第一部<第17回>作品における九星 II
作曲家の書く作品が、その年の九星から影響を受けているのか、いないのか。私が20代の頃から考えてきたこの問題は、その因果関係を明確に否定するだけのデータが見つからないことで、信憑性が浮上してきたものです。
作曲家と年回りの相生・相尅関係がもたらす作品の表情を解晰する上で私がモデルとしたのは、当時9割以上の作品を知っていた、ドイツのB・A・ツィンマーマン(1918~1970)とイタリアのG・F・マリピエロ(1882~1973)でした。どちらも一白午歳です。
ここでは、ピアノに関わる人たちに分かり易いよう、ベートーヴェン、ショパン、シューマン、リストの4人の代表作を表にまとめてみました。(作曲年の九星を特定し難い作品は省きます)。
改めてカテゴリーの内容を整理しましょう。
歳から見て作曲家が「子供」となるため、家庭的、子供らしさ、くつろぎ、希望が反映する。幸福な表情の作品が多い。
歳からは「親」と写るため、崇高・厳格・深遠さ・正装した感じ・オーソドックスな作曲家像が写り易い。
作曲家の本質がストレートに打ち出される。「正装」のような整った感じではなく、なりふり構わず魂に迫るような感覚。独白的で色彩感はない。
歳が襲いかかるため、暴力的・過激・無謀・異常性・狂気等が反映。「革新性」という形で現れることも。
歳が萎縮してしまい、遠慮しておとなしくしている感じ、もしくは焦燥感・怯えた表情。支合・三合は尅気が相生に変化。
いづれも「歳」を主体と見ることがポイントです。
一般に代表的名作はA.B.Cに該当しますが、D.Eもその性格にハマった場合、格別な効果を発揮します。Dのベートーヴェンの「運命」が象徴的です。では、「田園」は何故か?
あれは、嵐のシーンを書きたいがために前後をしつらえたと考えられます。もし、嵐が無ければ、全く脳天気なBGM組曲になってしまいます。この曲で重要なのは、ベートーヴェンがドイツの作曲家でないことを決定的に証明している点です。このような色彩感・模写性はドイツの風土からは程遠いものです。私は、明らかにオランダの光景を感じます。
ショパンの「ピアノ協奏曲」はどうでしょうか。
2曲共Dに属しますが、ショパンの感性とは異質のオーケストラに挑戦すること自体、一種の"暴挙"と言えなくもありません。得難い名曲とはいえ、ショパンの最高ランクの作品に位置付けられるかどうか。
できれば皆さん自身がこの表を補足し、その性格を考えてみて下さい。洞察力と共に、表現の新たな可能性が得られるかもしれません。
Beethoven | Chopin | Schumann | Liszt | |
A | ソナタOp.31-2「テンペスト」 ソナタOp.109 |
ワルツOp.18 スケルツォ第1番Op.20 バラード第3番Op.47 |
(パピヨンOp.2) ミルテの花Op.25 第1交響曲Op.38「春」 女の愛と生涯Op.42 (森の情景Op.82) |
○顕現 ソナタ バラード第2番 |
B | ソナタOp.57「熱情」 ○(ソナタOp.111) (ディアベリ変奏曲Op.120) |
◎(バラード第1番Op.23 ) ◎幻想即興曲Op.66 ◎2つのノクターンOp.27 |
◎(ソナタ第1番Op.11) ◎(謝肉祭Op.9) |
超絶技巧練習曲集 パガニーニ大練習曲集 2つの伝説 忘れられたワルツ第1番 灰色の雲 |
C | ◎第3交響曲 Op.55「英雄」 ◎(ソナタOp.106「ハンマークラヴィーア」) (第9交響曲Op.125) |
スケルツォ第2番Op.31 ○(バルカロールOp.60) ○(幻想ポロネーズOp.61) |
ダヴィッド同盟舞曲集Op.6 幻想小曲集Op.12 (交響練習曲Op.13) |
○半音階的大ギャロップ ○ハンガリー狂詩曲第2番 |
D | ○(ソナタOp.13「悲愴」) 第5交響曲Op.67「運命」 第6交響曲Op.68「田園」 Op.130~135までの 弦楽四重奏曲 |
エチュードOp.10-12「革命」 ○第1協奏曲Op.11 スケルツォ第3番Op.39 ○ポロネーズOp.53 「英雄」 ○スケルツォ第4番Op.54 |
3つのロマンスOp.28 〇ピアノ五重奏曲Op.44 |
◎ハンガリー狂詩曲第1番 ◎悲しみのゴンドラ |
E | ソナタOp.27-2「月光」 ○(「エリーゼのために」) |
○ポロネーズOp.40-1「軍隊」 | ○子供の情景Op.15 ○クライスレリアーナOp.16 ○フモレスケOp.20 ○ノヴェレッテOp.21 |
○リゴレット・パラフレーズ エステ荘の噴水 |
( )は異なる五行年からの継続作
◎は支合年、〇は三合年を指す
(2018.2.16)
作曲家でピアニストの金澤攝氏は数千人におよぶ作曲家と、その作曲家たちが遺した作品を研究対象としています。氏はその膨大な作業に取り組むにあたって、「十二支」や、この連載で主にご紹介する「九星」を道しるべとしてきました。対人関係を読み解く助けとなる九星は、作曲家や、その人格を色濃く反映する音楽と関わるに際して、新たな視点を提供してくれるはずです。「次に何を弾こうか」と迷っている方、あるいは「なぜあの曲は弾きにくいのだろうか」と思っておられる方は、この連載をご参考にされてみてください。豊かな音楽生活へとつながる道筋を、見出せるかもしれません。 (ピティナ読み物・連載 編集長)