ジーナ・バックアゥワー国際コンクール(4)ヤングアーティスト部門1日目
2012/06/26
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ジーナ・バックアゥワー国際コンクール・ヤングアーティスト部門が始まった。14 歳から18歳までを対象とした部門だが、すでにシニアの域に達している参加者もいる。一次予選は25分のソロ演奏。今日の印象的な演奏をいくつか挙げてみたい。
小林愛実さん(Aimi Kobayashi,16)ベートーヴェンのソナタ第23番「熱情」のみという潔い選曲。ベートーヴェンの音楽を全身で受けとめ、音楽と一体化し、全身でピアノに託すという気迫あふれる演奏だった。第1楽章冒頭の主題から会場を惹きこんでいった。深い低音部や表情豊かな高音部、ハーモニーの僅かな変化や転調も全て音に表現する。細かいニュアンスを丁寧に描きながらも、音楽が縮こまることは一切なく、音楽の大きさと深さが直感的にぐっと伝わってくる。第2楽章もテンポを持続しながら楽節を有機的に変奏させ、第3楽章は終結部に至るまで推進力が保たれ、末尾の低音部はこの長大な作品を締めくくるのにふさわしいものだった。大作品と真っ向勝負した、快心の演奏だった。
韓国のヒョン・パクさん(Hyoeun Park,17)はショパンのバラード1番とリストの「ダンテを読んで」(巡礼の年第2年「イタリア」第7曲)という組み合わせ。どちらもストーリー性のある曲だが、実にダイナミックに音楽が展開していった。バラード1番はトツトツとした序奏から想像つかないほどに、様々な音色や音質を使い分けながら、大きな輪郭を描いてみせる。音楽の全体像をつかんだ上で、想像力を駆使して、各楽節の表現を広げているのだろう。「ダンテを読んで」は冒頭からドラマティックな力強い音で、中間部はテンポと緊張感を持続しながら天上にいるような神秘的な音で、こちらに揺さぶりをかける。しかし本人は至って冷静で、長大なストーリーのどこにいるのかわきまえている。
台湾のチアチェン・チャンさん(Chia-Chen Chiang,18)はメンデルスゾーンの前奏曲とフーガop.35-1、自作曲「Intermezzo」、リスト「灰色の雲」、ベルクのソナタ1番。メンデルスゾーンは様式をわきまえた節度ある音や音質、また左手も右手と同様の表現力をもち、こちらも全体を見通した演奏だった。その後自作曲を、無調に挑んだリストの後期作品(1881)とベルク初期作品(1907)の前に置く。この自作曲に時代の境目のような意味を持たせたのだろうか、タイトルと曲想が合っている。この選曲と曲順が興味深い。ちなみに二次予選でショスタコーヴィチ前奏曲全曲を弾く予定。
またショパン「序奏とロンド」でフレージングに自然な妙味を感じさせたイーリン・ルイさん(Yilin Lui, 17)、軽やかで明快なハイドンのソナタHob.XVI/31や、強靭なテクニックで迫力満点のサン・サーンス=リスト=ホロヴィッツ「死の舞踏」を弾いたアナ・ハンさん(Anna Han, 16)、少し惜しい箇所もあったがフォーレのノクターンOp.33-2とリスト「メフィスト・ワルツ」の対比的な選曲と表現が印象的なボライ・コウさん(Bolai Cao, 15)など、興味深い演奏も多かった。一方とても良く弾けているが、呼吸が浅くフレーズが途切れがちになったり、楽節毎のアイディアが良いが全体して統一感がなかったり、という例もあった。とはいえ全体的に良い姿勢、自然な呼吸といった基本がしっかりしている上、実に多彩な音のテクスチュアとカラー(というか陰影)を持っているピアニストが多かった。この年齢になると、これからどう成長していくのかが大分見えてくるように思う。その点において、学びの方向性を見るのに良い部門だと思う。
明日27日(水)は一次予選2日目。演奏時間は11:00―12:45、13:15―16:40、19:00―21:30予定。ライブ配信はこちらへ!(写真は会場内のショップ。参加者はもれなくジーナ特製Tシャツがもらえます)
菅野 恵理子(すがのえりこ)
音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/
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