今こそ音楽を!第6章4.生活空間・自然環境に溶け込むステージ(2) 文化が企業価値に
音楽は古代から、コミュニティや社会の中で、人と人をつなげたり、人を癒す力を発揮していた。現代社会においても、音楽の世界だけにとどまらず、もっと開かれた環境でそのポテンシャルを発揮する時がきている。今回は、早くから音楽や芸術のソフトパワーに着目し、多様な人材を活かしている企業をご紹介する。
~株式会社パソナグループ 代表取締役グループ代表 南部靖之氏
パソナグループ代表・南部靖之氏。ピアノと青田に囲まれたロビーにて。
貴社には、音楽人材を生かし、その活動両立を支援する「ミュージックメイト」などの事業がありますが、音楽や芸術をどのように捉えていらっしゃいますか。
南部靖之氏:音楽や芸術など文化産業がこれからの新しい産業として成長していくだろうと思います。そして、今後益々"ソフトパワー"に注目が集まり、新しい雇用を生んでいくでしょう。また、音楽家、芸術家のような多種多様な人材が企業の中で働くことで、いわば化学反応が起こり、社員もよりイキイキと活躍できるようになる。社会や企業が文化的なものを建設的に取り入れることが、結果として音楽家の支援になり、音楽活動とオフィスワークのダブルキャリアで働くことができる環境づくりにも繋がっていくと考えています。
「社会の問題点を解決する」を企業理念にしているパソナグループでは、雇用創造に挑戦し、様々な方々が自分の能力・才能を発揮できる機会を提供するため、文化・芸術活動にも取り組んでいます。30年前からオーケストラのコンサートやミュージカルの企画・制作、若手音楽家たちの活躍の場を創出し、2006年には音楽家・芸術家の両立支援事業「ミュージックメイト」をスタートしました。音楽を志す社員も多く、社内にはピアノが何台も置いてあります。
緑にあふれる社内。オフィスビルはグリーンカーテンに覆われている。
私自身も1日の時間を四分割して、6時間は人に会ってインプットする時間、6時間は講演等のアウトプットの時間、6時間はピアノ、和太鼓、タップダンスなどをしています。また週1回はコンサートや演劇を観にいくようにしています。25年ほど前にハーバード大学長宅でのパーティに参加した時のことです。アイビーリーグの優秀な学生が10人くらいいたのですが、1人がピアノを弾き始め、2人が社交ダンスを踊り始めました。ふと気がつくと、日本人2人だけ何もしていない。その時、「文化の深みが人間の価値を作っている」という一番大切なことを感じました。
そのご経験が生かされているのですね。貴社の緑や音楽に囲まれた環境も素晴らしいと思いました。
社内には事業所内保育所として「パソナファミリー保育園」がありますし、特例子会社のパソナハートフルでは、障害をもつ社員が200人ほど働いていて、いつも彼らが作る手作りの無添加で体に優しいパンを食べています。美味しいですよ!社内にはスポーツマンもいれば、音楽家もいれば、美術家もいる。多様な人材が多様な働き方で活躍していることによって企業の総合的な価値が決まる。単に文化というだけではなく、それが「力」だと考えています。
ミュージックメイトの社員と一般の社員が一緒に働くことによって、社内に変化はありますか?音楽家にはどんなポテンシャルがあると思われますか?
一人一人異なる能力を持つもの同士が集まることで、化学反応が起こり、それぞれ違った効果が生まれてきます。社会では、めまぐるしいスピードでIT化が進んでいますが、一方で多くの人々は癒しを求めています。パソナグループでは、社内で毎日ミュージックメイト社員によるコンサートを開催していますが、美しい音楽を聴いてもらうことによって、社員の心身の健康にも繋がり、結果、業務効率にも繋がっていくと考えています。
今、企業も文化を育てる時代になっています。売上や規模だけではなく、どのような人材が働いているか、どれだけ事業が社会に貢献しているのか、そのような指標も評価されるようになっています。人は夢を持っています。夢は人に帰属します。国の力も企業も皆同じです。力に長けた人は知的な人に負けるかもしれないが、知力のある人は人間味の深みのある人には負ける。文化という深みのあるものが、その企業の力になっていくでしょう。
- 第1章:社会的観点から
はじめに 「社会は何を求め、音楽には何ができるのか」- 1.「表現する力」
表現したい本能は赤ちゃんから大人まで
表現様式を知った先にある世界 - 2.「文脈を読み解く力、創る力」
音楽家は優れた解読者でもある!?
