海外の音楽教育ライブリポート/菅野恵理子

ジーナ・バックアゥワー国際コンクール(8)小林愛実さん3位入賞

2012/07/01
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ジーナ・バックアゥワー国際コンクール・ヤングアーティスト部門のファイナル審査が行われた。満席となった会場は、開演前から熱気に包まれていた。審査結果は以下の通り。今回もピアノ伴奏はコレット・ヴァレンタインさんが務めた。(写真左より、Cao, Melemed, Jones, Kim, Kobayashi, Colafeliceの各氏)

1位 Leonardo Colafelice (Italy, 16) 
2位 Bolai Cao (China, 15) 
3位 Aimi Kobayashi (Japan, 16) 
4位 Jung Eun Kim (Korea,18 ) 
5位 Mackenzie Alan Melemed (USA, 17) 
6位 Fantee Jones (USA, 18) 

20120626_cao.jpgのサムネール画像
ボライ・コウさん(Bolai Cao, 15)はソロでも見せた力強さと抑制した音のコントラストや、優れたテクニックでチャイコフスキー協奏曲を弾ききった。粒立ちの良い開放的な音や飽くなき挑戦意欲は、これからを期待させる(写真はソロ演奏時)。小林愛実さん(Aimi Kobayashi, 16)はソロのベートーヴェンの熱情ソナタやスクリャービンのソナタ2番で発揮された、音楽を全身で受けとめる力や響きに対する優れた感覚は稀有なもの。ショパン協奏曲1番でもそれが伝わってきたが、やはり独自の世界を創り上げることができるソロでより発揮された。これから自己開拓していく中で、また変身する可能性を秘めている。ジュンユン・キムさん(Jung Eun Kim,18)はソロではポリフォニックな感覚や奥行がもっと欲しいと思う演奏だったが、ベートーヴェン協奏曲第4番では冒頭から集中力を発揮し、特にカデンツァで十分に惹きつけた。

優勝はレオナルド・コラフェリーチェさん(Leonardo Colafelice,16)。ソロ二次では推進力あるストラヴィンスキーのペトルーシュカを、またシューベルト等では和声の変化を慎重に聞きながら音楽を進めていたが、ラフマニノフ協奏曲3番ではそれらが影をひそめた印象。ソロと協奏曲を同じレベルでこなすことは難しいが、それでも意外性ある結果に会場でも意見が分かれた。ソロを重視しての結果と思われるが、それならば別の展開もあり得たかもしれない。彼の今後に期待したい。

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14歳から18歳というジュニアからシニアへの切り替えの時期において、評価の仕方も様々だったと思う。ジュニアとシニアの違いが音楽的に自立しているかどうかであるとすれば、今回の出場者32名には様々な段階の人がいたと言える。ジュニアとしての完成期か、あるいは解釈や表現を自分なりに模索し始めるシニア移行期の人もいただろう。表現や解釈がやや過剰だったり安定しなくても、それは成長段階の一つと捉えることもできる。そうした試行錯誤を経て、いつか自分の表現法を自ら掴み取っていくだろう。(写真:二宮裕子先生と小林愛実さん)

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審査員の一人ヨンヒ・ムーン先生(右写真・Prof.Yong Hi Moon, ピーボディ音楽院教授)は、この時期において何が大事かを伺ったところ、「自分自身であること。自分とは別の何者かになったり、自分にはないものを創り出そうとするのではなく、自分の中にあるものを見せていくことが大事だと思います。全体として大変レベルの高いコンクールでした」と語る。

いずれにしても重要なのは、ジュニア時代に培った基礎力を土台に、どう自分なりの勉強方法を見出して、シニアに成長した時に応用力を効かせることができるか。皆さん豊かな才能があるからこそ、それを自分で花開かせるためには、これから長く積み重ねていく時間が大切になる。長い道のりには同志や良きライバルがいて、それはコンクールで出会う仲間かもしれない。あるいは、今までにない音楽的刺激との遭遇かもしれない。

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今回実力がありながらファイナル進出を逃した中に、ファイナルをしっかり聴き、良い演奏には笑顔で「良かったよ!」と声をかけたり、審査員に積極的に意見を聞いている人が何人かいた。きっとまたどこかで、一段と成長した演奏を聴かせてくれるだろうと思った。(写真:結果発表後のレセプションの様子)


菅野 恵理子(すがのえりこ)

音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/

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