若手ピアニストのための英語ワークショップ (3)福田靖子賞対象・全4回
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- この日はまず単語とフレーズの習得から(「演奏・奏法編」50語)。単語を1つ1つ全員で読み上げ、自分の意見を述べるための構文も確認しました。
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- 第3回目の聴き取りテーマは「大規模・大編成の楽曲誕生」。教材は今回もマイケル・ティルソン=トーマス氏のスピーチ映像を使用しました。
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まずスピーチのシャドウイングから(13:35-14:35)。ソナタ、交響曲、協奏曲などの誕生について述べています
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耳を馴らした後、語句の聴き取りへ。ベートーヴェンの交響曲第5番に関するMTT氏の見解を聞き(13:35-14:15)、文中の空欄を埋めていきます。聴き取る語句は前々回より長くしました。
And in ( ), composers like Beethoven could share ( ). A piece like Beethoven's Fifth basically witnessing how it was possible for him to go from ( ), over the course of a half an hour, step by exacting step of his route, to ( ).
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次は内田光子さんがシューマンのピアノ協奏曲について語るインタビューを聴いて質疑応答(1:15-2:10)。「○○さんいわく~」という伝聞形式の表現を使いながら、発言の主旨を聴き取る練習です。「シューマンの音楽を学ぶのは難しい、なぜなら彼の逞しい想像力と複雑な思考回路によって○○が生み出されているから」等と内田さんは述べています。1語でもいいのでそのキーワードが聴き取れると発言の主旨がつかめるでしょう。何度か繰り返し聴いて答えてもらいました。
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- 最後は会話へ!第3回目のスピーキングテーマは「自分の意見とその根拠を述べること」。("What is the character of this piece? Why do you think so? Tell us the reasons.")それぞれ自分が選んだ曲目について、自らの感受性や美意識を大事にしながら意見を述べ、その根拠を説明するトレーニングをしました。
佐藤君はリストの『ダンテを読んで』を"mysterious", "darkness", "god"の3語で表現。まず楽曲構造について質問しました("How does the music begin? ", "Where and how do you think this music reaches the climax?", "How is it concluded?" )。「冒頭では地獄の門が開いて主人公が地獄に落ちていく様子を表しています。緩徐部分では天からの光が差し込んでくる様子が描かれていて、ここがクライマックスの一つ。最後は現世を突き抜け、天からの光に包まれながら天上の世界に行く感じで終えます。冒頭と最後を対比的に弾きたいです」との解釈。"天からの光"の英語表現を考えながら、「光といっても中間部と最後ではニュアンスが違うと思います」という佐藤君に、その違いを言葉で考えてもらいました。
本山さんはプロコフィエフのピアノソナタ第2番を"dry", "mysterious", "fairy tale"の3語で表現。情景描写に関する言葉が出てきたのでその解釈について問いかけました。("Why do you regard this music as a fairy tale? Please explain us the narrative and the reasons of your interpretation.") それに対して「全体を通して童話のように感じます。第1楽章序奏はナレーションから入り(dry)、テーマでは森の中を不思議な光に誘われて彷徨う様子(mysterious)が表わされています。追いかけていくと魔女が現れて魔法にかけられるが、第4楽章で魔法が消え、全ては幻だったと悟ります」と、物語に置き換えて答えてくれました。豊かな感受性を大事にしながら、解釈の根拠となるものを見出して英語で表現していく練習をしました。
中川さんはショパンのピアノソナタ3番第1楽章を"strong", "delicate", "beautiful"と表現。楽曲構造についての一問一答を通して("Where is the theme(s)? How is it (are they) exposed?", "Where are the exposition and the development? Which is longer?", "Where is the recapitulation begun?"等)、「冒頭は力強く始まり、長い提示部を経て展開部でクライマックスを迎える」という曲全体の解釈を説明してくれました。「一番好きな箇所は?そこをどう弾きたいですか?」という質問には、「提示部から展開部にかけての移行部(transition)が一番好き。美しくデリケートに弾きたいです」と答え。全体を捉えてから部分を見ると、展開部を際立たせるように移行部を繊細に弾く、のような解釈が生まれやすくなりますね。全体像を捉えることは、音楽を英語で表現する上で大切な要素です。
- 「私はこう思う」という自主的な姿勢はとても大事。さらに「私はこう思う。なぜなら~」を意識すると客観性が加わり、より解釈を掘り下げて聴衆に伝えることができるでしょう。今回は曲を形容詞で表現してもらいましたが、曲のコンセプトを一語で表したり、曲全体の流れを要約して伝える練習をすると、さらに深い表現追求に結びついていきますね。
音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/