第09回 飛べ/曲:ベートーヴェン「ピアノソナタ作品2の1番」
私はピアノを弾く時、いつも「空を飛ぶじゅうたん」のイメージが頭に浮かんで来ます。鍵盤を触って、ピアノから音が出てくると、まるで魔法のように私はピアノと共に空へ飛んで行きます。演奏しながら、色んな所に行ったり、タイムマシンみたいに過去に行ったり、未来へ飛んだりします。周りを忘れて、ピアノと一緒に旅に出る感覚に近いです。意識したことはあまり無いのですが、レッスンや音楽の話の中でも、「飛ぶ」や「放す」という言葉をよく使っているようです。実はピアノを「弾く」という言葉があまり好きではないからかも知れませんが、手の中の鳥を空に放すように、ピアノから音を「放して」とよく言います。放した音を目で探して見て、部屋の中に音は今どこにいるか(響いているか)をよくイメージしています。教える時でも、レッスンが終わったら、時々生徒に、飛んで、飛んで~世界へ飛んで、と言います。やっぱり私は飛ぶのが好きかな?
レッスンや練習に色々なピアノを使っていますが、特にヨーロッパで作られた楽器をよく使います。私はピアノという楽器が大好きです。一番面白いのは、それぞれの楽器からまったく違う音色や響きが出て来ること。同じ曲でも、ピアノによって、(空飛ぶじゅうたんのように)連れて行ってくれる場所は全然違うので驚きです!そして離陸できないピアノもあります。
私の音楽の感じ方を少し説明しましょうか。鍵盤のあたりの響きより、もう少し遠い所の響きをいつも聴こうとしています。例えば、部屋の一番遠い所を見て、そちらの響きを聴こうとしています。これは、弾いた後の瞬間ですね。次は、音を弾く前の瞬間です。音をどのように弾きたいか(響かせたいか)を考えます。そして、ここでイメージした音を放したい(響かせたい)気持ちを体の中で作ります。その遠い所まで音を届けたい、と思う気持ちです。(時々教える時に、生徒が音を弾く直前に、私は生徒の手を止めて、次の音を本当に弾きたいか聞きます)そして最後に、音をピアノで弾く瞬間。これはこのふたつの間に挟まれています。体を使って、気持ちと音をなるべく遠くまで届くように放します。そして、その場所に音を使って「絵」を描いたり、音は粘土になって「形」を作ったりします。楽しいよ!
これは私が大好きなフォルテピアノです。1820年製のRosenbergerです。この響きを聴きますと・・・・(言葉がないです)幻の音、魔法みたいです!是非いつかこのページで、この楽器で弾くハイドン、モーツァルト、ベートーベンやシューベルトを皆さんに聴いてもらいたいです! |
ピアノの一番大きな欠点は音を弾いた後に音を調整する事が出来ない事です。ヴァイオリンや歌のように音をだしてからその音の「上」にクレッシェンドやデクレッシェンドやヴィブラートをピアノでは作る事が出来ないですね。だから残念ながら多くの人は音を出してから、その音の長さや響きを聴く事をしません。空間を満たしている音を聴かずに、音を弾いた後すぐに、その音の存在を忘れてしまいます。そうしますと、弾く瞬間が一番大事になって、鍵盤を叩く事が「くせ」になります。
楽器は先生と同じぐらい大切です。特にヨーロッパの楽器は私に音の聴き方を教えてくれました。想像できないほどの、幻のような音がピアノから出ます。特にドイツやオーストリアの楽器は音を弾いた後の響きがとても美しいです。これはヨーロッパの響きです。家や町の作りが日本と違うので、町で聞こえる音や響きも違います。夜、道を歩いている人の足音の響き・・日曜日の朝の教会の鐘の響き・・土曜日の市場の響き・・家の中の話声にも響きがあります。この響きの感覚は楽器に含まれていて、音色が美しいだけでなく、音を出した後の響きを聴きますと、次の音をどう弾こうかを考えさせてくれます。想像もできなかった音色が新たな音楽世界へのドアを開いてくれて、「空飛ぶじゅうたん」のように、ピアノと共にその新しい世界へ飛んで行く事が出来ます。
残念な事ですが、最近は鍵盤を叩く瞬間しか聴いていない人が多いです。正しい音、正確なリズム、はっきりした強弱、粒を揃えた演奏を求めている人が多いです。私がピアノを勉強をしていた時に、これがすごく辛く感じました。自分の演奏は周りにきつい型にはめれられたように感じました。しかし、運よく、良い先生に出会えて、良い楽器に出会えて、その辛い型から飛び立つことが出来ました。
ピアノと共に空へ飛んで、飛んで~世界へ飛んで行きましょう!
これが、私の言いたかったメッセージです。
それでは、また!
ルイ・レーリンク
今回この録音に使ったピアノはザウター(新品)でした。南ドイツらしい響きの楽器です。(比較的に)柔らかい木を使って、木の響きのする楽器です。そして音の外側は柔らかくて、音の中心は星のように光っています。素晴らしいピアノです。このピアノメーカーの歴史はとても長いです。会社を作ったのはグリムという人でした。彼はナネッテ・シュタインとシュトライヒャー夫婦のウィーンの工房でピアノ製造を修業した。ベートーベンはこの工房の楽器が最も好きでした。グリムは修業後、南ドイツへ戻って、独立。子供がいなかったので、彼の養子は後をついで、工房の名前は「ザウター」に変わりました。このメーカーは今までも、ウィーンの幻の音色、珠ような音の音づくりの伝統を続けています。 |
今回このビデオを収録したロケーションは世田谷区の千歳烏山にあるユーロピアノでした。楽器はザウター(新品)でした。どうしても、この曲をザウターで録りたくて、ユーロピアノのショールーム1階で閉店後に録音しました。外は台風の影響で大雨でしたので、車の音などが少し録音に残っていますので、ごめんなさい。
オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。
NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。
ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp