ピアノ指導者団体の国際ネットワーク(IFPS)アジアで初発足!(1)初会議より
アジアで初発足!
~International Federation of Piano Societies (IFPS)
「アジアはピアノがこれだけ盛んなのに、ピアノ指導者団体の国際間ネットワークがない。じゃあ、立ち上げましょう!」今年5月ピティナが発起人となって各国へ招待状が送られ、アジア初となるピアノ指導者団体の第1回連絡会が行われる運びとなった。そして11月13日~14日9か国16団体の代表者25名が香港に集まり、2日間に渡って有意義な交流が行われた。その様子をリポートする。
開会の挨拶はピティナの福田成康専務理事から。「我々は異なる国・地域に住みながら同じクラシック音楽を学んでいますが、ピアノ教育法、普及の仕方、社会での価値づけなど、それぞれの国で独自の発展を遂げています。この新しいネットワークを通して、各国の団体が交流・情報交換することによって、さらなる発展に繋がることを願っています」と連絡会開催の主旨を述べた。また香港まで足を運んで下さった出席者の皆さんや、会場手配や多くの友人知人へ声かけして下さった香港在住正会員・篠原多雅子先生、司会進行役を引き受けて下さったお嬢様の慶子さんへ感謝の意を表した。
続いて出席者の自己紹介へ。日本の全日本ピアノ指導者協会から始まり、フィリピン、モンゴル、中国(天津・広州・上海、深川 ※北京は急用により欠席)、香港、インドネシア、シンガポール、米(LA)のピアノ諸団体・音楽院代表者がそれぞれ自己紹介をした。すでにピティナをご存知の方も多く、ジン・カイファさん(Jin Kaihua, Vice President of Tianjin Piano Professional Council)は、天津アマチュア国際コンクール立ち上げに際してピティナ創立者・福田靖子先生とのエピソードを記した記事を読み上げ、福田先生への感謝を述べられた。
昼食は全員で香港料理を堪能した後、午後は3人によるプレゼンテーションが行われた。
まずカナダからのゲスト2名が、トロントの王立音楽院、グレン・グールド音楽学校、RCM音楽検定についての説明を行った。(詳しくは第2回へ)
そして香港のガブリエル・クォック先生(香港アカデミー・フォー・パフォーミングアーツ・ピアノ科主任教授)より、同ジュニアコースの説明がなされた(詳しくは第2回へ)。
また篠原多雅子先生より、「ピアノ指導法の改革」についてプレゼンテーションが行われた。ピアノを通して人間教育を心がけること、ピアノを弾くための正しい姿勢を心がけること、身体と感覚が繋がっていることなど、日本人研究者による科学的検証例なども盛り込みながら、各国指導者に問いかけがなされた。
これを受けて、各国では良い教育法がなかなか広く伝わっていかないこと、試験やコンクールのための指導法になってしまっていること等が、問題点として挙がった。そんな中でもシンガポールでは新しい試みがいくつか実践されており、一般ピアノ指導者を対象にした4回シリーズの講座を試験的に行い、シンガポール大学付属ヨン・シートウ音楽院ピアノ科主任教授が集中的に指導にあたっていることが紹介された。(”Teaching Matters” vol.1-4)。また米国(LA)では数年前から始まった“ティーチング・オン・ステージ”が紹介された。ステージ上で自分の生徒3名に対して指導を行い、プロのピアニストからアドバイスを受けるというもの。先生自身が指導を受ける立場になることで多くの示唆が得られるようだ。その後、3つのグループに分かれてそれぞれ問題意識の共有や情報交換を図った。
2日目は連絡会の運営方針を決めるグループディスカッションを行い、当連絡会の名称を”International Federation of Piano Societies”(IFPS)と決定、活動目的は年1回の連絡会や情報交換を通して各国のピアノ指導レベルを向上させることとした。会員資格はピアノ指導者団体・教育機関代表者・事業主催者・および将来組織化を検討している指導者であれば参加可能で、オープンなネットワークとすることが確認された。なお連絡会は毎年1回各国持ち回りとし、次回は2014年8月東京に決定した(ピティナ・ピアノコンペティションに続く8月23日(または24日)。2015年は中国・天津市、2016年は神戸市を予定。
ほとんどが初顔合わせという状況ながら、ファシリテーターの篠原慶子さん(英語・中国語が堪能)の力添えもあって会は和やかに進行し、1日半という短い時間ながら有意義な交流の場となった。今回出席された各団体代表者は欧米留学経験者がほとんどで、自国の音楽教育に対する客観的視点と、若い才能に対する自信と誇りを持っていたのが印象的だった。その上でさらに指導力を高めていくにはどうすればよいか、率直な意見交換を求めて集まった方々であった。「『音楽』という共通するものがあるだけで、これだけまとまった力が発揮されることに感動しました」(ピティナの加藤哲礼事務局長)。これからこのネットワークが音楽を軸としてどのように広まっていくのか、音楽教育のあり方がどのように発展していくのか、とても楽しみである。
音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/