海外の音楽教育ライブリポート/菅野恵理子

今こそ音楽を!第6章4.生活空間・自然環境に溶け込むステージ(2) 文化が企業価値に

2016/03/14
第6章:ライフスタイル&ボディ編
4
生活空間・自然環境に溶け込んでいくステージ2

音楽は古代から、コミュニティや社会の中で、人と人をつなげたり、人を癒す力を発揮していた。現代社会においても、音楽の世界だけにとどまらず、もっと開かれた環境でそのポテンシャルを発揮する時がきている。今回は、早くから音楽や芸術のソフトパワーに着目し、多様な人材を活かしている企業をご紹介する。

"文化"が企業の価値に
~株式会社パソナグループ 代表取締役グループ代表 南部靖之氏
芸術文化がこれからの新しい産業に
南部靖之氏
パソナグループ代表・南部靖之氏。ピアノと青田に囲まれたロビーにて。

貴社には、音楽人材を生かし、その活動両立を支援する「ミュージックメイト」などの事業がありますが、音楽や芸術をどのように捉えていらっしゃいますか。

南部靖之氏:音楽や芸術など文化産業がこれからの新しい産業として成長していくだろうと思います。そして、今後益々"ソフトパワー"に注目が集まり、新しい雇用を生んでいくでしょう。また、音楽家、芸術家のような多種多様な人材が企業の中で働くことで、いわば化学反応が起こり、社員もよりイキイキと活躍できるようになる。社会や企業が文化的なものを建設的に取り入れることが、結果として音楽家の支援になり、音楽活動とオフィスワークのダブルキャリアで働くことができる環境づくりにも繋がっていくと考えています。

「社会の問題点を解決する」を企業理念にしているパソナグループでは、雇用創造に挑戦し、様々な方々が自分の能力・才能を発揮できる機会を提供するため、文化・芸術活動にも取り組んでいます。30年前からオーケストラのコンサートやミュージカルの企画・制作、若手音楽家たちの活躍の場を創出し、2006年には音楽家・芸術家の両立支援事業「ミュージックメイト」をスタートしました。音楽を志す社員も多く、社内にはピアノが何台も置いてあります。


緑にあふれる社内。オフィスビルはグリーンカーテンに覆われている。

私自身も1日の時間を四分割して、6時間は人に会ってインプットする時間、6時間は講演等のアウトプットの時間、6時間はピアノ、和太鼓、タップダンスなどをしています。また週1回はコンサートや演劇を観にいくようにしています。25年ほど前にハーバード大学長宅でのパーティに参加した時のことです。アイビーリーグの優秀な学生が10人くらいいたのですが、1人がピアノを弾き始め、2人が社交ダンスを踊り始めました。ふと気がつくと、日本人2人だけ何もしていない。その時、「文化の深みが人間の価値を作っている」という一番大切なことを感じました。

そのご経験が生かされているのですね。貴社の緑や音楽に囲まれた環境も素晴らしいと思いました。

社内には事業所内保育所として「パソナファミリー保育園」がありますし、特例子会社のパソナハートフルでは、障害をもつ社員が200人ほど働いていて、いつも彼らが作る手作りの無添加で体に優しいパンを食べています。美味しいですよ!社内にはスポーツマンもいれば、音楽家もいれば、美術家もいる。多様な人材が多様な働き方で活躍していることによって企業の総合的な価値が決まる。単に文化というだけではなく、それが「力」だと考えています。

人は夢を持っている、企業の可能性は人!

ミュージックメイトの社員と一般の社員が一緒に働くことによって、社内に変化はありますか?音楽家にはどんなポテンシャルがあると思われますか?

一人一人異なる能力を持つもの同士が集まることで、化学反応が起こり、それぞれ違った効果が生まれてきます。社会では、めまぐるしいスピードでIT化が進んでいますが、一方で多くの人々は癒しを求めています。パソナグループでは、社内で毎日ミュージックメイト社員によるコンサートを開催していますが、美しい音楽を聴いてもらうことによって、社員の心身の健康にも繋がり、結果、業務効率にも繋がっていくと考えています。

今、企業も文化を育てる時代になっています。売上や規模だけではなく、どのような人材が働いているか、どれだけ事業が社会に貢献しているのか、そのような指標も評価されるようになっています。人は夢を持っています。夢は人に帰属します。国の力も企業も皆同じです。力に長けた人は知的な人に負けるかもしれないが、知力のある人は人間味の深みのある人には負ける。文化という深みのあるものが、その企業の力になっていくでしょう。

INDEX

菅野 恵理子(すがのえりこ)

音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/

【GoogleAdsense】