第05回 行間を読む/曲:バッハ 前奏曲 cis-moll BWV849
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私は日本に来てから、あちこちの学校で子供のためにコンサートをやっていました。
僕には、日本の学校に通った経験がありませんから、色々と学校のことがわかってこのようなコンサートも大好きです。北海道から九州まで、幼稚園から高校まで、いろいろな所でピアノを弾いていました。ホールだけではなく、体育館(バスケットリングの下)、学校の入り口(下駄箱のそば)、そして教室の中でも演奏した事あります。
小学校の音楽室は、どこの学校でも雰囲気が似ています。必ず、作曲家たちの絵が壁に飾っていますよね。バッハ、モーツァルト、ベートーベン、チャイコフスキーが私達を見つめています。子供たちの教育を見守っているようです。この大物の作曲家たちの前で演奏すると、少し緊張もします。絵を見ますと、彼らはかなり厳しい顔をしていますよね!でも、作曲家たちは毎日そのような厳しい顔をしていたかしら?
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一番好きな作曲家は誰ですか?っと聞かれたら、バッハと答えます(日によって違う答えもあるけど・・)。しかし、バッハをあまり好きではないピアノの生徒がたくさんいます。生徒さんに、「バッハと言えば何が一番先頭に浮かんで来る?」と聞くと、たくさんの人が小学校に飾っていた絵と答えます。絵からもらった印象の影響はとても大きいですね。
カツラをかぶって、真面目な顔をしている少し太ったおじいさんの絵は、あんまり身近に感じられない。ショパンとリストの素敵な絵と比べますと少し不公平ですよね!
バッハの肖像画の「せい」で、彼は作曲家たちの中で一番人間的に見えないかも知れません。
もちろんバッハはあのおじいちゃんの顔で生まれてきた訳ではありません。でも、例えば孫からおじいさんを見ると、おじいちゃんにも若い時があって、おじいちゃんにも「ロマンティック」の時があったとは少し想像しにくいかも知れません。
私達はバッハを孫がおじいさんを見るように見ているのでしょうか。
作曲家の伝記を読みますと、作曲家の知り合いからお話はとても多いです。作曲家は毎日何をしていたか、どんな楽器を弾いていたか、だれと付き合っていたか、どんな格好をしていたか、様々な参考になる情報がありますが、その情報だけで作曲家の内面を見るのはとても難しい事です。伝記を読めば本当の作曲家の素顔(内面)を見る事できるでしょうか?人と実際会っても、その人の内面を見る事はなかなかできないですが、でも音楽の中には作曲家の内面が隠されていますでので、彼の素顔を音楽の中に見つける事ができます。
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バッハの音楽はどんな風にピアノで弾けばいいか?確かに、現在ピアノで弾いている曲は、バッハがピアノじゃなくてチェンバロやクラヴィコードのために書いたものです。では、ピアノをチェンバロみたいに弾けば良いでしょうか?チェンバロ風に弾けば、少し当時の雰囲気が演奏に出るかも知れませんが、その「雰囲気」は内面、それとも外面でしょうか?
流行の音楽はある短い期間だけ人気がありますが、少し時間がたてばダサく古く感じます。しかし、いい音楽は何百年間後の人々を感動させる事ができます。どんな世代でも、どこの国の人でも・・・。形(外面)より、その音楽の「中」にとても強い物があるのだと思います。それは、音楽のメッセージでしょうか?特にバッハの音楽の内面的なメッセージはとても美しいです。どんな楽器で弾いても心を込めて奏でれば、美しく聴こえると思います。形よりも音楽の内面を大事にすれば、演奏には音楽の素晴らしさが出ると思います。
人間の喜びや悲しみなど、神様へのお祈りのように我々の気持ちを語っているバッハの音楽、僕は大好きです。それぞれの音程はひとつの意味を持ちます。それぞれの和声はひとつの感情を表します。そしてその音をつながっているリズムは人間の心のように動いています。ピアノは打楽器より、歌う楽器として考えたいです。ピアノを打ちますと、音を弾いた後すぐ音の存在を忘れます。しかし音楽のおいしいところは音と音の間にあります。その瞬間何が聴こえますか?
ピアノはひとつの「おけいこ」として見ますと(上手に)弾けるようになるのが目標ですが、その考え方から離れると、音楽はとても楽しくなると思います。曲の最後までうまく弾くより、音と音の間のところを聞いて、味わえば音楽をもと楽められるようになります。日本語でも「行間を読む」と言いますね。音楽でも「音間を読んで」という言い方があればいいでしょう!音と音の間を読みますと、きっと作曲家の「内面」を見つける事できると思います。
それでは、また!
ルイ・レーリンク
![]() 今回このビデオを収録したロケーションは調布市の深大寺にある: "スペースオブバイフォー"でした。 |
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オランダ出身。7歳からピアノを始め、15歳で音楽院入学。アムステルダム・スヴェーリンク音学院に於いてW・ブロンズ氏他に師事する。1996年音楽活動の為、日本に移住。「肩の凝らないクラシック」をモットーに各地で通常のコンサートから学校や施設のコンサート、香港等海外でも公演。九州交響楽団との共演、CD「ファイナルファンタジー・ピアノコレクションズ9」の演奏と楽譜監修を行うほか、CD「夢」をリリース。個人/公開レッスンや音楽講座を行い、ピアノ・音楽指導にも意欲的である。洗足学園音楽大学非常勤講師、洗足学園高等学校音楽科講師として、「演奏法」の授業 、演奏家を目指す生徒のための「特別演奏法」の授業、ピアノレッスンを受け持つ。
NHK/BSテレビ「ハローニッポン」、「出会い地球人」
TBSテレビ「ネイバリー」、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」他出演。
ピアノ演奏法のページ : http://www.senzoku.pianonet.jp も作成中
演奏者のホームページ http://www.pianonet.jp