今こそ音楽を!第3章 幸福学観点から~前野隆司先生インタビュー(2)
幸せのためには感動が大事です。そこで昨年私の研究室で「感動のSTAR分析」を開発しました。「SENSE」は感じること、「THINK」は理解、納得、発見したり、ただ感じるだけでなく自分で考えること、「ACT」は上達のために努力する、達成する、稀有なものに遭遇すること、そして「RELATE」は他人と繋がったり、愛情を感じること。4つの頭文字を取って「STAR」と名付けました。
脳の認知はまず何かを感じ(SENSE)→その結果何かを考えて(THINK)→その結果何らかの行動を起こし(ACT)→その結果複合的な愛や繋がりになる(RELATE)。だからこの順番なのです。すごく感動することは、4つの要素がうまく入っています。
音楽ならばまず美しさを感じる(SENSE)ところから始まります。たとえば「小学生の歌に感動した」という投稿がありますが、小学生がここまでできるという圧倒(THINK)、小学生が積み重ねてきた努力(ACT)、子どもとの繋がり(RELATE)などが複合して感動します。
またオーケストラのグループに入っていたり、音楽をしている人は成績がいいという研究もあります。幸せだとやる気が出るので成績も上がるし、本来の力が発揮できます。音楽をすると脳がよく働くというのも、STARが満たされるからだと思います。
感動のメカニズムが分かってきたら、今度はそれを生かしたデザインをすることを考えています。たとえば「感動するピアノ教室」のデザインをするとしたら、SENSEとRELATEが足りなければそれを入れていく、等が考えられます。
現在大学院生の7割が社会人で、ベンチャー企業社長、経営者など多様なバックグランドをもっているのですが、中にはプロのヴァイオリン奏者兼コンサート企画者として活躍している方もいます(清水有紀さん)。彼女は今のコンサートのあり方に問題意識を持っていました。聴衆との関係性があまり意識されておらず、お客様が本当に満足しているのだろうかと。そこで演奏者の苦労話を披露したり、弟子が師匠のエピソードを紹介したり、師弟が共演したり、観客がステージに上がって歌うなど、従来のコンサートで欠けていたRELATEを高めるコンサートを実践しています。
皆が自己実現し、多様に分かり合い、助け合う世界が理想。そのためには「和して同ぜず」の精神が大事という。現在ドリームマップ協会と連携し、「子どもたちの夢を絵にする活動がどれだけ幸せ度を高めているか」についても研究中。「学校で、国語、理科、社会などは教えられるけれど、そもそもそれらは何のために、どんな夢のためにあるのか、は教えられていません。『幸せの授業』が小中高に入るべきだと思います」と前野先生。
ぜひお伝えしたいことがあります。美しいものを創っている人は幸せ、という幸福学研究結果です。ただ絵を見たり音楽を聴くだけではなく、作曲、演奏、絵を描く人、食事を創る人など、何か美しいものを創っている人は幸せです。私は絵を描くのですが、絵を見るとその感動が分かります。ピアノの良さは元々あまりわかりませんでしたが、娘がピアノを習い始めてから自分のことのように思うようになり、ピアノの感動が以前よりぐっと増しました。自分で創造する、あるいは創造する人が近くにいることが幸せにつながります。音楽や芸術は幸せのために必要なのです。
芸術が凄いのは、「美しいものを創っているから幸せ」だということ。たとえば論文を書くことや工場で物を作ることも一生懸命何かをしているのには変わりませんが、美しさの創造ほどには幸せには影響しません。美しいものや心に響くものの方が、強く幸せに関わるのです。現代社会には、芸術なんて本当にいるのかという議論がありますが、「美」だから要るのだと思います。
では、なにが「美」なのか、なぜ誰もが感じる「美」があるのか?これはいまだに謎です。盆栽の美しさの研究をしたことがあるのですが、美学、哲学、芸術学などを繋ぐような統合的学問がなく、途方に暮れて中断しています。ドミソはなぜ美しく聞こえるのか、短調はなぜ暗く聞こえるのか。ロボットの機能美や、「幸せの4つの因子」の形(四つ葉のクローバー)も美です。「美」についてもさらに追究していきたいですね。
- 第1章:社会的観点から
はじめに 「社会は何を求め、音楽には何ができるのか」- 1.「表現する力」
表現したい本能は赤ちゃんから大人まで
表現様式を知った先にある世界 - 2.「文脈を読み解く力、創る力」
音楽家は優れた解読者でもある!?
