アメリカでは、なぜ舞台芸術支援が増えているのか(2)3つの目的とは?
舞台芸術支援が増えているのか? ~文化芸術支援の最大手・メロン財団を読み解く
財団創設当初1969年は舞台芸術への助成は約5.5万ドルで、全助成額の0.5%に過ぎなかった。
その年文化芸術全体への投資は23.5%であるから、舞台芸術の相対的位置づけが低かったということだ。とはいえ、当時の投資対象は主に美術館建設費であり、まだソフトよりハードが優先されていた時代と言えるだろう。
当初メロン財団では環境問題や医療分野などへも分散投資していたが、1990年代半ば頃から、「より狭く深く」人文・芸術支援の道へ踏み込んでいく。それは単に財政支援するだけではなく、業界全体の情報インフラ整備やネットワーク構築、市場調査、組織体制強化など、第三者的立場を生かした提言や支援であった。
その一環として、オーケストラ業界の現状考察と未来への提言を目指して、1998年に4回にわたりオーケストラ・フォーラムを主催した。10楽団から指揮者・楽団員・理事・事務局長・スタッフ・音楽業界内外の識者を集め、主に4つのテーマ(「リーダーシップ」「楽団員の役割」「コミュニティからの期待の変化」「レパートリーとプログラム」)について議論された。さらに多くの楽団が抱える財政難の打開策を探るため、全米トップ50の楽団や全米オーケストラ連盟からデータを収集し、「財政難は周期的な問題か、または構造的な問題か」というテーマで、専門家による分析を行っている(ETF Report)。これらも文化資源をより効果的に生かすための体制作りという点では、広義のインフラ整備といってよいだろう。なおオーケストラ・フォーラムの概要については番外編でご紹介する。
そしてここ5年ほど、メロン財団では急速に舞台芸術部門への支援額を増やしている。2007年に一度ピークに達したものの、2008年のリーマン・ショックを受けて2008~2009年度助成は目減りしているが、それでも2012年度には回復して約4.9千万ドルと過去最高水準に達している(表1・表2)。
要因の一つは、同分野への国家支援が急減していることへの危機感がある。もう一つには、2006年に会長とプログラム・ディレクターが一新したことも考えられる。ではこの新機軸の背景には、どのような考えがあるのだろうか。同財団が創設以来注力してきた「芸術文化がもつ資源(以下、文化資源とする)を、いかに効果的に生かすのか」という点から、主な支援内容を3つ挙げてみたい。
前述のオーケストラ・フォーラムでは、組織や業界を導くリーダーの意志決定がいかに大事かを再確認したことが、大きな成果であったようだ。それを支援に反映させたのが、全米オーケストラ連盟のプログラム「オーケストラ・リーダーシップ・アカデミー」「全米指揮者フェローシップ」への助成各100万ドルである(2007年)。特に次世代を牽引するリーダーシップの育成は重要課題であり、2003年にも同連盟による「リーダーシップ・トレーニングプログラム」に投資している。(※参考ページ )
こうしたリーダーシップ養成には、次世代を育てる教育機関との連携も欠かせない。例えばカーティス音楽院への助成プログラムでは、プロのアンサンブル楽団をレジデンス・アーティストにし、若い音楽家たちに将来役立つ起業家精神を学ばせている。さらにメロン財団では、ビジネススクールと提携して芸術界の経営者100名を育成するプログラムにも協力支援している(共に2011年度)。
音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/