FACP (2) 伝える―日本の今と未来像を伝える
FACPカンファレンス2日目には日本代表理事のスピーチが行われました。東日本大震災後の被災地の状況や音楽業界への影響、そして音楽を通じた復興への歩みが紹介されました。また「アジアの至宝」コーナーでは、ピティナの福田専務理事によるスピーチと、若手ピアニスト代表として中村芙悠子さんが演奏を披露しました。今の日本の姿は、どのようにアジア各国へ伝わったでしょうか。
3月11日未曽有の大地震と津波に続き、原発問題が深刻化している日本。日本の未来はどうなるのだろうか。まず善積俊夫氏(日本クラシック音楽事業協会常務理事)より、日本の社会状況と音楽業界の現状が報告された。2011年の年間コンサート数は昨年度(12,934公演)から大幅に減少し、大被災の影響が深刻であったのは確かだが、しかし一方で日本の音楽マーケットの潜在力は依然として大きく、世界に羽ばたく若手音楽家の活躍も期待できることから、復興へ向けて一歩を踏み出していることが印象づけられた。その一例として、被災地でチャリティコンサートを行う演奏家の交通費等をサポートする「心の復興基金」が紹介され、またMusic Weeks in TOKYO 2011にて被災者追悼の意を込め、モーツァルトのレクイエムが演奏されたことが報告された(10月6日・東京オペラシティ)。
続いてFACP副会長・茂田雅美氏(株式会社アスペン代表取締役)より、東日本大震災の被災状況が報告された。スライドに映し出される被災地の惨状やミューザ川崎ホールの天上落下の現場写真、コンサート中止に伴う収入減などは、どの国の参加者も他人事とは捉えておらず、深い同情の念をもって耳を傾けていた。続いて、震災後の各国の救援活動や種々の支援に謝意を表すため、Arigato Concertの開催が紹介された。NHK交響楽団・東京芸大および桐朋音大学生オーケストラメンバーが、岩手県の3小学校合同合唱団と福島県内中学校の吹奏楽団が共演すること、そして世界各国の在日大使が集まる予定であることが説明された(11月8日・サントリーホール)。「音楽は癒しを与え、再び力を与えてくれると信じている」というメッセージは、日本のみならずタイの大洪水被災者にも向けられ、FACPとして何かできないか皆さんにも問いかけたい、とスピーチが締めくくられた。
その後のQ&Aではフィリピンやインドネシアの参加者より、「どんな苦境に立たされようと、力強く復興に向けて歩むあなたの国の対応に我々も学んでいます。ありがとう」と温かい言葉が寄せられた。特に自然災害が多いアジア諸国では、復興に向けてのプロセスとノウハウを共有することは意義深いと思われる。
FACP理事・福田専務理事が"How to discover and develop young talents"についてスピーチ
「アジアの至宝たち」でピアノ演奏を披露した中村芙悠子さん。
すでに18回ほど参加しているジョン・ビクリー氏(FACP英国支局代表)。合唱団のマネジメントや、22歳以下の若手アーティストのキャリア・ディペロップメントプログラムを開発・推奨している。「FACPはいつも学ぶことが多く、英国でも生かすようにしています」。
さて、今回ピティナは「Asian Gems(アジアの至宝)」コーナーで、FACP理事でもある福田成康専務理事が3分間スピーチを行い、未来に羽ばたく若手アーティストとして中村芙悠子さんが演奏を披露した。まず専務理事のスピーチでは、各国では政府主導の文化政策が多い中ピティナは完全な独立機関であること、またその仕組みの中でどのように若いピアニストを発掘し成長させる場を提供しているか、さらに音楽的・人間的成長の場として異文化交流を積極的に進めていきたい、"Discover and Develop young talents in a global context"と呼びかけた。続いて淡いピンクのドレスに身を包んだ中村さんが登場、メンデルスゾーンのエチュードOp.104b/1とスクリャービンのピアノソナタ第2番を演奏した。玉を転がすような美しい音色が評判を呼び、翌日に再び出演を果たした。今春ロシアのクレムリン音楽祭へ阪田知樹さんと共に出演を果たしたほか、ベルギーの室内楽研修会に参加して世界34か国65名の10代演奏家と音楽交流した中村さんは、場数を踏んでまた一段と成長したようだ。今回は日本の親善大使のような役割を果たしたとともに、日本の未来に大きな期待が持てることを示してくれた。
またこうした若い才能を日本国内のみならず、アジアや欧米を含めた世界に視野を広げ、音楽交流の場を増やしていくのは今後大きなミッションとなるだろう。福田専務理事のスピーチには英国からの参加者も共感を示していた。西洋から東洋へという一方向的な図式はすでになく、各個人・各国がそれぞれのアイデンティティとプライドをもって文化を発信し、緩やかに自在につながっていくのが21世紀の姿である。その未来像があらためてFACPの場で共有された。
音楽ジャーナリストとして各国を巡り、国際コンクール・音楽祭・海外音楽教育などの取材・調査研究を手がける。『海外の音楽教育ライブリポート』を長期連載中(ピティナHP)。著書に『ハーバードは「音楽」で人を育てる~21世紀の教養を創るアメリカのリベラル・アーツ教育』(アルテスパブリッシング・2015年)、インタビュー集『生徒を伸ばす! ピアノ教材大研究』(ヤマハミュージックメディア・2013年)がある。上智大学外国語学部卒業。在学中に英ランカスター大学へ交換留学し、社会学を学ぶ。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会勤務を経て現職。2007年に渡仏し「子どもの可能性を広げるアート教育・フランス編」を1年間連載。ピアノを幼少・学生時代にグレッグ・マーティン、根津栄子両氏に師事。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。 ホームページ:http://www.erikosugano.com/