海外の音楽教育ライブリポート/菅野恵理子

ロン・ティボー国際コンクール 基礎を踏まえる美しさ―審査員 野原みどりさん

2015/10/29
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1992年ロン・ティボー国際コンクールで優勝した野原みどりさん(ピアニスト、京都市芸大准教授)。今回審査員を務めてのご感想をお伺いしました。

―ロン・ティボーコンクールの元優勝者であり、今回審査員を務められた立場から、まず今回のコンクールのご感想をお願いします。

私も彼らと同じような年代の頃に受けたわけですが、それから時間が経ち、その間に様々な勉強や活動を経て、今回若い方々の演奏を聴かせて頂きましたが、私が受けた頃も審査員は同じようなことを感じていらっしゃったのではと思いました。やはり若い方ならではの勢いある演奏で、これから楽しみな方がたくさんいました。一次予選で落ちてしまった方の中にも、通過してもよかったと十分思える方もたくさんいましたし、その方々が残ったらコンチェルトでもまた同じように立派な成果を残すことができたのではと思います。それがコンクールの難しいところですが、コンクールがすべてではありませんので、喜んで聴いてくれる方がいる中で演奏を続けていくこと、あるいはその後に後進を育てることに繋がっていけばいいなと思います。

―3位入賞した實川風さん、5位の深見まどかさん、日本人は2名が入賞しました。彼らの演奏や、日本人の方々をどのようにお聴きになりましたか?

實川さん素晴らしかったですね。なかなかいないタイプです。派手なパフォーマンスをしない演奏で、国際コンクールでここまでこれるいうのはなかなかありませんので、彼のスタイルを貫き通してほしいと思います。深見さんもヨーロッパで長く勉強を続けていらして、実にしっかり準備されていました。日本人は少し前までは「きちんとしているけれど個性がない」と言われることも多かったですが、今回何名か聴かせて頂きましたが、きちんとしていることの素晴らしさや美しさがあり、聴いていて好感を持てる、安心できるのが良い点だと思いました。基礎を踏まえた上で個性が出るのが一番望ましいのですが、まずやるべきことをきちんとやること、作曲家のスタイルを逸脱しすぎないのは大事なことです。それは日本人の美点だと思いますので、このまま続けて頂きたいと思います。日本人が良いと思うだけではなく、ヨーロッパの方々も認めていらしたと思います。

―ご自身の経験も踏まえ、これからさらに成長するためのアドバイスがあればお願いします。

特にヨーロッパ中心のコンクールでは、まず基礎を踏まえることが大事です。伝統的なものが積み重なってできている世界なので、まず基礎を踏まえ、その上で自分が表現したいことをしてほしいと思います。一人一人の性格が違うことが個性なのであって、特に何か目立たせようとか、コンクールで勝つために奇抜なことをする必要は、私はないと思っています。

またピアノの場合には、ピアノのことしか考えなかったり聴かなかったり、ということがありがちです。音楽はピアノを弾くだけではなく、すべての楽器で演奏されるものですので、音楽を広く大きく全体を捉え、考えを巡らせることを大事にして頂きたいですね。


菅野 恵理子(すがのえりこ)

音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/

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