが入っていて、それを囲んでゲームに熱中している」と書いてありました。お母さん達は宇宙に行っているようでした。でも、おみやげに小さなBANDAIゲームを買ってもらいました。もぐらを叩くゲームでこれを翌日学校に持って行くと、皆が私の回りに集まって来ました。その日に少し人気者になりました(はじめて!)。それからずーっと日本に興味を持っていました。
「どうして日本語ができるようになったのですか。」よく聞かれる質問です。
私は日本語のレッスンを一度も受けた事がないのですが、ある秘密があります。皆さん「ちびまるこちゃん」って知っていますか?私はオランダでちびまるこちゃんという漫画が大好きでした。私の日本語の先生はちびまるこちゃん、と言っても過言ではありません。「まるこちゃん」を読みたい一心で少しづつ日本語を覚えるようになりました。時々日本語のテキストや参考書などもちらっと見てみましたが、敬語や文法など難しい事で埋め尽くされていて、逆に興味が遠のいてしまうように感じました。
興味は不思議な事ですね。漫画を読めば興味がでるが、勉強になった途端、興味がなくなる!やっぱりピアノを教える先生や教材の影響はすごく大きいですね。
私は小さい頃ベートベンの「エリーゼのために」が大好きでした。
毎日毎日この曲を弾いていました。しかしある日の事ですが、この曲を弾きすぎて興味がなくなってしまいました。その時にどうしてベートベンがこの曲を作ったかな~等々、色々考えました。そしてこの話を考えました。「ベートベンが好きな人ができました。その人の名はエリーゼ。エリーゼはとても綺麗なお嬢さんでした。美人でとてもお金持ちだった。ベートベンは彼女のことが大好きで、あ~結婚したいな~と毎日祈り続けたほどでした。彼女は僕の事どう思っているかな~?でも実はベートベンはあんまり自信がなかった。なぜなら、お金もない・・仕事もない・・性格はめちゃくちゃ・・そして顔はブスだ!どうしようか??ある日の事ベートベンは野原で散歩しました。新しい曲を書きたかったが、エリーゼへの想いで頭がいっぱいだったので、外で少しクールダウンです。しかし、やっぱり音楽に集中できないベートベンはエリーゼのことばかり考えていました。エリーゼにプロポーズしたいですが、彼女は僕の事を果たして好きかな?嫌いかな?道に咲くお花を摘んで、花占いし始めました。彼女は僕を好き・・嫌い・・好き・・嫌い・・ミ・・レ・・ミ・・レ・・ミシレドラ(どうかな~?)・・・」このようなイメージを頭の中で作ると、音楽はとても魅力的に生き返りました。もちろんこれは私が作った話で、事実ではないです。でも先のまる子ちゃんのように、文法や事実より、身近な事を考えれば段々興味がわきます。
ソナチネを弾いている子供と一緒に音楽にあわせてお話を作るのはとても面白いです。子供ものすごい空想力を持っていますね。ここはクレメンティが犬を散歩させています・・ここはモーツァルトが海に泳いでイルカと遊んでいるメロディです・・とても素晴らしい発想が多いです。このように自分の気持ちを音楽で表現するのはとても尊くて、美しい事だと思います。しかし多くの子供は4年生になると、学校で記憶や暗記する義務が増えて行き、それにつれて空想力が落ちて行きます。子供の脳の動きや考え方が段々偏ってしまいますので、子供の成長に音楽はとても重要だと思います。
この前の連載に高校時代の録音を公開しましたが、今回はその続きとして学生時代の録音を聴いて下さい。正直に告白すると、苦手なピアノ先生がいました。その先生のレッスンを受けて、ピアノをやめたくなったこともある程とても辛い時期でした。しかしその後、素晴らしい先生との出会いも出来ました。ピアノに興味を持たせてくれた先生でした。「こう弾きなさい・・それをやめなさい・・何で出来ない・・」とは絶対に言わない先生でした。先生がピアノに座って弾き出しますと「僕でしたらこの方が好きです・・聴いてごらん、この和声の綺麗なこと!」レッスンではピアノを弾きながら、生徒と一緒に音楽の「真実」を探します。もし先生が「これは正しい弾き方だから、こう弾きなさい」とおっしゃったら、「答えはこれなんだから覚えなさい」というのと同じで、音楽というよりは「記憶」です。答えがわかっていると、本当の興味は沸きません。全部「わかっている」人の演奏を聴きますと、私は少し冷めてしまいますが、これと対照的に、先生が「真実」を探している姿は本当に印象的でした。言葉だけではなく、自身が音楽に向かう姿で方向を表してくれたこの先生は本物の音楽家、芸術家ではないでしょうか。
日本語で「先生」は先に生きると書きますね。
生きる事には終点はないでしょう。動きを表している言葉です。「先生」は生きて動いています。探しています。何か答えらしき物を見つけても、これかな、いや、そうじゃない、常に探しています。「答えを知る」事とは意外と反対なのかも知れません。
今回の録音はこの先生に支持していた時期の録音です。まだ「学生っぽい」演奏だと思いますが、先生の影響で音楽に興味が段々出てきた自分が聞こえてきます。自分にとって新しい起点でした。
それでは、また!
ルイ・レーリンク
オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。
NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。
ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp