海外の音楽教育ライブリポート/菅野恵理子

ヴァン・クライバーン国際コンクール(15)ファイナル1・毎夜協奏曲3曲の競演!

2013/06/08
6日からファイナル、いよいよ最後の競演の時がやってきた。この4日間は、毎日3人ずつ協奏曲を披露する。2000席を超えるホールは連日満席で、聴衆の熱気も最高潮に達している。さてファイナルの課題は室内協奏曲1曲(モーツァルト、ベートーヴェン)と、ピアノとオーケストラのための協奏曲1曲。共演はフォートワース交響楽団、レナード・スラットキン指揮という豪華メンバーである。ファイナルという場でも、またファイナリストは様々な表情を見せてくれた。

●ピノとオーケストラのための協奏曲

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選曲、オーケストラとの調和、表現など全てにおいて最も完成度の高かったのが、ワディム・ホロデンコ(Vadym Kholodenko, Ukraine)。まずプロコフィエフ協奏曲第3番ハ長調Op.26という選曲は完全に掌握しているレパートリーと思われ、演奏も予想通りの巧さであった。オーケストラとの呼吸のタイミングもリズム音色も音質も全てが的を射ており、推進力もあり、オーケストラともよく合う。安定感抜群の演奏で、満席の会場を沸かせた。2曲目はモーツァルト協奏曲第21番K.467。photo: The Cliburn / Carolyn Cruz

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ニキタ・ムンドヤンツ(Nikita Mndoyants, Russia)はプロコフィエフ第2番ト短調Op.16を選曲。美しく不気味に光る金管のような音や、内声を彩る木管のような音、多彩なアクセントのつけ方など、オーケストラと呼吸を合わせるだけではなく、一体となってプロコフィエフらしいエキセントリックな表現を試みていた。一瞬一瞬を大切にするあまり爆発的な推進力が感じられない時もあったが、どの瞬間もオーケストラと創る和声の響きを丁寧に表現した心意気に、さらに進化する余地を感じた。次はモーツァルト協奏曲第20番K.466。photo: The Cliburn / Carolyn Cruz

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フェイフェイ・ドン(Fei-Fei Dong, China)はラフマニノフ協奏曲第3番という大曲に挑戦。ピアニストならば誰もが一度はオーケストラと共に弾いてみたいという曲だろう。コンクールという場でその挑戦をした勇気、オーケストラに対峙しつつも美しい音を求める努力や、そして最後まで集中力を切らせることなく弾き切った経験は、今後彼女を成長させるだろうと思う。次はベートーヴェン協奏曲第4番Op.58。photo: The Cliburn / Carolyn Cruz


●室内協奏曲

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ファイナル進出を果たし勢いにのる阪田知樹さん(Tomoki Sakata, Japan)から。室内協奏曲はモーツァルト協奏曲第20番ニ短調K.466を選曲。短調だが、開放的で明るい音質が全体を支配していた。大きな弧を描くようなフレージング、転調時の音質の変化、カデンツァの落ち着いた表現等が印象的。曲全体から細部の表現を導き出すというよりは、彼が直感的に捉えたモーツァルトの美しさや憂いなどが様式感を踏まえた上で表現され、それが伸びやかな音に繋がっていた。その素直さは、苦難の中にあっても純真さを失わなかった作曲家の精神に通じているのかもしれない。次はチャイコフスキー協奏曲第1番Op.23、心待ちにしたい。photo: The Cliburn / Carolyn Cruz

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ベアトリーチェ・ラナ(Beatrice Rana, Italy)はベートーヴェン協奏曲第3番ハ短調Op.37を選択。決意に満ちた音と音楽の方向性、カデンツァにおける繊細な表現など、よく考えられた全体設計図に基づいて演奏された印象。呼吸も安定し、オーケストラともよく合い、よく耳を澄ませて音楽全体を聴いているのが伝わってくる。次はプロコフィエフ協奏曲第2番Op.16。photo: The Cliburn/ Carolyn Cruz

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ショーン・チェン(Sean Chen, US)はベートーヴェン協奏曲第5番変ホ長調Op.73『皇帝』に臨む。曲全体の構成を踏まえた大局観のある音楽の創り方で、起伏に富んだ楽想の膨らませ方や、単純になりがちな単音の旋律にも含みを持たせ、特に第1楽章のカデンツァは皇帝の独白のようでもあった(leggerementeだが)。ここぞという時の和音の深みが加わるとより説得力が増すだろうと思われたが、オーケストラとしっかり対峙した共演だった。次はラフマニノフ協奏曲第3番Op.30。photo: The Cliburn / Carolyn Cruz


菅野 恵理子(すがのえりこ)

音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/

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