体系的な学びは、他分野にも応用できる - 3.「本質を問う力」 リベラルアーツしての音楽~知識を知力に
リベラルアーツとしての楽器演奏~感覚を表現に
問いかけ体験して学ぶ、アクティブ・ラーニング - 4.「協働する力」 自分の役割を知り、他者とコラボレーションする
米大学AO入試で評価されることは
PISA世界学習到達調査に新たな指標 - 5.「世界とつながる力」
小さい頃から身につく異文化理解力・受容力
世界の音楽仲間に出会い、関わること
様々な世代と接すること - 6. 見えにくい力を評価すること
音楽や勉強での見えにくい力とは
音楽を含む全人的教育では、問いかけが鍵に
言葉になる以前の、感じる力
- 1.「表現する力」
表現したい本能は赤ちゃんから大人まで
- 第2章:歴史的観点から
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1. 古代・中世では、音楽を教養として
古代ギリシアの教養人=リラが弾ける人だった
中世では、音楽を大学教養課程として学んだ -
2. 近代では、音楽を専門&教養教育として(米)
ドイツからアメリカへ渡った音楽教育
ハーバード大でカリキュラム近代化・自由選択化へ -
3. 日本では、音楽を専門&師範教育として
日本に西洋音楽を導入したのは
近代から現代へ至る歴史の中で
大学音楽教育に音楽を取り入れる新たな動きも -
4. 民間が担ってきた教養としてのピアノ学習
指導者環境の変化によって、繋がり支え合う指導者
学習者環境の整備によって、動機づけが変わった
音楽環境はどんな学びの変化をもたらしたか -
3. 日本では、音楽を専門&師範教育として
日本に西洋音楽を導入したのは
近代から現代へ至る歴史の中で
大学教育に音楽を取り入れる新たな動きも -
4. 民間が担ってきた教養としてのピアノ学習
指導者環境の変化によって、繋がり支え合う指導者
学習者環境の整備によって、動機づけが変わった
音楽環境はどんな学びの変化をもたらしたか -
5. 専門と教養が融合する時~金子一朗さんインタビュー
1.音楽と数学はなにが似ているのか?
2.全員が弾く時代に、音楽の何を学ぶべき?
3.音楽・数学・歴史・全てを関連づけながら学ぶこと
-
1. 古代・中世では、音楽を教養として
古代ギリシアの教養人=リラが弾ける人だった
- 第3章:脳科学的観点から
- 第4章:経済「音楽の見えない経済的価値とは?」
- 1. 暮らしの質全体を測るべき 日本国民は教養費・教育費にどれだけかけているか?
-
2. 自己成長~それは消費か投資か?
音楽を習う動機を7つに分類
人間には成長欲求がある
中高生・成人のステップ参加 - 3. 自己成長および社会との関係構築に
人間には繋がりたい欲求もある
社会への還元もステーション運営や社会貢献など
自己投資だと思える消費とは?自ら選び、自ら関わること -
4. 教養費を増やして医療費を軽減!?
教養・技能教育は1兆円、精神科病院は1.5兆円規模
高齢者×アートの取り組み、および社会的インパクト研究(英) -
5. 人的資本投資の21世紀~エコノミストに聞く
世界の新しい幸福度指標は「人」と「社会」
今現在の支出削減より、未来のための投資を -
6. 世界の文化費・教育費のトレンドは?
フランス×人間理解と能力開発
イギリス×全ての人にアートを&経済効果測定も
スウェーデン×民主主義社会の創造 -
7. 世界的に投資が進む人文学研究、音楽も力に
学際的研究が進むと、なぜヒューマニティーズが重要になるのか
ヒューマニティーズの音楽・芸術分野への応用
- 第5章:大学最新カリキュラム編
- はじめに
- 1. 音楽で思考法、実践力、創造力を養う~総合大学教養科目 慶應義塾大学~知識は実践してこそ!「身体知・音楽」
- 2. 音楽を深く学んだ社会人を育てる~総合大学音楽学部・音楽専攻
青山学院大学~芸術の学びを糧に社会へ
フェリス女学院大学~音楽が心にある豊かさ
金城学院大学~3タイプの音楽家像を想定して - 3. 音楽の可能性をさらに掘り下げて~音楽大学
音楽大学 その1「東京藝大~スーパーグローバル大学創成支援認定校に」
音楽大学 その2「東京音楽大学~演奏と作曲を同時に学ぶ」
音楽大学 その3「昭和音楽大学~博士課程&短大社会人コース」
番外編 音楽で思考法や創造力を養う~国際バカロレア東京学大付中高
- 第6章:ライフスタイル&ボディ編
音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/