会員・会友レポート

世界遺産とピアノ [前編]地域文化と楽器店~「ピアノプラザ群馬」訪問~第2回

2017/05/24
連載 ピアノプラザ群馬訪問 前編: 中森隆利氏に訊く――地域文化と楽器店
前編 : 第2回:音楽インフラとしての楽器店へ

「ピアノプラザ群馬」は、やがてピアノだけでなく、さまざまな楽器を取り扱い、地域になくてはならない存在になっていきます。地域との結びつきは、どのようにして生まれたのでしょうか。その秘訣は、楽器店を地域の強固な音楽インフラとして育てた点にあったといいます。中森さんは、製材から組み立て、仕上げ、修復、販売など、ピアノの流通にかかわるあらゆる側面に携わってきました。そのため、中森さんはメーカーとユーザーの立場を経験的に熟知していたといいます。そして自然にたどりついたのが、楽器にまつわる総合的なサービスを提供するという営業形態でした。

楽器のことならなんでも

ピアノは、独奏楽器であると同時に、伴奏、室内楽、コンチェルトにも参加します。そうとなれば、ピアノだけでなく一緒に演奏している楽器奏者も、楽器の不具合や備品の不足があればすぐに修理してもらえるような楽器店が必要です。そしてまた、演奏できる会場もあればなお理想的です。そんな発想から、中森さんは「ピアノプラザ群馬」を単なる楽器の取次店・下請け店舗とは異なる、工房(製造・修理)・ショールーム(販売)・サロン(演奏)が一体となった、総合的な楽器店へと成長させていきました。

ショールームには、多種多様なメーカーのピアノだけでなく弦楽器、管楽器なども展示され、棚にはリードやストラップなど、地域の音楽活動に不可欠な備品が置かれています。小学校で用いるアコーディオンや鍵盤ハーモニカからヴァイオリンに至るまで、ひとまずここに来れば学校の吹奏楽団や愛好家の必要は満たされるようになっています。

写真

修復は、ショールームやサロンから少し離れた流通センターで行われています。下の写真は、修復を終えてショールームに展示されているチェンバロとフォルテピアノです。

写真

サロンは「シューベルト・サロン」という定員80名程度の小ホールです(下の写真)。このサロンで演奏するのは、プロの演奏家だけではありません。控室にスタインウェイのグランド・ピアノが設置されており、手ごろな料金でグランド・ピアノ(スタインウェイとボストン)で練習することができます。また、この会場ではマスタークラスやセミナーも行われており、ピアノ教育の拠点としての機能も果たしています。こうした点にも、楽器を通して地域と店舗の結びつきを深めていった秘訣の一端が垣間見られます。

写真

このように、楽器製造、販売、演奏、修理を一手に引き受けて行うことで、「ピアノプラザ群馬」はまさに音楽インフラとして機能するようになったのです。「ピアノプラザ群馬」は創業以来40年間黒字経営を成し遂げています。群馬県が2009年、世帯当たりピアノ所有台数一位になったことは、こうした地域密着型の楽器店を育てた中森さんの長い努力が少なからず影響しているに違いありません。中森さんは国際的な社会奉仕にも積極的で、2000年にはパラオにピアノ3台を贈呈、パラオ国で初めてピアノの演奏会を開催しました。

資金ゼロからのスタートで、経験と人々の助けを頼りに会社をここまで成長させ、このリポートでは紹介しきれないほどの実績を積み重ねてきた中森さんの努力と勤勉にはただ頭が下がるばかりです。

さて、前編はここまでです。次回からは後編、「富岡製糸場・幻の『プレイエル・ピアノ』」に入ります。どうぞ、お楽しみに!

執筆:上田泰史


ピティナ編集部
【GoogleAdsense】
ホーム > 会員・会友レポート > > 世界遺産とピアノ [...