第一部<第11回>十干(じっかん)
九星間における相生・相尅・比和の関係については一通り了解されたことと思います。
とはいえ、五行では相尅ながら、なぜか仲良くできる人、惹かれる関係というものが存在します。あるいはその逆もあり得ます。
こうした"例外事項"を解明するには、十二支の知識が必要になってきます。先のカザルスとバッハが親和したケースは、これで説明がつくのです。
そもそも十二支と切っても切れない関係にあるのが「十干」で、これらも五行で構成されており、この二つが結びついて暦が成立し、十干は「天」、十二支は「地」を表わすものとされています。十二支に先立ち、十干について簡単に触れておきましょう。
十干は文字通り十種あって、木火土金火がそのまま、陽と陰の各二種で並べられています。 甲乙は木、丙丁は火、戊と己は土、庚辛は金、壬癸は水。以上の十種が十二支とセットになって、年・月・日・時を巡っています。陽干に「え」、陰干に「と」が付くので、「えと―干支」とは本来、十干を指す言葉です。10と12で60通りの組み合わせがあるので、人は生まれた年と同じ十干十二支が60年振りに回った年を迎えて、「還暦」と称します。
2018年は戊戌の九紫火星年で、九紫の戌歳は36年振り。十干・十二支・九星の3つが同じ形で揃うのは180年振りとなる訳です。
180年周期で全く同じ気が巡って来ることを考えると、作曲家の生誕記念年を祝する上で、最も重要な意味を持つのは、180年や360年、ということになります。小規模ながら、私が昨年、ユゼフ・ヴィニャフスキ(1837-1912)の作品で4回のコンサートを行ったのも、そうした事情からでした。今年の該当者にはビゼーがいます。
西暦の一の位が4の年が「甲」に当りますが、十干の五行関係が大きく影響するのは、生まれ年ではなく、生まれた日にあります。
例えば甲(木)の日生れの人は、「親」に当る壬、癸生れの人に可愛がられることが多く、甲が木の陽であることから、水の陰干、癸の人からより恩恵を受けやすいと判断します。
逆に甲の人に被害をもたらすのは「金尅木」に当る庚・辛日生れとなり、磁石と同様、陽干同志の衝突から、庚の方によりダメージを受けてしまうことになります。
こうした相生・相尅は対人関係だけでなく、巡り来る暦の十干によって、人生に好調・不調の波が生じます。四柱推命はこうした原理の集成です。
ついでながら、十干には「 干合 」と言って、本来相尅であるのに、発展的な作用をもたらす特殊な結び付きがあります。甲と己、乙と庚、丙と辛、丁と壬、戊と癸の五種類で、十干を2列に並べただけの組み合わせですから、憶えておかれると良いでしょう。(2018.1.6)
一つお断りしておきますと、本編ではこちらから責める相尅を「殺気」、責められる相尅を「死気」としていますが、二説あって、むしろ反対に書かれているのが通説のようです。どちらでもいいような話ですが、「自分が生きる、退く、殺す、死す」という観点からすると、自分が危害を与える相手を「殺気」とする方が理に叶っていると思われることから、そのままにしておくことにします。
作曲家でピアニストの金澤攝氏は数千人におよぶ作曲家と、その作曲家たちが遺した作品を研究対象としています。氏はその膨大な作業に取り組むにあたって、「十二支」や、この連載で主にご紹介する「九星」を道しるべとしてきました。対人関係を読み解く助けとなる九星は、作曲家や、その人格を色濃く反映する音楽と関わるに際して、新たな視点を提供してくれるはずです。「次に何を弾こうか」と迷っている方、あるいは「なぜあの曲は弾きにくいのだろうか」と思っておられる方は、この連載をご参考にされてみてください。豊かな音楽生活へとつながる道筋を、見出せるかもしれません。 (ピティナ読み物・連載 編集長)