体系的な学びは、他分野にも応用できる - 3.「本質を問う力」 リベラルアーツしての音楽~知識を知力に
リベラルアーツとしての楽器演奏~感覚を表現に
問いかけ体験して学ぶ、アクティブ・ラーニング - 4.「協働する力」 自分の役割を知り、他者とコラボレーションする
米大学AO入試で評価されることは
PISA世界学習到達調査に新たな指標 - 5.「世界とつながる力」
小さい頃から身につく異文化理解力・受容力
世界の音楽仲間に出会い、関わること
様々な世代と接すること - 6. 見えにくい力を評価すること
音楽や勉強での見えにくい力とは
音楽を含む全人的教育では、問いかけが鍵に
言葉になる以前の、感じる力
- 1.「表現する力」
表現したい本能は赤ちゃんから大人まで
- 第2章:歴史的観点から
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1. 古代・中世では、音楽を教養として
古代ギリシアの教養人=リラが弾ける人だった
中世では、音楽を大学教養課程として学んだ -
2. 近代では、音楽を専門&教養教育として(米)
ドイツからアメリカへ渡った音楽教育
ハーバード大でカリキュラム近代化・自由選択化へ -
3. 日本では、音楽を専門&師範教育として
日本に西洋音楽を導入したのは
近代から現代へ至る歴史の中で
大学音楽教育に音楽を取り入れる新たな動きも -
4. 民間が担ってきた教養としてのピアノ学習
指導者環境の変化によって、繋がり支え合う指導者
学習者環境の整備によって、動機づけが変わった
音楽環境はどんな学びの変化をもたらしたか -
3. 日本では、音楽を専門&師範教育として
日本に西洋音楽を導入したのは
近代から現代へ至る歴史の中で
大学教育に音楽を取り入れる新たな動きも -
4. 民間が担ってきた教養としてのピアノ学習
指導者環境の変化によって、繋がり支え合う指導者
学習者環境の整備によって、動機づけが変わった
音楽環境はどんな学びの変化をもたらしたか -
5. 専門と教養が融合する時~金子一朗さんインタビュー
1.音楽と数学はなにが似ているのか?
2.全員が弾く時代に、音楽の何を学ぶべき?
3.音楽・数学・歴史・全てを関連づけながら学ぶこと
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1. 古代・中世では、音楽を教養として
古代ギリシアの教養人=リラが弾ける人だった
- 第3章:脳科学的観点から
- 第4章:経済「音楽の見えない経済的価値とは?」
- 1. 暮らしの質全体を測るべき 日本国民は教養費・教育費にどれだけかけているか?
-
2. 自己成長~それは消費か投資か?
音楽を習う動機を7つに分類
人間には成長欲求がある
中高生・成人のステップ参加 - 3. 自己成長および社会との関係構築に
人間には繋がりたい欲求もある
社会への還元もステーション運営や社会貢献など
自己投資だと思える消費とは?自ら選び、自ら関わること -
4. 教養費を増やして医療費を軽減!?
教養・技能教育は1兆円、精神科病院は1.5兆円規模
高齢者×アートの取り組み、および社会的インパクト研究(英) -
5. 人的資本投資の21世紀~エコノミストに聞く
世界の新しい幸福度指標は「人」と「社会」
今現在の支出削減より、未来のための投資を -
6. 世界の文化費・教育費のトレンドは?
フランス×人間理解と能力開発
イギリス×全ての人にアートを&経済効果測定も
スウェーデン×民主主義社会の創造 -
7. 世界的に投資が進む人文学研究、音楽も力に
学際的研究が進むと、なぜヒューマニティーズが重要になるのか
ヒューマニティーズの音楽・芸術分野への応用
- 第5章:大学最新カリキュラム編
- はじめに
- 1. 音楽で思考法、実践力、創造力を養う~総合大学教養科目 慶應義塾大学~知識は実践してこそ!「身体知・音楽」
- 2. 音楽を深く学んだ社会人を育てる~総合大学音楽学部・音楽専攻
青山学院大学~芸術の学びを糧に社会へ
フェリス女学院大学~音楽が心にある豊かさ
金城学院大学~3タイプの音楽家像を想定して - 3. 音楽の可能性をさらに掘り下げて~音楽大学
音楽大学 その1「東京藝大~スーパーグローバル大学創成支援認定校に」
音楽大学 その2「東京音楽大学~演奏と作曲を同時に学ぶ」
音楽大学 その3「昭和音楽大学~博士課程&短大社会人コース」
番外編 音楽で思考法や創造力を養う~国際バカロレア東京学大付中高
- 第6章:ライフスタイル&ボディ編
音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/