海外の音楽教育ライブリポート/菅野恵理子

チャイコフスキー国際コンクール(5)ファイナル結果発表

2015/07/03

第15回チャイコフスキー国際コンクールの結果が発表された。表彰式はヴァイオリン部門会場でもあったチャイコフスキーコンサートホール。ロシア連邦副首相ゴロデッツ氏、およびマリインスキー劇場総裁ワレリー・ゲルギエフ氏による挨拶に続いて、声楽部門、チェロ部門、ヴァイオリン部門、ピアノ部門の順に結果が発表された。ピアノ部門はこちらの通り。

第1位:ディミトリ・マスレーエフ(Masleev, Dmitry)+モーツァルト協奏曲賞
第2位:ルーカス・ゲニューシャス(Lucas; Geniušas)、ジョージ・リ(Li, George)
第3位:セルゲイ・レドキン(Redkin, Sergei)、ダニール・ハリトノフ(Kharitonov, Daniel)
第4位:ルカ・デバルグ(Debargue, Lucas)+モスクワ批評家協会賞
第5位:―
第6位:―
セミファイナル・ベスト賞:イリヤ・ラシュコフスキー(Rashkovsky Ilya)、セルゲイ・トゥルパノフ(Turpanov Mikhail)

ファイナルは一晩に協奏曲2曲を弾くという、チャイコフスキー国際コンクールならではの過酷さであったが、どのファイナリストも持てる力を十二分に発揮して最後まで弾き切った。よく考えられた構成、安定したテクニック、落ち着いた呼吸でオーケストラとのアンサンブルも見事にこなしたディミトリ・マスレーエフ(Masleev, Dmitry)が第1位金メダルを受賞した(チャイコフスキー1番、プロコフィエフ3番)。二次予選でのモーツァルト協奏曲賞も同時受賞。彼はモスクワ音楽院で学んだ後、現在はコモ湖ピアノアカデミーで研鑽を積んでいる。その丹念な学びは、幅広い楽曲に対応できるテクニックだけでなく、一次予選チャイコフスキーの小品「悲しい歌」や二次予選のラフマニノフのコレルリ変奏曲テーマの歌い方、ハイドンのソナタHob.XVI/48からは様々な表情を引き出す力も見せた。コンクール直前に母親が亡くなるという悲劇にも負けず、気丈に立ち向かったこの大舞台で優勝を手にした。モスクワの聴衆も心からの拍手を贈っていた。

また第4位のルカ・デバルグ(Debargue, Lucas)はその芸術的感性の豊かさと創造性を高く評価され、モスクワ批評家協会賞(The prize of Moscow Music Critics Association)を受賞し、今年12月モスクワでのソロリサイタル開催が決定している。彼のソロリサイタルは音楽の中にある深い心情を掘り起し、我々の心を揺さぶるものだった。これからも長く記憶に残りそうだ。彼ならばどう音楽を解釈するのだろう、そんな期待もさせてくれる。それぞれに素晴らしい資質を持った彼らに、これからさらなる活躍に期待したい。

こちらは表彰式後にキャッチした声楽部門・男声1位のアリウンバータルさん(Ganbaatar, Ariunbaatar)。カメラを向けると「アサ・ショウ・リュウ!」(笑)。モンゴルの音楽教育は、主にロシアの影響を受けている。モンゴル国立音楽舞踊学校でのピアノ教育の様子からは、初等教育から高等教育に至るまで一貫した高い水準の教育方針が伺える(2013年度IFPS会議・ピアノ科主任教授の発表より)。

またこちらは、ヴァイオリン部門2位(1位なし)のユーチェン・ツェンさん。Tseng Yu-Chienさん。台湾出身、現在はカーティス音楽院で学んでいる。優雅で繊細な感性を持ち、まさに伸び盛りの20歳。これからが楽しみだ。こちらは2012年度エリーザベト王妃国際コンクール(第4位)のリポート


菅野 恵理子(すがのえりこ)

音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/

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