舞台芸術の力 ~FACPリポート(4)社会的・経済的インパクトをどう測るか
芸術は社会発展にどう貢献しているのだろうか?芸術活動の社会的・経済的インパクトをどう図るのか?またその分析、分析を踏まえた戦略をどのように組み立てているのだろうか。
芸術活動が社会に与えるインパクトはどのような指標で測るのか?コンサートやフェスティバルでは、イベント単体の収支とともに、その周辺地域・都市経済に与える経済的インパクトを算出している。公演の規模だけでなく、ソフトパワーとしての影響力の大きさを測ることができる。
前述したように、横浜市では泉州市(中国)、光州市(韓国)とともに「東アジア文化都市2014(Culture City of East Asia)」に選定され、芸術やクリエイティブ産業を推進し、それが市の経済活動活性化にも貢献していることが報告された。その中心的イベントとして、トリエンナーレ、ダンスフェスティバル、音楽フェスティバル(横浜音祭り)が順繰りに開催されている。過去2年間の経済効果は以下の通り。
・2012年度ダンスフェス(2か月半):180プログラム 125万人来場、経済効果70億円
・2013年度音楽フェス(10日間):315プログラム、380万人来場、経済効果152億円
また2013年度開催報告書によれば、来場者アンケートで「横浜の魅力が高まったか」に対して、約3分の2が「大変高まった」「やや高まった」と回答している。
そして今年はトリエンナーレが開催されている。テーマは「華氏451の芸術~世界の中心には忘却の海がある」。その他にも、砂の彫刻展、パラトリエンナーレ、BankART Project IV~東アジアの夢、Find ASIA~横浜で出逢うアジアの創造の担い手、仮想のコミュニティ―アジアなどのイベントが目白押しである。「芸術と文化は人を魅了し、また教育、福祉の問題を解決に導くことができる」と中山こずゑ氏(横浜文化観光局長)は語る。
一方インド出身映像プロデューサー、サンジョイ・ロイ氏によれば、ジャイプール文学フェスティバルでは世界各国から250名の講演者と10万人の来場者を集め、観光・交通・飲食・美容産業にも貢献し、その結果3~400万ドル(3~4億円)の経済効果を地域にもたらしたそうだ。氏は比較データとして、ブロードウェイでは90~110億ドル(1兆円)、ロンドンのウェストエンドは30~50億ドル(3000~5000億円)、エディンバラ芸術祭では2.25億ドル(225億円)という実績を上げながら、アジアにおける芸術への投資は2020年には35億ドル(3500億円)の経済発展をもたらすだろうと述べた(これまで20~25%の年間成長率で15億ドルの経済発展に寄与)。芸術への投資はコミュニティの絆を深め、発展と進歩の土台を築いてくれる上、こうした経済効果も見込めるとした。
芸術活動の価値は、経済指標だけでは測れない要素もある。社会あるいは個人の生活においてどのようなインパクトがあるのだろうか。
台湾のジンジー・ウー国立政治大学名誉教授は、個人- コミュニティ- マクロ- 国際の4つのレベルに分けて社会的インパクトを論じた。まず個人レベルでは太鼓グループU-Theatreがドラムと瞑想(禅)を組み合わせたプログラムを紹介。一般聴衆だけでなく高校中退や少年院に送られた青少年も対象とし、エネルギーを解放し、集中力を高め、コミュニティへの帰属意識を高めるのに効果を発揮しているという。コミュニティレベルでは児童対象演劇グループ(Paper Windmill Children's Theatre*)の活躍が目覚ましく、環境保全や自然保護、麻薬拡散防止など、社会的テーマを扱うこともある。入場料は無料、全ての活動経費はその地域の企業や個人からの支援で賄われているそうだ。マクロレベルでは文化芸術をアイデンティティとして都市づくりを進めている宜蘭県(Yilan County)を紹介。宜蘭國際童玩節(Yilan International Children's Folklore & Folkgame Festival)は毎年50万人以上の訪問者を数え、文化活動の中心地と言うイメージだけでなく、宿泊、交通、飲食産業の急成長にも貢献しているそうだ。
また海外と変わらない芸術教育環境を提供することも社会的インパクトとしている。New Aspectという芸術文化プロモーターは36年間に101か国との芸術文化交流の機会を創出。マーサ・グラハムなど世界の著名舞踊団体を台湾に招聘するほか、台湾出身アーティストの海外広報も活発で、U-Theatreはベルリン放送合唱団と舞台『LOVER』を協同制作し、今春ベルリンで世界初演された。
こうした芸術活動の社会的インパクトが認められた証として、民間からの寄付がある。U-Theatreも全て民間の資金援助で成り立っている。またタイのバンコク交響楽団は1982年創設以来、年間1.5~200万ドル(約2億円)がファンドレイジングでカバーされているそうだ。また日本財団から支援を受けていることも報告された。中国のあるオーケストラでは3分の1が政府支援、3分の1が民間寄付、3分の1がチケット収入で、外資系企業からの支援も多いとのこと(グオ・シャン前アジア・太平洋地域オーケストラ連盟理事長)。音楽・芸術団体に関するファンドレイジング記事については、こちらもご参照頂きたい。
音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/