【中国訪問レポート】第4回深センピアノ音楽祭/仲田みずほさん
深圳は香港の北に位置し、北京、上海に次ぐ中国第3の都市になろうとする、人口1,400万人の大都市である。立ち並ぶ超高層ビル、美しく整備された市街地、次々と目に入る開発中エリア、飲食街での喧噪、様々なところから圧倒的なエネルギーを感じることができる。
そんな街で第4回深センピアノ音楽祭(10月14日~11月11日)が開催された。今回はアレクサンダー・ギンジン、ネルソン・フレイレ、ロバート・マクドナルド、ジェフリー・スワン、そして私の師であるオクサナ・ヤブロンスカヤなどのピアニストを中心に音楽祭が構成された。そして幸運なことに、私はその中で2つのリサイタルと、子供達のコンサートのゲスト演奏をさせて頂いた。
スケジュールはリサイタルが2日連続し(異なったプログラム!)、更に2日目のリサイタルの前に別会場でゲスト演奏という、なかなかハードなものだった。
1日目のリサイタル前日、コンサート用のピアノ選びのために、深セン国際空港へ向かった。そこにあるのはなんと500台以上を所有するピアノ博物館。音楽祭を主催するDanny Hui氏が集めたものだという。空港の吹き抜けとなっている2階部分にこんなにたくさんのピアノを展示しようなどと、どうやって思いつくのだろう、私は滞在1日目にして、その発想の自由さと、スケールの大きさにすっかり圧倒されてしまった。今私が研究している作曲家、アントニオ・ソレールの時代のピアノも多くありそうだったが、残念ながら一台一台じっくり見る時間がなく、とりあえず何台か試弾してリサイタル用のピアノを選んだ。
音楽祭のコンサートには聴衆の年齢制限を設けているものと、そうでないものとがあり、私のコンサートは若手演奏家によるものということで、年齢制限はなし。舞台に出た時はお客さんの中に子供が多いことに驚いた。Hui氏が、去年まで施行されていた一人っ子政策もあって、親は教育に大変熱心で、子供にコンサートで生の音楽に触れさせたいと強く願っていると話してくれた。
街では音楽祭に関連して様々なイベントが行われ、その中には、ピアノを学ぶ子供達によるピアノマラソンコンサートのようなものもあった。去年は4日連続で朝から晩まで行われたという。少し覗かせてもらったが、そこも満席。アドバイザーこそいないものの、これはピティナでいうステップのようなものなのだろうか。
ソロのリサイタルにプロの司会がつくのも興味深かった。開演前、休憩後、終演のタイミングで司会の方が曲目紹介も含めて観客に話しかける。語り方といい、ホールの開演を知らせる音といい、楽しみにしていた新作映画が始まるかのような空気感を作り出していて、それは何か新鮮に感じられた。
様々なことに驚きながらも、スタッフの手厚いサポートのもと、3つの演奏会はなんとか終わった。弾いていくにつれて、観客からのエネルギーに飲まれないよう、自分の中で少し演奏スタイルを変えていくような感覚があった。終演後、何人かの中国人ピアニストを思い出し、その演奏スタイルに心から納得した。
深センの市議会は2004年に、文化レベルを上げることを決議し、「ピアノの街」つくりを宣言したという。この音楽祭もその一環としてスタートしたものであるが、全ての音楽イベントにお客さんがたくさん詰めかけていたこと、その中に若い人が多かったこと、そして何より今回出会った人々の音楽へかける想いがとても熱かったことに、この音楽祭はこれからもますます大きくなるのだろうと確信した。そのような中で今回弾かせて頂けたことを心から感謝したい。そして、この中国で接した爆発的なエネルギーと、人々の音楽にかける期待は私にとって大いなる刺激であった。新たな活力をもらって帰国の途についた。