海外の音楽教育ライブリポート/菅野恵理子

ヴァン・クライバーン国際コンクール(9)1400名のボランティアが大活躍

2013/06/01
アメリカはボランティアが盛んな国である。そして多くの音楽・芸術団体でボランティアの方が活躍している(参考記事:『アメリカでは、なぜ民間支援がつくのか?』(4)ボランティアの力を生かす)。ヴァン・クライバーン国際コンクールにはなんと1400人のボランティアがいるという*。長年関わっているパトリシア・ステッフェンさんに話をお伺いした。

―なぜクライバーンのボランティアを始めたのでしょうか?

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このコンクールとの関わりは1966年第2回大会からで、友人の誘いがきっかけでした。私自身は小さい頃にピアノを学んでいまして、結婚してこちらに住み始めてから市内のミュージッククラブに通うようになったのですが、そこでピアノ指導者の友人が沢山できました。その親友の一人が「クライバーンコンクールを見に行きましょうよ!」と誘ってくれたんです。その時バルコニー席は無料で、テキサス・クリスチャン大学のピアノ科教授の後ろに座って、彼女が開く楽譜を後ろから眺めていたんです。それが全ての始まりでしたね。以来、ほぼ毎回(1962年、1999年を除いて)演奏を聴いています。ボランティアを始めたのは1995年に現役引退してから、そして1999年からはパトロンになりました。

―47年にわたる長いお付き合いなのですね!ボランティアとしてどのようなお仕事をされたのでしょうか?

1回目はプレスルーム係でした。それから参加者のホスピタリティ係として、彼らのピアノ選定に付き添ったり、軽食を用意してもてなしたり、その後はコンクールのスクラップブックを製作したり、前回大会ではロビーの情報案内係長でした。聴衆には海外や市外から来ている方も多いので、案内地図などを用意したりしました。また空港から市内への送迎もしましたね。オルガ・ケルン(2001年優勝)、アレクサンダー・コブリン(2005年優勝)、ヨルム・ソン(2009年第2位)などをお連れしました。コンクール期間以外にも、通年で開催されるクライバーンコンサートの出演アーティストの送迎などもしています。ですから、年間を通してボランティアしているんですよ。

―1400人とは芸術団体の中でもかなり大規模だと思いますが、ボランティアはどのような組織になっているのでしょうか。

ホストファミリーや委員なども含めて総勢1400人いますが、ボランティアを統括するコーディネーターがお仕事をアレンジしてくれます。継続性を考慮して、毎回同じメンバーが組まれることも多いですね。また常に新しいメンバーをスカウトするようにしています。私も今通っているミュージッククラブや、理事を務めているフォートワース交響楽団シンフォニーリーグで「クライバーンコンクールのお手伝いもしませんか?」と声をかけています。他の音楽・芸術団体の方も協力的ですね。

―その中には、音楽とはあまりご縁のなかった方もいらっしゃいますか?

ええ、ピアノや楽器を習った経験がない方もいます。でも、世界中から来るピアニストや聴衆と出会えたり、ボランティア同士で知り合いになったり、ここでボランティアすることがどんなに楽しくて実り多い体験なのかを伝えています。多くの方が楽しんで関わって下さり、一度始めたら「次もぜひやりたいわ」と言ってくれますね。

―皆さんとても友好的で、ここにまた戻りたいという気持ちになりますよね。ところで第2回大会からお聴きになっているそうですが、特に印象に残ったピアニストを教えて頂けますか?

ラドゥ・ルプー(1966年優勝)も印象的でしたし、クリスティーナ・オルティーズ(1969年優勝)もよく覚えています。踊るようにピアノを弾いて、音も優雅でしたね。彼女が女性で初めて優勝しました。ウラディミール・ヴィアルド(1973年優勝)は今フォートワースに住み、ピアノ・テキサスでピアノを教えています。前回2009年大会では彼の隣で聴いていたんですよ。またアレクサンダー・トラーゼ(1977年入賞)はプロコフィエフの演奏中に弦を切ったんです、これはコンクールで初めて見た光景でした。でも大変パワフルで、素晴らしい演奏でした!

―まさにコンクールの歴史とともに歩んでいらしたのですね。ありがとうございました!

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初めは聴衆として、そしてボランティアとして関わるようになり、現在はパトロン(支援者)でもあるパトリシアさん。昨日が75歳の誕生日だったんですよ、ととてもそうは見えない明るく若々しい方でした。

(写真:Social Hostの二―デラーご夫妻。参加者の自由時間などに付き合い、市内を案内したりお食事に連れて行ったりする。なんと筆者はサンディエゴの全米ファンドレイジング大会で偶然彼女にお会いしていました!)



菅野 恵理子(すがのえりこ)

音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/

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