梅村知世さんインタビュー~ベルリン留学1年間で変わったことは?
「ドイツ作品を勉強したい」という一念でドイツ語も勉強し、東京芸術大学修士課程を修了し、現在ベルリン芸術大学ピアノ科で学んでいる梅村知世さん。憧れていたクラウス・ヘルヴィッヒ先生に習い始めてちょうど1年が経ち、ドイツ語も臆することなく使いながら、充実した学生生活を送っているようだ。コンサートでの堂々とした演奏からも、その成長ぶりが伺えた。今回は普段のレッスンなどについて話をお伺いした。
まず、この1年で勉強の方法やスピードが大きく変わったようだ。どのようなレッスンなのだろうか?
「ヘルヴィッヒ先生のレッスンでは、大きな作品や内容的に深く時間のかかる作品を除いては、基本的に1曲につき1回を目標としています。レッスンでまず演奏をした後、『この曲はいつから練習を始めましたか?』とおっしゃることが多く、どのくらいの時間をかけてその曲を作り上げたのか確認されます。先生の教え方はとてもアカデミックで、楽譜に書いてあることを忠実に追っていきます。とても博識な方なので、専門用語や難しい単語もレッスン中に沢山出てきます。自分である程度その曲への考え方やイメージをまとめておかないと、先生とディスカッションできないままとなってしまうので、その曲に取り組む時はより曲と向き合い、作曲家の意図や楽譜から読み取れることを、音にする意識が高まりました。他の生徒のレッスンを見学することもでき、とても刺激になっています。」
現在ヘルヴィッヒ先生門下は約20名。すでに演奏旅行で世界中を駆け巡っているピアニストもいて、先生も生徒も多忙である。レッスン時間の割り振りも毎週早い者勝ちで決まるため(メールで順次予約)、タイミングよく取れないと週末をはさんでレッスンが続くこともありなかなか気が抜けない。そして毎回新しい曲を自分で仕上げて持っていくという緊張感。さらに門下生発表会も定期的にあり、それも大変な刺激になるという。
そんな緊張感ある生活を続けるうちに、自ら調べたり、新しい曲に挑戦する姿勢が自然になじんできた。音楽的な要求が高ければ高いほど、そこに到達したいという意欲がわいてくる。
「ヘルヴィッヒ先生は豊富な知識をもとにあらゆる角度から楽譜を解釈され、その曲を深めるための資料もご紹介して下さいます。シューマンだったらジャン・パウルの小説や詩を原文で読んだ方がいいよとか。ドイツにいる間にそうした原著や自筆譜などにも触れたいと思っています。」
これからさらに音楽的な要求の高さに応えていくには、バックグランドの厚みが鍵になる。ある生徒は「ハイドンのソナタを弾きたいです」と伝えたところ、「じゃあ、ハイドンを20曲勉強しないとね!」とチャーミング(?)にヘルヴィッヒ先生は答えたそうである。そうして積み重ねた厚みが、プログラムの組み方や演奏解釈にもにじみ出てくる。
「世界に一歩出ると、いろいろ気づくことがありますね」という梅村さん。その謙虚さと意欲が、きっと次の扉を開いてくれる。
音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/